回転寿司店で醤油差しや未使用の湯呑みを舐めるなど若者による迷惑行為がSNSで拡散され、社会問題に発展した。
若者だけじゃない、高齢者の迷惑・危険行為
一方で、Z世代も驚くような高齢者の迷惑・危険行為も動画で投稿されている。
Twitterで話題になっている映像の一つは、路線バス内で堂々とタバコを吸う高齢男性。投稿によると1月21日、福岡県内を走る西鉄バスの車内で運転手に対して、直前に乗ったバスに忘れ物をしたからお客さまセンターに電話をしろなどと要求をしたうえで、タバコを吸い、吸い殻も床に放置していたという。
高齢ドライバーによる衝撃的な車の事故も起こっている。福岡・北九州市の市道で車が猛スピードでの前進とバックを何度も繰り返し、車やブロック塀にぶつかる事故の瞬間が撮影され、拡散されていた。
テレビ西日本などの報道によると、運転していたのは70代の男性で警察の聞き取りに対して、「パニックになって運転操作を誤った」と話しているという。
大通りの交差点のど真ん中を歩いて渡る高齢者
“迷惑・危険行為”はドライバーだけではない。福岡県内の交差点。車両用も歩行者用の信号も赤であるにも関わらず、交差する車線が、片側3車線以上あり、車が多数走行する車道のド真ん中を堂々と渡る高齢男性の姿が投稿されていた。
交通量も多かったが車側が止まるなどの対応によって、幸いにも事故は起こらずに渡り切ったようだが、普通ならば、死亡事故にもつながる危険な行為であることには違いない。
こうした投稿に対して、非難の声がある中、《認知症ではないか》と指摘する意見も。若者の迷惑行為とは違った背景がありそうだが、そのあたりを脳内科医の加藤プラチナクリニック・加藤俊徳院長に話を聞いた。
「単純に申し上げると、この3つの動画に共通しているのは、注意力の低下です。個人差はありますが、高齢になると、認知症でなくても、認知能力が低下することで、注意が届く範囲が狭くなってきます。
自分のいる空間が、公共の場であっても、自分のスペースだと思って行動している可能性があります。高齢者の脳がどういう状態かと考えると理解しやすいですが、自分のやっていることが迷惑行為だという自覚がないほど、他者に注意を向けることができる能力がない。自分のしたいことを自分の空間でやっているだけという認識です。
一番の問題は認知症や軽度認知障害、あるいは別の理由でも認知能力が低下していることを自覚できていないということです」
認知能力の低下が起きやすくなる特徴
どういう人に認知能力の低下が起きやすくなるのか。
「特に高齢者で一人暮らしの方、ご夫婦で暮らしていても2人ともかなり高齢の場合の方に起きやすいです。社会的に逸脱したことが起こるというのは、社会的に孤立した状態で暮らしているということ。
高齢になると、子どもたちが家から出ていったり、同級生や近所で仲の良かった人たちが亡くなって、交流がなくなってくる。そうすると自分の認知能力の状態を知る機会がなくなり、外に出た時に、いわゆる迷惑行動をとってしまうことがあります。
逆に言うと、何かしらのグループの中にいれば防ぐこともできると考えられます」(加藤先生、以下同)
家族や地域社会が支えるにも限界はある。
「こうした迷惑行為が起こるのは、さまざまな意味で国の対策が及んでいないことの表れだと思います。高齢になれば認知能力が下がるというのは誰にでも起こりうること。
病院に来た人の認知症対策だけでは不十分で、ある一定の年齢に達した高齢者の健康診断や認知検査を定期的に行うことを義務化するなど、国家レベルの対策が今後必要になってくるのかなと思います」
総務省統計局によると‘22年9月時点の推計で、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は29.1%と過去最高を記録した。超高齢社会を進んでいく日本。個人や家族に任せるのではなく、国レベルで積極的な対策を練る段階にきているのかもしれない。