2019年に新規で飼われた犬の数は35万頭、2021年は39万7000頭。コロナ感染拡大以降、4万頭以上増えたことに(※ペットフード協会の調査による。)。多くの飼い主は愛犬にできるだけ長く生きてほしいと思うものだが……。
良かれと思った愛犬への行動、実は間違いかも
「犬の平均寿命が延びている一方で、“健康寿命”は必ずしも延びているとはいえません。実際に平均寿命に近づいてくると闘病が続いたり、介護が必要となるケースも増えています。
ペットは家族の一員ですが、ペットのために良かれと思ってとった行動が、かえって寿命を縮めている場合もあります」
そう話すのは、獣医師の長谷川拓哉さん。飼い主がとりがちな間違った行動にはどのようなものがあるのか。
「まず首輪です。10歳を過ぎたら首輪よりも胴輪(ハーネス)をおすすめします。散歩のときは首輪のほうがコントロールしやすく、飼い主さんも楽なのですが、犬にとっては首に負担がかかりやすいのが問題です」(長谷川さん、以下同)
ハーネスは上半身全体で支える作りになっているため、首や呼吸器官に負担がかかりにくく、引っ張っても犬は苦しくない。
「特に年をとった犬には、ハーネスを利用してほしいと思います。その犬の体格や脚の長さ、力の強さに合ったハーネス選びが必要なので、購入するお店で相談するなどして、プロの目で選んでもらうといいでしょう」
室内で飼う人が増えた昨今、犬が多くの時間を過ごす住環境も重要だ。
「ペットのにおい消しに芳香剤を置いている飼い主さんは多いのですが、これが犬にとってストレスになることもあります。
犬の嗅覚は人の1億倍といわれています。芳香剤以外にも、飼い主さんの衣類の柔軟剤の匂いやシャンプー、香水の匂い、リラックスするために使ったアロマオイルの匂いさえ、犬にとってはマイナスになることも。
来客予定があるときなどペットのにおいが気になるなら、無香タイプのペット用消臭剤を使用しましょう」
また、犬の居場所や寝床として、ケージを置いている飼い主は多いが、ケージの扱いにも注意点があるという。
「犬にとって安心できる場所としてケージがあるのはいいのですが、日常生活のほとんどをケージで過ごさせるのは考えものです。犬にとってはケージに閉じ込められ、『行きたいけれど行けない』状態にさせておくのはストレスです。
さらに、ケージの中にトイレがある一体型のサークルもありますが、犬の習性として、寝る場所と排泄する場所は離しておいたほうがいいでしょう。嗅覚が鋭い犬にとって、トイレに近い場所で寝るのは、非常にストレスになります」
やせてきたのはドッグフードのせい!?
小型犬や老犬には、あまり散歩は必要ないと思っている飼い主も多いようだが、本当のところは?
「健康状態がよければ、ほとんどの犬は少なくとも1日30分以上、場合によってはもっと多くの散歩をすることができるし、必要なのです」
インターネットなどに書かれている散歩の時間や距離は、あくまでも目安ととらえるべき。
「どれくらいの散歩で満足するかは、犬によって違います。小型犬でも1時間歩く子もいます。人間だって、ずっと室内にいたら足腰が弱ってしまいますし、ストレスもたまります。犬も同じで、外の空気を吸って、さまざまな刺激を受けることはとても重要です」
飼い主とアイコンタクトをし、コミュニケーションをとりながら一緒に歩くことも大事。
「そんな散歩は犬にとっても楽しいはずです。ただ歩いて帰ってくるだけでは寂しいもの。散歩を義務とせず、飼い主さんもぜひ一緒に楽しんでほしいと思います」
そして健康にもっとも直結するのが毎日の食事だ。ドッグフードの多くは年齢によって分けられている。シニア用のフードもたくさんあるが、年齢だけで、フードを切り替えることには慎重になるべきだと長谷川さんは言う。
「シニア用ドッグフードの多くは、タンパク質や脂肪分がカットされています。シニアになると活動量が減るから、というのがその理由です」
一般に、8歳ごろがシニアへの転換期といわれているが、安易にシニア用フードに替えたため、油分が足りずに毛ヅヤが悪くなる、タンパク質不足でやせてくるといったことがあるという。
「飼い主さんのなかには、シニア用フードによってやせているのに、『年をとってきたからやせたのだろう』と勘違いする人もいます。
シニアであろうと元気なら、フードを替えたり、食事量を減らしたりする必要はありません。年齢で判断せず、目の前のワンちゃんの様子をしっかり見て判断しましょう」
人間はOKでも犬には毒になる食材
犬は基本的に雑食だが、食べてはいけない食材もある。
「ニラ、長ねぎ、玉ねぎ、にんにくなどに多く含まれている硫化アリルによって、貧血を起こすことがあります。命に関わる危険があるので、与えないようにしましょう。
また、チョコレートも要注意。少量ならまず問題ありませんが、食べすぎると震えやけいれんを起こすことも。
そのほか、香辛料などは、胃腸を刺激して嘔吐や下痢を引き起こす場合があります。手作りごはんにこしょうなどのスパイスを加えることは絶対にやめましょう」
長谷川さんは、ペットの健康長寿には、何より「食事」が大切だと言う。そこで、飼い主さんにおすすめしているのが“手作り食”だ。
「ドッグフードを与えることは決して悪いわけではありませんが、手作り食の大きなメリットに、ドッグフードよりたくさんの水分をとれることがあります。とくにシニア犬には“隠れ水分不足”が多く、水分摂取はとても重要です」
実際、どんなものを食べさせたらいいのか。
「作り方のルールは簡単です。穀物:肉または魚:野菜=1:1:1の割合にして、たっぷりの水で煮ること、これだけです。わかりやすく言えば、おじやをあげるイメージです。肉や野菜から出汁が出るため、味つけは不要です」
食材を変えて栄養バランスをとることは大事だが、長い目で見てバランスがとれていれば十分。
「量は、ワンちゃんの頭のサイズに合う帽子くらいの量が1回分。これを朝晩2回食べさせてほしいのですが、難しければ2回のうち1回をドッグフードにしてもOK。とにかく長く続けることがいちばん大切なので、無理なく続けられる頻度や方法で、ゆるく続けてみてください」
【愛犬の健康に悪影響なNG行動】
■首輪にリードをつなぐ
■部屋の中に芳香剤を置いている
■安心させようと思ってケージに入れっぱなし
■小型犬、老犬だからとあまり散歩をしない
■「8歳になったから」とシニア用ドッグフードを与える
■ニラ、ねぎを与える
■チョコレートを与える
なかには散歩が嫌いな犬や、老犬で歩けない犬もいるが、飼い主と一緒に外に出るだけでも気分転換になる。散歩によって人間のほうにもリラックス効果があるともいわれている。
お話を伺ったのは……
獣医師。ペットクリニックZero/ペットスキンケアサロンZero院長。北里大学獣医学部卒業後、埼玉・新潟の動物病院で11年勤務。2019年、免疫力・自然治癒力を高めて動物たちを元気にしたいと開業。動物にやさしい診療を行っている。
取材・文/樋口由夏