ガンコな便秘に苦しみ、つい便秘薬に頼ってしまう人も多いのでは? 続けると腸の機能が低下し、自然な排便ができない身体に! でも、正しいケアを行えば、薬に頼らずスムーズな排便は可能に。ポイントは自分の便秘タイプを知ること。タイプの調べ方と自分でできる簡単テクを紹介。
50歳で急に便秘になるワケは?
「もう3日も便が出ない」「毎日、排便はあるけれど、なんだかスッキリしない」
今までは快便だった人も、なんだか最近、おなかの調子が悪い……。50歳前後の女性によく見られる症状だ。
「更年期に入ると便秘になる人が増えます。ホルモンの影響で自律神経のバランスが乱れてしまうことも理由のひとつですが、見逃せないのが運動不足による筋力の衰えとダイエットの影響です」と言うのは、みなと元町内科クリニック院長の笠木伸平先生。
年齢を重ねると、何か運動していない限り、どんどん筋力は衰えていく。特に腹筋は便を出すときに必要な筋肉。腹筋がゆるんだままでは、おなかも動かず、便を出しにくくなるのは当然のことだと言う。また、更年期前後からダイエットを始める女性は意外と多く、これが便秘につながっていく。
「ダイエットで食事を減らすと、同時に水分と食物繊維の摂取も減るため、腸内環境が悪くなり、いい便をつくることができなくなってしまいます。便秘には主に3つのタイプがありますが、明らかに病気の場合を除き、生活習慣を見直すことで改善できるのです」(笠木先生)
なるべく薬に頼らず、毎日スルッと出す! 自分で便秘を解消できる方法を紹介。
まずは症状チェック! 便秘のタイプを知ろう
●朝、忙しくてトイレに行くタイミングを失い、便秘に……
便意を感じているのに、朝はトイレに行く時間がなく、気づくとタイミングを逃して便意もいつの間にか消失。この繰り返しで便秘に。
→Aタイプ
便はあるのに便意が少ない直腸型便秘です! 肛門に最も近い直腸まで便が来ているのに便意を感じず、直腸に便がたまって起こる。痔やトイレに行く恥ずかしさなどから排便を我慢しがちな人に多い。
●家のトイレじゃないと出ない。便秘と下痢を繰り返す
職場や旅行先など環境が変わると出なくなるなど、ストレスに敏感な人に起きやすい。便秘かと思ったら、下痢になり、その繰り返し……。
→Bタイプ
自律神経の乱れで起こりがちなけいれん性便秘です! 自律神経のうち、腸を動かす作用がある副交感神経の過緊張によって便が動かせず、便秘に。コロコロ便になりやすいが、並行して下痢を繰り返すことも。
●おなかが張って、出ても残便感。便もおならも臭い気が
もっとも多いタイプの便秘。便が腸にとどまる時間が長いため、おなかが張りやすく、出ても残便感がある。ガスもたまりやすい。
→Cタイプ
腸内環境の悪化などで起こる弛緩性便秘です! 腸管の緊張がゆるみ、腸が動かないため便が長くとどまって水分が吸収され、固くなる。おなかが張り食欲も落ちる。運動不足などが原因になりがち。
自分のタイプに合った
便秘スッキリ法をチェック(1)
◆腸を動かしてスッキリ!
【このタイプの便秘に効く】→Cタイプ
腸を動かすことでおなかの張りや硬さがなくなり、便がたまりにくくなる。おなかの血流もよくなるので代謝もアップし、冷えも改善されて、結果、脂肪がつきにくくなるメリットも。
運動不足が便秘の原因になっていることが多い弛緩性便秘の人に効果あり。
・ひざを曲げておへそを10秒見るだけゆる腹筋体操を習慣に
便を出すには腹筋を鍛えることが必要。あおむけに寝て両ひざを立て、ゆっくり頭を持ち上げておへそを10秒のぞき込む「ゆる腹筋体操」がおすすめ。完全に上体を起こさなくていいため、続けやすいはず。慣れてきたら少しずつ回数を増やしていこう。
・【おばあちゃんの知恵】「の」の字マッサージは腸の位置に合っているから効く
おへそを起点にして、手のひら全体で「の」の字を描くようにマッサージ。腸内の便の通り道に合わせて刺激するから、便意が生じやすい。おなかが少しへこむくらいの強さで優しくていねいに押すのがコツ。
・鼠経リンパ部を刺激しておなかのむくみを解消
太ももの付け根にある鼠径リンパ節は、おなかからの老廃物がたまる場所。ここを動かすと腸の動きもよくなる。壁に片手をついて片足で立ち、壁と反対側の足の付け根を大きく回す。反対側の足も同様に。
◆トイレ習慣でスッキリ!
【このタイプの便秘に効く】→A・Cタイプ
忙しい、またはトイレに行くのが恥ずかしいなどの理由から、トイレを後回しにするといつの間にか便意を感じない身体になってしまう。トイレに行くことを習慣化することが重要!
直腸型便秘の人はトイレ習慣が要に。弛緩性便秘でトイレ習慣がない人にも効く。
・便意がなくても朝食後はトイレへ
便意の有無にかかわらず、決まった時間にトイレに行く習慣をつけよう。もっともおすすめの時間帯は朝食後。朝、忙しくても10分間、トイレに座る時間を確保しよう。
・直腸型便秘の人は前かがみ姿勢を
便座に座る姿勢も重要。おなかを太ももにつけるくらいのイメージで上半身を倒して、前かがみの姿勢に。こうすると直腸と肛門がまっすぐになり、便が出やすくなる。
自分のタイプに合った
便秘スッキリ法をチェック(2)
◆自律神経を整えてスッキリ!
