コロナ禍で再び注目が集まっているエンディングノート。ただ、項目が多くて書くのが面倒……という人もいるのでは?“これだけ書けばOK”というポイントにしぼって解説。残された家族の「困った」やトラブルも減らせます。
家族が知ってる情報は書き残さなくてOK
「コロナ禍で死がいつ訪れるかわからないというムードが高まり、エンディングノートに興味を持つ人が増えています」
そう話すのは、相続・終活コンサルタントで行政書士の明石久美さん。エンディングノートは“家族が困らない”ために役立つが、ポイントを押さえなければ、揉めごとの種にもなると指摘する。書くべきこと、書かないほうがよいことの仕分けが重要だ。
「エンディングノートに書くべきことは、基本的に(1)医療情報(2)葬儀やお墓など供養に関する情報(3)財産に関する情報の3点。本人しか知らない情報を主に残します。エンディングノートは、医療、介護、葬儀、お墓、財産、遺品、趣味・嗜好など多岐にわたる情報を残すツールです。しかも、今まで考えたことのない質問もあり、行き詰まってしまう人もいます。まずは、事実情報から作成するのがコツです」(明石さん、以下同)
大切なのは、エンディングノートを書くことを面倒くさがらず、まずは「始める」こと。そのためには、家族が知っている情報はわざわざ書かなくてよいし、逆にインターネットを利用した取引など、家族と共有していない情報があれば書き残す。
「“本当に必要なことをラクな方法で最低限残す”と気軽な気持ちで書きましょう」
要望はあえて書かない
一方、“介護は長女にお願いしたい” “自宅での介護を希望” “葬儀は家族のみで行ってほしい” “遺骨は海に撒いてほしい”といった要望を書くのは、なるべく控えたい。
「要望を残すことで、それを行う家族が困る場合があるため、あえて書き残さず家族に任せるのも一案です。要望については、事前に“自分はこう思うけど、どう?”など、できれば話し合いを。家族の意向を確認するなど、情報共有することが大切です」
ノートを書いた後は、誕生日や年末年始などの節目に、定期的に確認をして追記や修正を。最近は、パソコンやスマホを使って作成できるエンディングノートもあるが、保管先にアクセスできなかったり、データ自体が破損する場合があるので、印刷して手元に置いておくと安心。
「読者世代は、親の情報を残しておこうと思い始めるころ。加えて、万が一に備えて自分のエンディングノートも必要な世代です」
まずは、自分自身のノートを作成し、ポイントを押さえれば、親が書くときにサポートができる。最低限必要な3項目と注意点を詳しく解説。
【エンディングノートと遺言書の違い】
〜エンディングノート〜
●書く内容
病気、介護、葬儀、墓、財産、遺品、自分史、趣味・嗜好など
●書き方(方式等)
専用のノートや、自分で自由に作成する
●法的効力
なし
●費用
0円(ノート代除く)
●問題点
・注意点をわかったうえで作成したか
・要件を満たすと自筆証書遺言になる
〜遺言書〜
●書く内容
相続分の指定や財産の処分、認知等身分に関すること
●書き方(方式等)
あり。要件を満たさなければ無効
●法的効力
あり。死後に効力を発する
●費用
自筆証書遺言0円~3900円(法務局保管の場合)、公正証書遺言(公証役場の手数料)3万円~
●問題点
・不備のない遺言内容を自分で書けるか
・次の相続や争族対策を考えたか
出典:明石久美さん作成資料より
【書いておきたい3つの情報】
(1)万が一のときの医療関連の情報
病気の告知、延命の希望は理由が大切!
