《年上の方が大好きで、ビックリされるかもしれませんが、以前は65歳の方とお付き合いしていました。毎日HAPPYになれるような楽しい時間を過ごしたいです。末永くお付き合いできる方をさがしています。よろしくお願いします》
濃いピンク色のふわっとしたセーターの袖口を伸ばして半分手を隠し、頬にほんのり赤みを差した20代の女は、出会い系サイトでそう自己紹介した。中高年男性の利用が目立つサイトで「サキ」と名乗って。
おでこを出したプロフィール画像は幼さを演出。女優のビビアン・スーを彷彿とさせるルックスだ。
サキの正体は大阪府寝屋川市の看護師・西村恵梨奈容疑者(28)。出会い系サイトを利用した“パパ活詐欺”の実行役として2021年9月、犯行の指示役とされる同府八尾市の自称投資家・吉田清一容疑者(51)と逮捕されてから約1年4か月。
同府警はさきごろ、交際を持ちかけた50〜70代の男性17人から計約2億円を騙し取ったとして両容疑者を詐欺容疑で逮捕・追送検し、捜査を終えたと発表した。
西村容疑者は容疑を認め、吉田容疑者は完全黙秘という。
「捜査が長引いたのは捜査対象者があまりにも多かったから。聴取した被害男性は71人を数え、実際の被害総額は約3億2000万円にのぼるとみている。そのうち被害届を提出するなどした17人に対する詐欺容疑を裏付けた。最高被害額は5730万円で最少でも150万円。男性から大金を引き出すキーワードは“真剣交際”と“奨学金の返済”だった」(捜査関係者)
府警刑事特別捜査隊によると、両容疑者は共謀して20年7月中旬から21年9月上旬にかけ、出会い系サイトで知り合った男性らから繰り返し金を詐取(さしゅ)した疑い。
わずか1年2か月で約2億円を騙し取った
「奨学金を返さないといけないんです」
「奨学金返済のために借りたカードローンの支払いが迫っているんです」
「奨学金を返さないと弟が奨学金を借りられなくて……」
そんなふうにさまざまなバリエーションで困っているように見せ、男性から30万円、50万円と小刻みに金を出させた。「奨学金」を絡めれば勤勉さを印象付けられるし、支援してあげたい気持ちを駆り立てることもできたろう。言葉巧みにわずか1年2か月で約2億円を騙し取った。
「出会い系サイトは犯行の入り口。反応のあった男性とLINEでやり取りする関係になり、警戒されないよう最初は金の話などしなかった。あくまで真剣に交際したいとアピールし、結婚をちらつかせることもあった。その気になった男性もいるだろう」
と前出の捜査関係者。
10以上の出会い系サイトに登録し、送検されなかった案件を含め被害男性はおおむね60歳以上。若い恋人を持つラストチャンスと前のめりになってもおかしくはない。
結局、金を出させてしまうのだから、よほど上手に恋する女を演じたのだろう。
犯行の発覚を防ぐ手立てもぬかりなかった。
被害男性が被害届を出さなかった理由
「借りるときは事前に準備した借用書を渡し、ちょっとずつ返済もしている。数千円程度だが、借りたまま連絡を断つと詐欺だとバレるし、少額でも返せば“返す気があるのかな”と思わせることができるかもしれないから」(前出の捜査関係者)
犯行が発覚したのは、何度も大金をおろす被害男性に銀行が「騙されていませんか?」と声をかけたから。被害男性はようやく我に帰り、警察に相談したという。
西村容疑者は看護師資格を取得するため大学進学時に奨学金を貸与されており、カードローンの借金もあった。しかし、騙し取った金は「すべて吉田容疑者に渡しました」と供述し、返済に充てた形跡はなかった。
両容疑者の出会いは約6年前。当時、吉田容疑者が経営していた会社のアルバイト募集に西村容疑者が申し込んだのがきっかけ。どういった経緯かは不明だが、吉田容疑者から株式売買のノウハウを教わったという。
やがて資産運用を任されるようになったのか、西村容疑者の供述によると株取引で大きな損失を出してしまい、吉田容疑者から「どうしてくれるんや」と迫られた。
そのとき、「実はこういう手があるんやぞ」と詐欺を指南されたという。
両容疑者は最初に逮捕された当時、八尾市内の近いマンションで別々に部屋を借りていた。西村容疑者の部屋には複数の高齢男性が出入りする様子があった。金を借りる際は自室やビジネスホテル、コンビニなどで男性と会っていたことがわかっている。
あらためて取材すると、吉田容疑者宅マンションでも西村容疑者がたびたび部屋に出入りする姿が目撃されていた。
容疑者らが同棲する部屋から外まで漏れた声
マンション住人はサキの画像を見て「この女に間違いない」と言って振り返る。
「中年男性とほとんど同棲状態だったはず。2億〜3億円を騙し取った割にはぜいたくな生活ぶりではなかった。女はきれいでスタイルもいいが、リクルートスーツのようなかっちりしたパンツ姿ばかり。化粧も控えめで色気は感じなかった。中年男はお父さんとも旦那さんとも違うようで、年の離れた奇妙なカップルだと思っていた」
部屋の窓には内側から段ボールを貼って目隠ししてあり、中年男に敬語で謝る西村容疑者らしき女性の声が部屋の外まで漏れてきたことも。近づきがたい雰囲気プンプンだった。
別の女性住人はこう話す。
「いつも地味な服装でピンクの服は見たことがないし、画像はだいぶ盛っていますね。中年男はマンションの通路でよく偉そうに説教していて、女は黙って聞いていました。中年男は冬でも短パンに裸足のサンダル履き。昼間も働きに出ている様子はなかったから、無職のダメ親父を養う娘だと思っていました。そのくらいしょっちゅうツーショットを見かけましたが、イチャつくところを見たことはありません」
西村容疑者の知人によると、同府寝屋川市の実家では両親と弟、祖母の5人家族だった。周囲に挨拶を欠かさないなど礼儀正しかったという。
「まじめなお嬢さんで頭もよかった。詐欺をするなんて信じられない」(近所の住民)
すでに最初の詐欺容疑で公判が始まっている両容疑者。71人の恋心を揺さぶり、騙し取った金をこれからどう弁済するつもりだろうか。