「腎臓の衰えは、寿命に直結します」と断言するのは腎臓病専門医として多くの患者を診てきた上月正博先生。
腎臓の主な機能は体内に必要な成分をろ過し、老廃物を尿として排出すること。その機能は加齢とともに少しずつ衰えていくが、糖尿病や高血圧、メタボリックシンドロームなどの病気により、機能低下が急激に加速する。
「高血糖や高血圧の状態が続くと、腎臓の血管に負担がかかり、フィルターの役目をしていた細胞が剥がれ落ちて、ろ過できなくなってしまうのです」(上月先生)
日本人の国民病「慢性腎臓病」
こうして腎機能が慢性的に低下する“慢性腎臓病”の患者は急増中で、日本では成人の8人に1人が患っている。「国民病」ともいえるこの病は、罹患すると心血管病のリスクが倍増するという怖い病気なのだ。
「腎機能が低下すると、カルシウムが血管内に沈着して血管が硬くなります。そうすると狭心症や心筋梗塞、脳梗塞や脳出血を引き起こします」(上月先生)
慢性腎臓病を予防するには、運動習慣と禁煙に加え、食生活がカギとなる。
「重要なのは低脂質なタンパク質をとること。タンパク質が足りないと筋肉量が減りますから、基礎代謝も減少し、高血圧や糖尿病を引き起こす肥満の原因に。これに加え、タンパク質の不足で血管が硬くなることも、腎臓への負担を増やします」(上月先生)
厚生労働省が定めるタンパク質の摂取目標量は、立ち仕事も含む職業の50歳女性なら1日68~98g。ただし量がとれていればいいわけではない。
「タンパク質は一度に吸収できる量に限りがあるため、朝昼晩3食それぞれ、20~30gに分けてとる必要があります。“朝はパンだけで、夜にタンパク質をまとめてとればいいだろう”という考えではダメなのです」(上月先生)
日本人の多くは野菜と魚が不足
腎機能には腸内環境も影響しているため、食物繊維などもまんべんなくとることが重要だ。しかし、管理栄養士として2000人の食生活を指導してきた森下久美子さんは、
「今まで、野菜を必要量とっている人に会ったことがありません。ほとんどの日本人は栄養が偏り、不足しているか、過剰摂取しています」
と話す。野菜に加え、魚をもっと取り入れるべきだという。
「加齢による腎臓の衰えは防げませんが、腎臓を長持ちさせる食習慣は、早く始めるほど意味がある。アメリカの研究では、“ひとつ病気を患うと10年老化したのと同じ”といわれていますが、日本人の健康水準なら5年の老化というところ。
つまり、食事に気をつけることで寿命に5年の差が出るといっても過言ではないでしょう」(上月先生)
低脂質なタンパク質と野菜を中心に、栄養のプロの2人が注目している30食材を紹介。
過食や偏食を避け腎臓をイキイキ!
「多くの人は腎臓の状態を意識せずに食事をしていますが、老廃物のろ過機能を担っている腎臓は、食べ物の影響を大変受けやすい臓器です」(上月先生、以下同)
腎機能の低下は、初期では自覚症状がないため、重篤な状態になるまで気がつかないケースもある。
「腎臓を守るためには、塩分とカロリーのとりすぎにも要注意。カロリーオーバーはもちろんですが、塩分のとりすぎのチェックにも、体重記録は役立ちます」
塩分をとりすぎると、腎臓は塩分濃度を一定に保とうとして身体に水分をため込むため、体重が増えるのだ。
腎臓にやさしい食事、つまりは健康な身体を長持ちさせる食生活を、今日から実践!
寿命を5年延ばす「肉・魚・卵」
「臓器や血管を長持ちさせる、栄養価の高い動物性タンパク質は長寿のカギ」(上月先生)。おすすめの部位や食べ方は?