初めに必ず書いておきたいのは、いざというときのための情報。
「氏名などの基本情報のほか、緊急連絡先や病歴、アレルギーの有無などをまとめておきましょう。救急隊が見ることも想定し、書いたページをコピーして玄関先に置いたり、保険証と一緒に保管しておくのがよいです」
緊急時の情報をまとめられる「救急医療情報用紙」を提供している自治体もあるので活用を。
余命に関わる病気の「告知」、手を尽くしても回復しない状態のときの「延命治療」など、人生の最期についての要望も書いておくことで家族の負担を減らせる。ただし“要・不要”の意思だけでなく理由を書くことが大事。
「例えば、動けるうちに○○をしておきたいなど、病気の告知をしてほしい理由がわかれば、家族は判断しやすいですし、それを叶える手助けができます。延命治療を望まないなら“意識がない状態で管につなげられて生かされるのは絶対にいや”など、思いの程度も書きましょう」
〜残すべきこと〜
●救急隊員に向けて
・氏名、生年月日、血液型、緊急連絡先
・病歴、手術歴、持病、アレルギーの有無、かかりつけの医療機関、日常飲む薬やお薬手帳の保管場所
●延命治療、病気の告知について(理由も)
〜残しておいてもいいもの〜
●臓器提供について
希望の有無。臓器提供は年齢制限があるので、希望どおりにいかない場合も多い
●献体について
献体は事前に登録が必須。登録をしているなら、その連絡先を書いておく
(2)葬儀やお墓に関すること
親心で簡素な葬儀を希望するのは逆効果
「子どもに迷惑をかけないようにという思いで、家族葬や火葬のみといった簡素な葬儀を選ぶ人もいますが、書く前に一考を。親の希望を叶えた結果、親戚からの心無い言葉で傷ついたり、後日の弔問で時間を取られたりすることも。葬儀の要望よりも訃報の連絡先を残し、あとは家族に任せるのでもよいのです」
また、葬儀のときすぐに必要になる菩提寺の連絡先や遺影用の写真の保管場所も書いておく。写真がデータの場合は生前に家族へ送っておくのもよい。すでに葬儀社の予約や見積もりがすんでいる場合は、書類を添付しておく。
「葬儀の要望を残すなら、祭壇に使う花や色合い、棺に入れてもらいたい物などを残すのがいいと思います」
お墓についても、実際に供養をする残された家族のことを考えることが大事。
「“親の希望どおり散骨したけどやっぱり墓が欲しかった”という人もいます。要望を残さずあえて供養する人たちに任せるのも一案です。管理しているお墓がある場合は、お墓を継ぐ人に情報を残します。子が継げない場合は、親戚に継いでもらえるか確認し、親戚も継げない場合は“墓じまい”を考える必要があります」
〜残すべきこと〜
・菩提寺の名称、宗派、連絡先
・積立、予約、予定する葬儀社の連絡先
・訃報の連絡先
・遺影用の写真の保管場所と指定
〜残しておいてもいいもの〜
・祭壇の雰囲気の希望(好きな色合い、花など)
・旅立ちの服
・お棺に入れてもらいたい物
〜現在の祭祀承継者である場合〜
・墓地管理者と石材店の名称と連絡先、墓地規約の保管場所、年間管理料、法要のときのお布施、戒名の値段例など
(3)お金にまつわること
財産がいくらあるかは書き残す必要なし!
お金については必要最小限の情報をなるべく手間をかけずに残すことを心がける。
「財産目録のように、預金残高や持っている株の評価額まで書く人もいますが、そんな個人情報を公開する必要はありません。大切なのは“どこと取引があるか”を家族に伝えること。取引先と口座番号などがわかればよいのです」
不動産など、すでに家族と共有しているものは省いてよし。逆に、定期的な支払いは記帳しても取引先がわかりにくいため、解約が必要なものは連絡先を残す。
「ノートに書くのが大変なら、“口座引き落とし(またはカード払いなど)の定期購入のサプリ”といったメモを契約書や送り状などに貼って、“解約が必要なもの情報”として袋にまとめておくのがおすすめです」
また、保険証券や有効な契約書(賃貸借契約など。権利証などの重要書類は家族に口頭で伝える)は、保管先がわかれば大丈夫。なお、エンディングノート自体には法的効力がないので、財産の分け方は書かず、遺言書の作成を。
〜残すべきことと書き方のポイント〜
●取引先銀行の情報
銀行名と支店名、口座名、口座番号のほか、利用目的や引き落とし情報もつけ加えるとよい
●クレジットカード
カード会社とカード番号のみでOK。カード会社の連絡先と年会費、利用目的などもあると役立つ
●不動産
住所と契約書(権利証を除く)の保管場所は必須。自宅はわかるので、家族が知らないものだけでよい。賃貸借している場合は契約内容と相手の連絡先も
●株式、投資信託などの有価証券
取引している証券会社と支店名、口座番号がわかると相続時の対処がラク。株数や評価額は不要
●ローン・借入金、貸しているお金など
取引先の連絡先を残す。保証人になっている場合はその旨も。書きたくない場合は、契約書類や明細の保管場所のみを書くか誰かに伝えておく
●生命保険、損害保険など
保険会社と保険証券番号、保険の種類を。「葬儀費用に」など加入目的も書いておくとよい。面倒なら保険証券などの保管場所を書いておく
●口座引き落とし
引き落とし先の銀行やクレジットカードの情報の備考として書くか、取引先との契約書や購入品の送り状などを袋にまとめておく
