「今までにいろんな映画に100本以上出ましたが、こういう役は初めて」
映画『老後の資金がありません!』(10月30日[土]全国公開)で草笛光子が演じているのは、姑・芳乃役。
主婦・篤子(天海祐希)は慎ましい生活を送っていた中、舅が亡くなる。葬儀代は、姑の見栄により400万円! 娘(新川優愛)は年収150万円のバンドマンとの結婚を決め、派手な披露宴を希望。さらには夫(松重豊)も自分もリストラの憂き目に。姑への仕送り(月額9万円)がきつすぎて同居を開始するも、姑は湯水のごとくお金をジャブジャブと……。
「(演じた芳乃は)天真爛漫と言えば言葉はいいですけど、周りに迷惑をかけても平気な女性。不安に思い、“どうやってこの役を演じたらいいでしょうか?”と監督に伺ったら、“変に演じず、どうぞ草笛さんのままでやってください”と。何をやってもいいと言われることほど、困ることはないですよ。だから、この役がよかったら監督のおかげ。悪かったら……監督のせいね(笑)」
役への思いとセリフへのこだわり
“老後資金は2000万円”といわれる昨今、お金を通じて家族のあり方と幸せの形をポジティブに問う本作。生活費に四苦八苦する篤子に、“人間、わがままに生きたほうが勝ちよ”と言い放つシーンには、たまらぬ爽快感と説得力が。
「あのセリフ、人生が楽になりますね。人生、もちろん苦しいこともいっぱいあるけれど、大らかに楽しくできる人間でいたいですから。
実は、最初は別のセリフだったけれど“書き換えてください”と頼みました。そうしたら、監督と脚本家でいい言葉を探してくださって。やっぱり私たち女優はお客様に言葉を伝える立場。いい言葉をいただくほどに、自分が感動する。そして、その感動をお客様に伝える。私にとってこれはとても大事なんです」
そのひとつのセリフを言いたいがために、仕事を引き受けていると笑う。
クレジットカードで払うのは、つまらない
「お金の使い方は芳乃さんほどじゃないけれど、多少は似ていますね」
大女優のお金の使い方を聞いてみると……?
「浪費家ではないけれど、仕事をした後は“お疲れさま! さぁ、ゴハンに行きましょう!”って言うタイプ。その後で“お財布にいくらあったかしら?”って思います(笑)」
草笛を慕う女優は多いが、中でも中谷美紀(45)からは“お母さん”と呼ばれるほどの間柄。
「美紀さんと一緒に一昨年、ウィーンにニューイヤーコンサートを見に行きましたが、私、あの街がとても気に入ったんです。美紀さんも住んでいらっしゃるし、年に1度は行きたいと思うけれど、飛行機代が高いんです。“困ったわ。お金を貯めなきゃ”と美紀さんに言ったら“お母さん、クレジットカードを使ってマイルを貯めればすぐよ”って教わりました」
しかしながら、お支払いはもっぱらの現金主義。
「カードで払うのって、なんだかつまらないのよね。小切手を書いて渡すのも嫌い。お札を数えながら渡すのが気持ちいいのよね(笑)」
ゆえに、マイルは全然貯まらないのだそう。
朝、目覚めないような死に方をしたいなと思う
10月22日に米寿を迎えたばかり。88歳で第一線で輝き続ける女優は、もちろん稀有だ。
「米寿ってそんなに大変なことですか? そこまで生きてきちゃっただけ。だんだん自分の周りにいた人が亡くなっていくでしょう。昔は近所に、池内淳子ちゃんも住んでいたんだけど、早くに亡くなってしまって……。でもね、いいの。楽しく生きていれば、いつお迎えが来たっていいじゃない? 明日の朝、目が覚めないような死に方をしたいなと思うわね。人に迷惑をかけないように」
死生観にも、その快活な人柄と威厳が感じられる。草笛のように素敵に年を重ねたい──。そう憧れる女性は多い。
「そうですか? “素敵に”じゃなくて“元気に”でしょう? 元気がいちばん、楽するな! その心は、やっぱり身体を動かしていなきゃダメってこと。自宅は3階建てですが、毎日の階段の上り下りで自分の今の体力がわかる。上るときより、下りるときのほうが股関節のためになるのよ」
その若さの秘訣も、ぜひ知りたい!
「物事は面白く考えたほうがいいんじゃないかしら? 私、バカばっかり言ってますから(笑)。だから、一昨年『ゆうもあ大賞』をいただいたのかも」
大御所なのに威圧感はまったくなく、上品でユーモラス。表情豊かで、機知に富んだ人柄は、話すほどに親しみが湧く。
「そうかしら? でも、本当は明るさも包容力もないのよ。夜になるとひとりで泣いてるし……な〜んてウソばっかり(笑)」
老いへの嫌悪感? しょっちゅう思っています
誰もが時間の経過とともに感じる老い。ずっと美しい草笛でも、老いへの嫌悪感を感じたことはあるのだろうか?
「それは、しょっちゅう思っています。朝、目が覚めたときから老いとの戦いですもの。私は朝起きると、仏様と自分とお手伝いさんのために美味しいお煎茶を淹れるの。そこに梅干しを入れて飲む。“朝茶は難を逃れる”という祖母の教えをずっと守っていて、身体も頭もスーッとします。たとえ出かけない日でも、家の中でケガをしたり、物を落として壊すことがないように、毎日飲んでいます。
ただ、そのお煎茶を淹れるためには、準備が必要。朝、目が覚めると、まずこわばっている指を1本ずつほぐす。その後は耳を引っ張る……そんなオリジナルのエクササイズで身体を温めて、ベッドの中で動ける身体にしてから起き上がるの。ゆっくりと、用心深くね」
お風呂では、のどの筋肉を鍛える独自エクササイズを。
「誤嚥性肺炎にならないために。そして1日の終わりには、補聴器を入れているから耳もちゃんと揉みほぐす。誰に言われたわけでもないけれど、けっこう細かいことをやっていますね」
日々の努力を欠かさぬ草笛に、目標や夢を尋ねてみると、
「何もないです(笑)。ただ、できる限りのことはしたいと思っています。毎日、天国の両親に話しかけていますが、今は“まだもう少し私をそっちに誘わないで”って言っています。だって来年、舞台が決まっているから。詳細はまだ言えませんが、私にとって“生まれて初めて”ともいえる役で。この話はまた今度、じっくり」
その陽のエネルギーに圧倒されるばかりだった。
●草笛光子、毒蝮三太夫になる!?
劇中で、篤子(天海祐希)の友人(柴田理恵)の家のトラブルを救うべく、芳乃(草笛光子)が、友人の父親(毒蝮三太夫)に扮する場面がある。
「女性版・毒蝮(笑)。なかなか、あのお顔に似せるのは難しかったです。でもやっぱり女優ですから、扮することが嫌いじゃないの。
その場面でハプニングがあって、前歯が取れてしまって。これが大きなスクリーンでアップになるのか……と思うと、ゾっとします。“これからお仕事なくなるな”って(笑)」
<ヘアメイク/中田マリ子(ヘアーベル) スタイリング/市原みちよ>