ホントに必要?お金をむしり取られる!ムダ医療(※画像はイメージです)

 病院で必要と伝えられた検査や、医師に言われて飲んでいる薬。私たちが当たり前のように受け入れている医療の中に、実はムダなものが多くあることをご存じだろうか。

余計な医療費を払っている場合が

「検査や処方薬、そして治療に至るまで、日本の医療の中には不要なものが多く、ムダな医療を受けながら費用を余計に払わされているのです」

 と警告するのは医療経済ジャーナリストの室井一辰さんだ。

「例えば人間ドックで受けることができる全身のがんの存在を検出するPET検査。健康な人でがんが見つかるのは1%前後と極端に低いため、無症状の人には必要ないといわれています。無意味な安心を得るために約10万円の検査を受けていることになります。

また、『高齢の女性は骨粗鬆症になりやすい』と不安をあおられ、年に1回など定期的にエックス線検査を受けている人はいないでしょうか。骨密度は短期間では変化しないので、約4万円を払って繰り返しチェックするのはムダです」(室井さん、以下同)

 ではなぜ受けているのか。実はアメリカと比べると事情がわかりやすいという。

 アメリカは「糖尿病ならいくら」、「盲腸の手術ならいくら」と病気ごとにかかる医療費がおおよそ決まっているのに対して、日本の多くは実施した検査や手術ごとに支払いが生じる。そのため、日本は医療行為をすればするほど儲かるシステムになっているのだ。

 さらに、患者からの訴訟やクレームを避けるために、必要以上に検査や薬の処方をすることもある。

「さまざまな診療科で念のため、と治療が行われていますが、本来ならやらなくていい検査をしている場合も多いです」と室井さん。治療をするほど儲かる医療側の利益追求と、万が一に備えてという過剰なリスク回避によって、患者は余計に医療費を払っているケースがあるのだ。

医者がムダ医療をリストアップ

 アメリカでは、医療者側がムダな医療を追放しようという動きが。

 アメリカの人口は日本の2・6倍にもかかわらず、医療費は8倍近い300兆円。そのため、膨大な医療費を削減するための制度改革が進みつつあるのだ。

「アメリカの医学会がムダな医療を公表する計画が2011年から始動しています。『チュージング・ワイズリー(賢く選ぼう)』と名づけられた動きで、現在は550項目もの行為を不必要と認定しています」

 これ以上、医療費が増大すると国家的な問題になる─必要な医療だけを施そう。そういった考えがアメリカの医学界で進んでいるのだ。

 そこで、アメリカの「チュージング・ワイズリー」で取り上げられた内容から、日本にも活かせる項目を一部抜き出して室井さんに解説していただいた(次ページ参照)。あなたの身近にあるムダな医療をぜひ確認してほしい。

日本は入院費にも要注意!

 室井さんは「日本ではムダな『入院』が増えている」と言う。

「先ほどご紹介したように、アメリカは病気ごとに支払う料金がだいたい決まっているのに対し、日本は患者の入院期間が延びると、その分、医療機関が請求できる金額が増える仕組みです。入院日数が延びるほど儲かるので、これもムダ医療の温床です。例えば、日帰りでもできる白内障の手術でわざわざ入院させたり、積極的な医療をしないにもかかわらず、糖尿病の人の生活を改善させる『教育入院』を1か月させたりといったケースも多いのです」

 同じ手術でも病院によって入院期間の差が大きい。入院期間を延長して経営費用を捻出している医療機関も多いので、事前に入院期間を問い合わせておくことも得策だ。

「入院期間が延びたからといって、その分、私たちが健康になるわけではないというデータもあります」

 医療側の経済的利益の追求。そして、「念のため」「万が一のため」と不必要に検査を重ねる過剰診断や過剰治療。それらが積み重なって、日本にムダな医療がはびこるようになってしまったのだ。本当に必要なのかという視点を持った患者となり、余計なお金をむしり取られないようにしたい。

医療経済ジャーナリスト・室井さんが米国の「ムダ医療リスト」を基に解説

定期的に大腸がんの内視鏡検査

 便潜血が判明したら精密検査としておしりから内視鏡を入れて調べます。内視鏡を使った検査でがんを発見できなかった場合は、がんになるリスクはその後10年間にわたって低いとわかっているので定期的に受ける必要はありません。ムダな検査のたびに1万5000円ほどかかっています。

子宮頸がんが心配だから念のためコルポスコピー

子宮頸がんは子宮の入り口部分にできるがんです。コルポスコピーはチューブ状のカメラを挿入して拡大鏡で観察する検査ですが、目で見て異常がない場合はカメラで見ても変わりないといわれています。実施内容次第で5000~1万円ほど。特に高額ではありませんが、意味がないならば受けたくないですよね。

閉経後はDEXA法による定期的な骨密度チェック

 DEXA(デキサ)法は骨密度の低下をエックス線で定期的に測定するもので、閉経後の骨粗鬆症予防として頻繁に行われがちです。骨密度は短期間で変化するものではないため、実は高齢女性でも健康であれば10年以内に繰り返し検査する必要はないと報告されています。日本だと約4万円かかります。

人間ドックのPET検査でがんを早期発見

 PET検査は細胞の動きを見ることにより全身の病気を診断できる。しかし、アメリカ核医学会は、「PET検査は健康な人のがん検診に使ってはならない」と断言。ムダな放射線被ばくが起こるうえに、がんでないのに陽性となることもあり、意味のない治療につながる場合もあるのです。無症状なのに「もしかして」という不安で約10万円もする検査を受けていないでしょうか。

前立腺がんを見つけるためにPSA検査

 PSAは前立腺で発生するタンパク質で、PSA量が増えるとがんを疑われます。アメリカ家庭医学会が「もしがんになっても害は少ないが、治療による副作用は非常に大きい。医師は患者に十分に説明をしたうえでPSA検査の同意を得なければならない」と注意するほど。前立腺がんの手術となれば30万円の負担、精密検査だけでも10万円ほど。手術後に性機能が損なわれてしまうおそれもあります。

軽い頭部外傷でCT検査

 頭を打った程度ではほとんどがCT検査で診断する必要がありません。ムダに放射線にさらされるのはむしろ危険で、将来的にがんになる可能性を高めるおそれが。特に子どもは放射線に対する感受性が高いと指摘されています。日本でCT検査を実施するとおよそ3万円、3割負担でも1万円になります。

超高齢者に悪玉コレステロールを下げる薬

 悪玉コレステロールを下げるための薬剤を服用すると、認知、神経疾患、筋肉障害といったリスクが増えます。85歳以上ではメリットよりも副作用によるデメリットのほうが高まるといわれています。薬剤費は年間3万円ほどなので10年となれば30万円、ちりも積もれば大きいですよね。

爪水虫なら菌を殺す飲み薬を

 水虫の原因は白癬菌ですが、実は爪に症状があるおよそ半分の人は白癬菌による感染ではないとのこと。そもそも真菌がいないとなれば、3~6か月といった長期にわたって薬を服用するのはむなしいもの。知らずに飲み続けた薬剤費用は5万円ほどに。

室井一辰さん(医療経済ジャーナリスト)

医療経済ジャーナリスト。東京大学農学部獣医学課程卒。著書に『絶対に受けたくない無駄な医療』(日経BP社)など。

<取材・文/難波安衣子>