2月17日、パナソニックから“型破り”な食器洗い乾燥機が登場した。単身世帯向けのパーソナル食洗機『SOLOTA(ソロタ)』だ。
パーソナル食洗機SOLOTA(パナソニック)
A4ファイルサイズほどのスペースがあれば設置できる業界最小設計のコンパクトボディが特徴で、価格は3万7620円(編集部調べ)。
月額1290円のサブスクリプション型の定期利用サービスも用意されており、発売後の申し込み数は同社の従来品(スリム食洗機)の約3倍に上るなど、好調だという。
「コアターゲットは、賃貸住宅に住む20~30代の単身世帯。忙しく働くなかで、特に中食をメインとした食生活を送っている方を想定しています。
ターゲット世代への調査では、食器洗いはトイレ掃除に次いで嫌いな家事の第2位にランクイン。
その負担を少しでも軽減し、1人暮らしをより自由なものにしてくれる“相棒”として『SOLOTA』は生まれました」
そう語るのは、パナソニック株式会社キッチン空間事業部の楠健吾さん。『SOLOTA』の開発を技術面から支えた、プロジェクトメンバーの中心人物のひとりだ。
製品の開発にあたっては、ターゲット世代の当事者でもある20~30代の社員を中心にチームが組まれたという。
「最初はさまざまなアイデア出しから始まりました。個人的に好きだったのが“ラスベガス洗浄”というアイデア。ラスベガスの噴水ショーのように光と音できらびやかに食器を洗い上げ、人々の心をも洗浄するという内容でした(笑)」(楠さん、以下同)
斬新なアイデアも多く挙がるなか、チームメンバーの日々の食卓の写真を持ち寄りながら、改めてターゲット世代の食生活について議論を深めていった。
そこで見えたのは、買ってきた惣菜やレトルト食品、冷凍食品などが食卓の中心となる“中食”傾向と“スタメン食器”の存在だ。
「単身世帯での中食の伸び率はこの20年で約1.4倍となっていて、実際にメンバーの食卓でも中食が多くなっているという気づきがありました。
また、家で使う食器は限られており、数種類の同じ食器を毎日ルーティンで使っているという実態も見えてきました。
そこで、中食利用者が多く使う食器類を“スタメン食器”と名づけ、それらが収まるサイズの食洗器をつくろうということで、開発の指針を立てていきましたね」
『SOLOTA』は、直径23cmまでの大皿と、ご飯茶碗、汁椀、深中鉢、小皿、マグカップの“スタメン食器”6点が一度に入るサイズ感。
これらの食器が十分に収まる容量を確保しながら、単身世帯の賃貸住宅にも置ける省スペース化を実現するのには大変な苦労があったようだ。
「分岐水栓の工事が不要な給水タンク方式を採用しているため、タンク自体を本体に収容できるサイズにする必要もありました。
とはいえ、少ない水量で洗浄力が不十分では意味がない。技術者としては本当にこのサイズの食洗機を実現できるのか、不安が常々脳裏によぎっていました」
高齢単身者にこそ最強の相棒に
設置した際、空間に圧迫感が出ないように、デザイン面でも試行錯誤が続いた。
デザインを担当した同社のくらしプロダクトイノベーション本部の松本優子さんは、その特徴について次のように語る。
「見せる収納などでも使われている“オープンシェルフ”のようなスッキリ軽やかなたたずまいを目指したいと考えました。そこで、前面だけでなく背面もクリアな窓を設け、抜け感のあるデザインを提案。
社内からは“本当に背面窓は必要なのか?”といった声もありましたが、視覚的に圧迫感を軽減し、食器がきれいになっていく様が見える体験価値を提供する必要性を訴えたところ、最終的にはメンバーの思いが届き、このようなデザインが実現しました」
こうして生まれた『SOLOTA』。実機をお借りし、その実力を試してみた。設置は驚くほど簡単で、本体裏のホースからシンクやバケツなどに排水さえできれば、特に大きな制限は感じない。
使い方もシンプルで、本体下部に水を入れたタンクをセットし、食器を並べ食洗機用洗剤を庫内に投入してボタンを押すだけ。
手洗いでは難しい50度以上の高圧水流による洗浄で、油汚れが気になるカレー皿などもしっかり仕上げてくれる。
個人的な感想ではあるが、『SOLOTA』は“作り置き生活”と相性バツグン。中食メインではなくとも、週末にまとめて作り置きしたおかずと冷凍ごはんで平日の食事を済ませている筆者のような内食派にとっては『SOLOTA』は強力な相棒となる。
週末の料理の際には『SOLOTA』に入らない調理器具などを手洗いする必要はあるが、それ以外の平日には調理器具をほとんど使わないため、使った食器とおかずを小分けにしていた容器すべてをまとめて『SOLOTA』に丸投げできる。
におい移りしがちな保存容器もしっかりと洗浄・除菌してくれる。
高齢単身世帯でこそ『SOLOTA』
また、『SOLOTA』と相性がいいと感じたのは、タンブラーやビアカップなどのグラス類。手洗いがしにくく、ついシンクに放置しがちなグラス類がいつでもピカピカの状態で使えるのはうれしい。
日々わずかな時間だとしても手洗いの手間が省けている実感があり、さらには手洗いに比べて使用水量も約8分の1になる節水のメリットも。
1人暮らしの筆者には、食洗機はそもそも不要だと決めつけていたが、その認識は実際に使ってみると簡単に崩れた。
高齢者の1人暮らし世帯は年々増加の一途をたどる。内閣府の『令和4年版高齢社会白書』によると、2020年の65歳以上の高齢単身者数は671万7千人。
この20年で2倍以上に増加している。さらに同白書には、高齢単身者の居住形態についてのデータもある。65歳以上の1人暮らし世帯になると途端に持ち家率が下がり、賃貸で生活する割合は33.3%となる。
実際に、高齢者の住み替え需要は年々高まっている。メンテナンスや管理の負担が大きい戸建ての持ち家を手放して、生活施設や交通機関などへのアクセスがいいコンパクトな集合住宅に移り住むといったケースも多いようだ。
こういった時代背景において、高齢単身世帯でこそ『SOLOTA』は本領発揮できるのではないだろうか。
体力の低下でちょっとした洗い物もストレスになっている高齢者にとって、1日3度の面倒な家事を食洗機に頼るというのもひとつの選択肢。同社キッチン空間事業部で国内マーケティングを担当する山本秀子さんは次のように語る。
「操作自体がシンプルで使いやすいため、高齢の方の初めての食洗機としても『SOLOTA』がお役に立てる点は多いかと思います。人手が足りない1人暮らしのなかで、家事の役割分担ができる“相棒”のような存在になってくれるとうれしいですね」
“相棒”が食器洗いをしている傍らで、食後の時間をゆったり過ごす……『SOLOTA』が支えてくれるセカンドライフは、きっと悪くないはず。
(取材・文/吉信 武)