【このタイプの便秘に効く】→B・Cタイプ
更年期の影響やストレスで自律神経のバランスが乱れると便秘に。自律神経の中で交感神経が優位になると、腸の動きが悪くなるため、自律神経を整えることが必要。
けいれん性便秘の主な原因は自律神経の乱れ。また弛緩性便秘の人にも効く。
・おなかの冷えはNG、腹巻きを習慣に
腹巻きでおなかを温めよう。おなかが冷えると血行が悪くなり、便を押し出す力が弱まる。おなかを温めることで消化や新陳代謝もアップし、自律神経が整って便秘改善に。
・出ている人は眠っている睡眠スイッチを探る
眠るときは自律神経の中の副交感神経が優位になり、腸を動かす。音楽、香り、ヨガなど自分に合う“睡眠儀式”を持つこと、睡眠を妨げない環境作りで、質のよい眠りをキープ。
◆食生活を整えてスッキリ!
【このタイプの便秘に効く】→A・B・Cタイプ
すべてのタイプの便秘に効く。ただし、けいれん性便秘は食べる種類に要注意。
腸内環境がよければ、いい便がたくさん出るのは当然のこと。いい腸内環境、いい便をつくるのに欠かせないのが毎日の食事。食べるものを意識すれば、便秘も撃退できる。
・ヨーグルト、納豆、みそ……善玉菌はいろんな食材から
善玉菌は、いろいろな食材からとることが大切。例えば乳酸菌が腸にいいからと毎日同じヨーグルトをとり続けていると、同じ菌をとり続けることになり、便秘が改善しないことも。さまざまな種類の菌をとることが、腸内環境の改善につながっていく。
・2種の食物繊維をバランスよくとれば美便が生まれる
食物繊維は便秘解消に欠かせないもの。食物繊維には「水溶性」と「不溶性」があり、この2種をバランスよくとることが大切。ただし、「けいれん性便秘」タイプの人が「不溶性食物繊維」をとるのはNG。おなかが張り、便秘が悪化してしまうことに。
●水溶性食物繊維
《納豆 海藻類 なめこ 長芋 モロヘイヤ オクラ こんにゃく アボカド ひじき いちご》
●不溶性食物繊維
《イモ類 ナッツ類 豆類 葉物野菜 きのこ類 かぼちゃ レンコン ごぼう 玄米》
・乳酸菌、食物繊維は午前中に食べると効果が上がる
消化活動がピークになるのは正午から夕方。乳酸菌や食物繊維を食べるなら、その前の午前中がベスト。胃腸が活発に動くので便秘も解消しやすい。
薬の使い方次第で便を出せない身体に
何日も便秘が続くと、つい薬に頼ってしまうことも。
「便秘薬を一時的に飲むのは決して悪いことではありません。ただ、どの種類の便秘薬を飲んだとしても、その薬を飲むのが習慣になってしまうのは問題です。薬の効果が出ていれば出ているほど、自分で生活習慣を正して排便をコントロールできる機会は減ってしまいます。その結果、自分で便を出しにくくなり、便秘薬を手放せなくなるケースもあります」(笠木先生、以下同)
便秘が急に起きたのか、慢性的なのかによっても、対処法が違うという。
「急に起きた便秘の場合は、ストレスが原因になっていることもあります。例えば引っ越しや転職、特に人間関係の変化があったかをチェックしてみましょう。同時に睡眠はとれているのか、気温や湿度の変化があったか、そのストレスが今後も持続するかを確認するのも大切です」
慢性的な便秘は、さまざまな心理的、肉体的ストレスが以前から持続的に続いているケースや、生活習慣が影響している場合もあり、セルフチェックが難しい。慢性的な便秘なら、専門外来の受診をおすすめする。
一方、病的な便秘でない限り、軽い運動や食事や睡眠など生活習慣の工夫で便秘は改善可能。
「毎日の生活で、どこか不規則なところがあれば改善し、規則正しい生活に戻す必要があります。よく言われることですが、朝起きて、朝食を食べてトイレに行き、日中は適度に動くこと。また昼食や夕食を決まった時間に食べて、夜更かしせずに寝ること。とても簡単なようでいて、この当たり前のことができていない人が多いのです」
まねしやすい便秘解消テクを紹介したので、ぜひトライしてみてほしい。
「排便は基本的に毎日のこと。紹介した方法を、自分の便秘のタイプに合わせて無理のない範囲で地道に続けることで、便秘は改善していくはずです」
・腸がねじれる病気「腸閉塞」で便秘が起こっていることも
便秘の中には、明らかに病気が原因のものも。そのひとつが「腸閉塞(イレウス)」です。腸閉塞は何らかの原因で、腸管の流れが阻害されてしまう状態のこと。排便ができなくなるだけでなく、嘔吐することも多いため、悪化する前に受診する必要があります。
みなと元町内科クリニック院長。神戸大学医学部卒業後、米国国立衛生研究所の特別研究員、大学病院勤務などを経て2018年に開業。丁寧な問診で薬がいらなくなる診療を目指している。
(取材・文/樋口由夏)