こんな経験、ないだろうか。義理の父や母が同じ自慢話を何度も話し、いいかげんに聞き飽きたり、スーパーのレジに列ができているのに店員にどうでもいい世間話をずっとしている近所のおばあさんにイライラしたり……。
高齢者のかまってちゃん
「かまってかまって」という態度についうっかり親切心を出して関わってしまうと周りの人が疲れてしまう高齢者がいま、問題になっている。
「高齢化が進んだことで、シニアのかまってちゃんが増えています。対応を間違えるとこちらが精神的に参って病気になることもあるので要注意なんです」と話すのは10万人以上の高齢者と接するなかで、高齢者特有のかまって傾向に気づき、『老人の取扱説明書』という本も上梓した眼科医の平松類先生だ。
“かまってちゃん”とは一般的に、孤独を嫌い、誰かにかまってもらうためには迷惑を考えずに身勝手な言動をしてしまう人のこと。どうして高齢者が“かまってちゃん”になるのか。それには、高齢者特有の事情もあるという。
「高齢になると他人の視点で考えることが難しくなり、自分の行動が正しいと判断します。そのため、自分の行動が他人にとって迷惑だと考えられないのです」(平松先生、以下同)
では、そんな“高齢かまってちゃん”とうまく接するにはどんなことに注意すればいいのだろう。
「基本的なスタンスとして、必要以上に深入りしないということが大切ですが、その高齢者が他人なのか家族なのかによって対応が大きく違います。
というのも、他人であればリアクションを薄くして、その人と会話すること自体を避けてしまえば済みますが、自分の親や姑、義理の父など身内となると逃げられないので、うまく距離感を保つことが重要です」
何度も同じ話をする高齢者には、話をした記憶を残させることが重要なのだとか。
「前にも聞いた話が始まったら、同じ行動を取ったり、同じ環境をつくったりしてください。毎回お茶を出すとか毎回同じリアクションをすることにより『前にも話したかな』と気づかせるきっかけになります」
また、そのほかにもやってしまいがちなNG行為もある。ぜひ参考に。
「高齢かまってちゃん」にはさまざまなタイプがあるが、ここでは代表的な4つのタイプについて平松先生に解説していただいた。
「おしゃべり型かまってちゃん」は、もともとおしゃべり好きで、ふだん話し相手が少ない人がなりやすいタイプ。感情や欲望を抑制する前頭葉の機能低下によることが原因。
「昔話で自慢型かまってちゃん」は、過去の記憶を美化して話すタイプ。過去の記憶は時間がたつほどに都合よく改変されるため、美化された昔話になりがちだ。
「SNSで自己顕示型かまってちゃん」は、社会的地位のある肩書を持っていた高齢者が、もはや必要とされなくなっても「見て見て」と自分をアピールする。
「心配されたがりかまってちゃん」は、病気や身体的老化などから役目を取り上げられ、もう必要とされていないという疎外感が原因だ。
それぞれに対するあしらい方を知ると、苦手意識や迷いから抜け出し、ストレスなく高齢かまってちゃんに対処できる。
「すべての高齢者にいえるのは寂しいということです。行動範囲が狭くなり、社会や家族とのつながりが減る高齢者には役割を与えることが大切。そして『ありがとう』と声に出して感謝を伝えることも効果的です」
また、いちばん注意すべきは“高齢かまってちゃん”の裏側に認知症などの病気が隠れているケースだ。
「例えば何度も何度も同じ話をしたり、突然怒り出したり、泣き出したりといった行為が認知症の初期症状のひとつである場合があります。
単なる老化と認知症のもっとも違う点は、老化は何を食べたかは思い出せなくても食事をしたことは覚えているが、認知症は食事をしたこと自体を覚えていないということです」
もし少しでも気になる点があれば、物忘れ外来などを受診してほしいと平松先生。
ますます増えていく日本の高齢者。自分もいつか高齢者になるのだから、上手に付き合ってお互い楽しく日々を送れるようにしたいものだ。
周りの人がやりがちなNG行為
【家族の場合】面倒だからと連絡を絶つ
家族のかまってちゃんに対して、連絡をしないとか完全に無視をすると孤独感から死につながる可能性もある。週に1回の電話やメールなど、お互いにとってストレスにならない、よい距離感を探ってみて。
【他人の場合】中途半端な優しさで相手になる
コミュニケーションを取りたがる高齢者に対して、最後まで相手をする気がないのであれば、早めに会話をやめて、期待をさせないようにしたい。断れないという理由だけで相手をするのは逆効果。
【どちらもNG】話の内容に反論する
高齢者に反論するのは意味がなく、論破しても何も変わらないケースがほとんど。矛盾を感じてもスルーするのがかまってちゃんへの正しい対応。
4大かまってちゃんのあしらい方
10年以上にわたり、延べ10万人以上の高齢者と向き合う現役眼科医が“高齢かまってちゃん”に見られがちな4タイプの実例とそれぞれのあしらい方を伝授!
おしゃべり型かまってちゃん
病院の待合室で、「どこが悪いの?」とやたらに話しかけてくるシニア。問いに答えると「大変ね。私はね……」とどちらかが名前を呼ばれるまで会話のラリーは続けられるという迷惑行為にうんざり。
[あしらい方]どうしてもこの人と話したいというよりも、ただ衝動が抑えられないだけなので、リアクションはうすめにして、会話のラリーを続けないこと。クエスチョン形式にしないのもポイント。
SNS自己顕示型かまってちゃん
Facebookのコメントや“いいね”で忖度され、得意気にマウンティングしているSNS上でのかまってちゃん。現場を退いても“〇〇〇理事”など社会的地位のある肩書をいくつか持ち、今の自分の顔や行動をアップするのが日課。
[あしらい方]自己顕示型の投稿には反応をせずに無視(スルー)をするのがいちばん。コメントを書き込んでも、現状がよい方向に動くことはありません。
昔話で自慢型かまってちゃん
“昔はよかった”とか“自分はこうしてきたもんだ”と話す自慢好きの高齢者。「家庭のことは女に任せていたからうまくいっていた」や「会社に人生をかけて何度も表彰された」など、若いころの自分を美化。
[あしらい方]“自慢話”はさせておくのが賢い対応。価値観を押しつけられそうになったら、「今の時代は昔と違う」という現実を伝え、「悪いのは“時代の変化”ですよね」と責任転嫁を。
心配されたがりかまってちゃん
「私なんていても邪魔でしょ」とネガティブな発言ばかりする高齢者。身体的老化などの理由から「ゆっくりしてください」と息子夫婦などに言われ、炊事や洗濯を任せることにしたが、周りの気遣いに反してどんどん暗くなっていき、身だしなみも乱れ始める。
[あしらい方]自己肯定感を低くしないよう、できる役割を与える。ゴミ捨て、お風呂掃除、植物への水やりなど危険を伴わない仕事がおすすめ。決まった時間、曜日に行えるというのもやりがいを感じ活力となる。
(取材・文/相原郁美)