●遺言書の有無
有無がはっきりしない場合、遺言書を探すこととなり手間に。遺言書の有無と保管場所をあえて書き残さない場合は、誰かに伝えておくこと
〜書いてはいけない!〜
●通帳残高
書き残す目的は取引先を明確化すること。銀行名と支店名、口座名、口座番号などのみで、財産がどれくらいあるかは書かない
●通帳、印鑑の保管場所
セキュリティー的に絶対ダメ。口頭で家族に伝えておくこと。エンディングノートの内容は第三者が見てもいいものに
絶対に残したい!!デジタル遺産情報
昨今はネット銀行やWEB通帳、ネットショッピングなどのWEB取引利用が増え、インターネットのサイトを開かなければ、銀行の預金額や明細すら確認できないことも少なくない。ネット利用や電子マネーなどの取引があれば、必ずわかるようにしておきたい。
「本人が書き残さなければ、どこと取引があるか家族が調べるのは大変。WEB取引はIDやパスワードといった本人しか知らない情報も必要だからです。また、電子マネーに数万円も残高がある場合も。銀行だけでなく、電子マネーの利用やよく使っているショッピングサイトもわかるようにしておきましょう。
“ポイントが貯まっているよ” “オートチャージを止めてね”などのひと言をつけ加えておくと、親切です」
インターネットの利用先は、URLとアカウントやID、パスワードと一緒に一覧にまとめておくこと。使用していたパソコンやスマホなどが開けないと困るため、パソコンやスマホ自体のロック解除の方法も残す。
〜インターネットの利用先一覧の記入例〜
利用先/URL/アカウントやID/パスワード/備考
・〇△銀行/〇△bank.co.jp/5678/6***n***/メインの口座として利用。WEBパスワードは別途記載
・Mクレジット/mcard.com/abc@kkk.co.jp/9***y***/WEB明細で確認。〇△銀行から毎月30日に引き落とし
・Aサプリ/asapuri.co.jp/abc@kkk.co.jp/7***y***/2か月ごとの定期購入。要解約。Mクレジットで決済
パスワードはヒントを記入。別のメモに「パスワード」とは書かず、一覧表に書いたパスワードのヒントと照合できるよう、記号の羅列だけを並べて書く。メモの保管場所は口頭で伝える
出典:明石久美さん著書『読んで使える あなたのエンディングノート』より
トラブルを避けるための記入ポイント
(1)「自分」や「自宅まわり」のちょっとしたことは家族にお役立ち
●マンション・アパートの場合
住居の賃貸契約書類の保管場所とあわせて、郵便ポストや宅配ボックスのロック解除の方法、駐車場や駐輪場の契約の有無も記載。「ポストに手紙があるのに、ロックが解除できず確認できないということを防げます」
●分譲住宅の場合
管理組合の連絡先だけでなく、管理費や修繕積立金など、維持費として必要な経費については、金額だけでなく、いつ、どのように支払っているかわかるように。住人が参加する清掃の当番などもわかるとよい
●外部契約をしているもの
レンタル菜園、レンタルボックス、貸金庫、最寄り駅の駐輪場の利用の有無など。契約書があればまとめておき、保管場所を書いておく。「住居以外の場所にあるものは、同居していない限り、把握しづらいです」
●本籍地住所と筆頭者名
現在から出生時までの本籍地住所と筆頭者名がわかると、戸籍謄本取得時に役立つ。「相続手続きでは故人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本が必要です。市区町村まででもよいのでわかる範囲で書いておきましょう」
●ペット
予防接種の履歴やかかりつけ医、食べ物の好き嫌いといった世話のポイントなど。「一緒に世話をしている同居人など、すでに引き継ぐ人が決まっている場合はその人に伝えておくだけでOKです」
●趣味・嗜好
食べ物、味つけ、香り、色、音楽、場所などの好き嫌いや趣味に加え、最後に食べたい・行きたい場所なども。「家族や介護者に自分の好きな状態をつくってもらいやすくなる。意思表示ができなくなったとき役立ちます」
(2)書いて残すより、生きているうちに配慮すべきことも
●介護
「介護は自分でできないものだから、基本的にすべて“要望”になります。突然、指名された人は戸惑ってしまいます。誰にどこでお世話をしてほしいといった思いがあるなら、元気なときに話し合っておくのがおすすめです」
●形見分け
「もらった側は迷惑になることも。また、もらえなかった人との間でトラブルを生むことも少なくありません。譲りたい物があれば、生前にそっと譲る。そのほかは、残された人でご自由に、というほうがよいと思います」
●家族への思い
エンディングノートは、生前に見られることもあるので、メッセージを残すのはあまりそぐわない。「手紙にして死後に見つかるようにしておく、という手もありますが、感謝の気持ちなどは直接伝えたほうが家族もきっとうれしいはずです」
お話を伺ったのは……明石久美さん ●相続・終活コンサルタント、セミナー講師。相続専門の行政書士として、遺言書作成、相続手続きなどを主に行う。著書に『読んで使える あなたのエンディングノート』(水王舎)
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