サラダチキン
鶏の胸肉やささみを蒸して味つけした「サラダチキン」。脂身が少ない良質なタンパク源、そのうえコンビニなどで買えるとあって、上月先生も愛食している。
「ただし塩分にはご注意を。裂いて野菜と一緒にあえ、調味料がわりにするとよいでしょう」と森下さんはすすめる。さらに塩分が気になる人は、洗って塩抜きするのも有効だ。
ローストビーフ
低脂質な赤身の牛肉は良質のタンパク源。その栄養素を余すところなく摂取できる調理法として、森下さんはローストを挙げる。
「生肉には消化に役立つ酵素が含まれています。じっくりと長時間加熱するローストだと、その酵素が残っているので、消化吸収がアップするんです」
レバー
肉の中でも、森下さんが特に「食べてほしい」と挙げるのがレバー。
「抗酸化作用があり、粘膜の健康を保って免疫機能を高めるビタミンA、動脈硬化を遠ざけるビタミンB2が豊富。女性に不足しがちな鉄分や、血液をつくるビタミンB12や葉酸も含まれます」
さば水煮缶
中性脂肪値を下げる必須脂肪酸、EPA。それを手軽にとれるのが、さば水煮缶だ。
「血管の傷を修復して動脈硬化を予防する“長寿ホルモン”アディポネクチンの分泌にもEPAが関わっているんです」(上月先生)。
さらに「簡単に調理でき、良質のタンパク質もとれます」と森下さんも推薦。骨ごと食べられるので、不足すると高血圧を招くカルシウムもとれる。
サーモンの刺身
「日本人は、高タンパク・低脂質な白身魚をもっと食卓に取り入れてほしいです」と森下さん。抗酸化作用の高い色素を含むサーモンも白身魚の部類に入る。
熱を通さない刺身なら消化酵素を壊すことなく、吸収率もよい。しょうゆのつけすぎを避けるため、薬味やレモンをかけて、塩分は控えめに。
温泉卵
卵は調理法によって吸収効率が異なり、最も効率的なのは温泉卵。
「卵白にはアビジンというタンパク質の一種が、卵黄にはビオチンというビタミンが含まれ、生の状態だとアビジンがビオチンの吸収を阻害します。ですが加熱することでアビジンの働きは失われ、栄養を丸ごと摂取できるようになるんです。半熟卵だと消化吸収率がさらにアップ」(森下さん)
白身と黄身をかき混ぜない調理法のほうが吸収率がよいので、お弁当にはだし巻き卵やいり卵より、ゆで卵がおすすめだ。
寿命を5年延ばす「大豆製品・乳製品」
低カロリーな植物性タンパク質。「味が淡泊なので、塩分・糖分の加えすぎに注意」(上月先生)。大豆製品に加え、乳製品の中でも高タンパクの食品をピックアップしてもらった。
木綿豆腐
豆腐のタンパク含有量は、木綿豆腐は100gあたり6.6g、絹ごし豆腐は4.9g。選ぶなら木綿を。「豆腐はでんぷんも入っているので、私はご飯のかわりに食べています」と、上月先生。
3食のご飯を豆腐各1丁に置きかえている。しょうゆはかけず、チューブ入りのショウガ、ニンニクなどの薬味、ラー油などを添えれば塩分を控えつつおいしく食べられる。
ギリシャヨーグルト
ヨーグルトを水きりしたギリシャヨーグルトは濃厚な味わいで、タンパク質量は普通のヨーグルトの2~3倍。
「食べ応えがあるので間食にぴったり。忙しい時もサッと食べられるのも魅力」(上月先生)
ただし、甘いシロップ付きのものは糖質過多で糖尿病や腎臓への負担が心配。無糖を選ぼう。
納豆
納豆は植物性タンパク質が含まれるうえ、納豆菌がタンパク質の吸収を促進、消化酵素も含まれる優良食材。
「タンパク質吸収に必要な必須アミノ酸を含有する納豆とご飯を一緒に食べれば、ご飯のタンパク質も吸収され、一気にタンパク質量がアップ!」(上月先生)
栄養の相乗効果が狙えるトッピングベスト4もご紹介。
さらに健康に!おすすめ納豆トッピング4
・キムチ
同じく発酵食品のキムチと組み合わせ、腸内環境改善効果をダブルで。
・ポン酢
酢が納豆に含まれるビタミンKやカルシウムの吸収を促進する。
・のり
のりは食物繊維が豊富で、納豆菌は腸内で善玉菌のエサになる。共に腸内環境を整える。
・玉ねぎ
玉ねぎは腸内で善玉菌のエサになるオリゴ糖が豊富。さらに納豆菌がオリゴ糖を分解する。
栄養のプロがおすすめ!寿命を延ばす生活習慣5
毎朝、体重計に乗る
前日食べたものの結果が如実に表れるのが、朝の体重。「夜ではなく、起き抜けに。朝量ると、その日一日の食生活に気を配るようになりますよ」(上月先生、以下同)
旅館の朝食が理想
魚を主菜とする一汁三菜に納豆、豆腐が付く旅館の朝食は、タンパク質豊富な食事の理想形。「さらに牛乳を加えてタンパク質をプラス。塩分には注意して」
栄養成分表示を必ず見る
成分表示の数字を見ると予想以上に塩分や脂質が高いことも。「『塩分10%カット』でも、元の塩分が高ければ、塩分は過多。具体的数値を見る癖をつけて」
飲み物は無糖に
