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 いまや、70歳以上の人の半数以上が所有しているというスマートフォン。長引くコロナ禍で自宅に閉じこもりスマホでゲームをしたり、ニュースなどを見るのが習慣になった人も少なくないのでは?

「今年は帰省せずに実家の両親とテレビ電話で話したときのことです──」

 と話すのは東京都在住の高橋肇さん(仮名・40代会社員)。

急に両親のもの忘れがひどくなった

 肇さんの両親はともに70代。仕事はせず、貯金を崩しながら年金で生活している。普段2人きりで過ごすことが多く、会話も減っていたことから肇さんは一昨年、スマホをプレゼントした。テレビ電話で会話したり、孫ともLINEのやりとりができると、両親は喜んでいたのだが、肇さんは最近“ある異変”に気がついた。

「急に両親のもの忘れがひどくなったように感じました。きれい好きだった母は部屋の掃除もほとんどせず、父はイライラして、母を怒鳴ったりして……」

 両親の変化に認知症ではないかと疑ったというが──。

「スマホを使いすぎると『認知症』のような症状になる可能性があるんです」

 そう指摘するのは脳内科医で『加藤プラチナクリニック』の加藤俊徳院長。

「もの忘れや注意力の欠如、やる気の低下。ほかにも感情が乏しくなる、キレやすくなる、他人に無関心になる、これまではできていた家事や趣味などが急にできなくなるなど、認知症とも似た症状があります」(前出・加藤院長)

 冒頭の高橋さんには心当たりがあった。

「父は囲碁や麻雀のオンラインゲームをずっとやっていました。母も昔のドラマの配信を毎晩見て、いつも寝不足でした。2人とも常にスマホを持ち歩いていましたね……」

 スマホの依存症は一般的に若年から中年層に起こりやすいが、

「今はまだ高齢者から相談を受けたことはありません。ですが、スマホを使用する高齢者はここ数年で増えています」(前出・加藤院長、以下同)

 今後、『スマホ認知症』になる高齢者は急増することが予想される。

画面の長時間注視で脳が劣化する原因に

 では、なぜスマホ認知症は起きるのか──。

「原因のひとつに考えられるのはスマホの画面を注視し続けることです」

 テレビより近い距離で小さな画面を長時間、見続けることで眼球運動の範囲が狭くなるのだ。

「目を動かさないと、画面以外に注意が行きづらくなる。実は私たちは目を動かすことで、脳のいろいろな場所を刺激しています。でも目を動かさなくなると脳の一部分しか刺激されない」

 結果、使っていない脳の部分が劣化し、衰えていく。

 さらにスマホに依存すると、外出も億劫になる。日光に当たらなければビタミンDが不足し、うつ症状があらわれたり、骨も弱くなって身体機能が低下。心身ともに弱ってしまうのだ。

 そしてスマホ依存が続けば、不眠症になる可能性も高まる。

「昼夜が逆転して睡眠リズムがおかしくなると、脳の働きが乱れます。また、高齢者が睡眠リズムを崩すと元に戻すのは難しい」

 もし、認知症患者がスマホを依存的に使っていた場合、その症状を加速させてしまうおそれがあるという。

「不眠は認知症のリスクを高め、症状を悪化させます。本来の脳は日々いろいろな刺激を取り入れることが健全なんです。毎日、同じことを繰り返すということは、どんなに高度な作業をしていても、脳の機能をいびつにしていくんですね」

 では、『スマホ認知症』は治療できるのだろうか。

「正確には認知症ではなく『スマホ認知機能障害』といいます。完治できない認知症と異なり、治療すれば元の状態に回復する可能性が高いんです」

 スマホが原因で起こる症状と認知症を見分ける方法はあるのだろうか。

「非常に難しいです。判断材料となるとすれば1日のスマホ使用時間でしょう」

 発症する連続使用時間の研究は行われていないが、1日中スマホばかりを使っていて、なおかつ前出の症状があるならば『スマホ認知症』である可能性が高いとみられる。

 高齢の両親が『スマホ認知症』かもしれない、と思ったらどうしたらいいのか。

「必ず医師と相談してください。荒療治として強制的にスマホを取り上げてしまえば、禁断症状が起きます。暴れたり、うつ状態になったり、非常に危険なことになります」

時間を決めてダラダラ使わない

 ただし、『スマホ認知症』は心がけひとつで回避することもできるのだ。

「まず常に持ち歩くことをやめることです」

 例えば1日のスマホ使用時間を決めておく。午後6時以降は電源を切って、タンスの中など見えないところにしまうといった工夫をしよう。

「ゲームも動画視聴も時間を決めて、ダラダラ使いをしない。それにスマホの長時間使用の有無にかかわらず、外出自粛で家にいる時間が長くても、夜更かししないで朝もちゃんと起きるなど規則正しい生活を送ることが大切です」

 ほかにも自然の中で軽く身体を動かしたり、スマホを使わない趣味に没頭する時間を定期的に持つことも『スマホ認知症』にならないための第一歩だ。

「離れて暮らす両親には“〇月に行くからね”と伝えたり、次の予定を具体的に立てましょう。そして、こまめに連絡をとること。寂しさはスマホにどっぷりつかってしまう原因になります」

 高齢の両親とメールやLINEだけでなく、手紙を交わすことも予防になる。

「手紙は何を書こうか考えますし、間違えないように気も使います。便せんも用意しなければいけません。自分からあれこれ考えて積極的に動くことが脳にはいいんです」

 リスクがあるのは高齢者だけではない。実は50代、60代こそ気をつけなければいけないのだ。

「高齢者以上にスマホを使う機会が増えています。スマホの使いすぎで不眠ぎみ、不規則な生活が続けば、それは将来的に認知症そのものになるリスクも高めているんです」

 年末年始を自宅で過ごし、スマホ三昧だったあなた。スマホを家に置いて、密を避けながら散歩に出かけてみては。

『スマホ認知症』を防ぐ8つの生活習慣

「私は大丈夫」は落とし穴──。最近、スマホを触る時間が増えていませんか? そこで日ごろの生活を振り返ってほしい! 普段心がけているものにチェックをつけよう。

□規則正しい生活を送っている
□スマホを使う時間を決めている
□午後6時以降、スマホは使わない
□運動をするなど、日ごろから身体を動かしている
□スマホを使わない趣味がある
□日記や手紙を書いている
□家族や友人とこまめに連絡をとっている
□認知症の検診に定期的に通っている

*チェックの数が5個以上なら油断せず。3、4個は要注意。0~2個はスマホの使い方の見直しを!


加藤俊徳医師(脳内科医)
加藤プラチナクリニック院長、「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。脳番地トレーニングの提唱者。加藤式MRI脳画像診断法を用いて、認知症、発達障害を診断治療。著書に『脳が若返る! 記憶力育成ドリル』(宝島社)ほか多数