コーヒーや紅茶には砂糖を入れず、甘いジュースは避ける。上月先生は水筒に氷水を入れて職場に持参し、ミントを添えてリフレッシュしている。
食物繊維が多いものから食べる
海藻やきのこなど食物繊維が豊富な食材は、先に食べると脂肪や糖の吸収を緩やかにする。「噛んで時間をかければ効果がアップします」
寿命を5年延ばす「野菜」
「日本人は野菜が不足しがち。積極的にとりましょう」(上月先生)。長寿につながる栄養が豊富なものや、おすすめのとり方を紹介。
赤ピーマン
糖尿病や動脈硬化など、寿命を縮める病気を招く活性酸素。それを取り除く抗酸化物質のひとつがビタミンCだ。健康で長生きしたいなら見逃せない栄養素だが、日本人は不足している。
「そのビタミンCが豊富な野菜第1位は赤ピーマンです。次点が黄ピーマン。彩りに一品加えて栄養満点に!」(森下さん)
ブロッコリー
ビタミンCが豊富な野菜第3位はブロッコリー。他にもクロロフィル、カロテノイド、ビタミンEなどの抗酸化物質を含有する。
「アスリートでもブロッコリーの栄養に注目している人は多いです。見逃せないのは、タンパク質の代謝を促すビタミンB6を含むこと」と森下さん。
茎にもビタミンCや葉酸が含まれるので捨てないで。
レインボーサラダ
「日本人の1日の推奨野菜摂取量は350g。色が濃く栄養価が高い緑黄色野菜を1、食物繊維やビタミンCが豊富な淡色野菜を2の割合が理想」と上月先生。組み合わせに迷う場合に森下さんが提案するのが「レインボーサラダ」だ。
「野菜は色により、含まれる栄養素が異なります。『トマト(赤)、ブロッコリー(緑)、大根(白)、黄ピーマン』といった具合に、色とりどりにすると栄養も幅広くとれます」
寿命を5年延ばす「きのこ・海藻」
「腸内環境を整える食物繊維は、腎臓の健康維持のためにも見逃せない食材」(上月先生)。なかでも優秀なものは?
もずく酢
「腸内フローラが乱れ、便秘になると腎臓にも悪影響があります」と上月先生。そこで摂取したいのが食物繊維だ。なかでももずくは、糖や脂肪の吸収を緩やかにする水溶性食物繊維と、高血圧を予防するのに欠かせないカルシウムも含有する。
「ネバネバ食材は胃腸内の移動に時間がかかり、お腹がすきにくい長所もあります」(森下さん)
まいたけ
「きのこ類は腸を刺激し、便秘を防ぐ不溶性食物繊維が豊富。だしも出るのでおいしく減塩ができます」と上月先生。
森下さんのおすすめはまいたけだ。「血糖値の急上昇を抑える食物繊維がとれ、免疫を司るβ-グルカンやビタミンDなど栄養がたくさん含まれています」
きくらげ
きくらげはきのこの中でも特に鉄分を多く含む。「ビタミンDの含有量がトップクラスなのも見逃せません」と森下さん。
ビタミンDはカルシウムの吸収を促進するため、不足すると骨粗鬆症、ひいてはフレイルに。自分の足で歩ける寿命を延ばしたいなら見逃せない食材。
上月先生イチオシの調味料は「ラー油」
塩分を控えつつ、味にメリハリをつけるために上月先生が愛用しているのが「ラー油」だ。「冷ややっこにしょうゆ代わりにかけます。山椒入りも風味が出ていいですね」と上月先生。ただし、具材がたっぷり入った“おかずラー油”は塩分が高いのでNG。
「食事の最初に辛いものを食べると、誤嚥を防止するという研究結果もあります」(上月先生)。辛いものが、嚥下に関わる反射に作用する体内物質の分泌を促進してくれる。健康長寿のために、ぜひ定番調味料に。
寿命を5年延ばす「炭水化物」
糖質が多い炭水化物。「白米以外においしく手軽に食べられ、血糖値の上昇も緩やかな食品に置きかえを」(上月先生)
もち麦
食後の血糖値急上昇を抑えることは、血管年齢を若々しく保つ要だ。「白米や小麦粉など『白いものほど血糖値が上がりやすい』が基本です」と上月先生。
「玄米よりもおいしくて食べやすく、ご飯に混ぜて炊くだけなので手軽」と森下さんがすすめるのが、粘り性のある「もち麦」。
白米に比べて水溶性食物繊維が豊富で、糖の吸収を緩やかにする。炭水化物の中ではタンパク質が多く、体内のホルモンや酵素をつくる。
オートミール
オーツ麦を加工したオートミールは、白米と比較すると1食あたりのタンパク質とビタミン、マグネシウムや鉄などのミネラル、食物繊維量が多い。「特にマグネシウムは神経や筋肉の機能維持には不可欠です」(森下さん)
水溶性食物繊維は、血糖値の急上昇も抑えてくれる。「炊かなくていい手軽さが魅力。朝食など忙しいときに取り入れて」(森下さん)
豚汁
森下さんはみそ汁の魅力について、「大豆を発酵させたみそには抗酸化物質が豊富」と語る。
一方、上月先生は「塩分量を考え、みそ汁は1日1杯。自家製だしを使って具だくさんの食べるみそ汁に」。食物繊維豊富なごぼうなどの根菜、肉のタンパク質もとれる豚汁がおすすめ。
緑茶
動脈硬化を引き起こす活性酸素を取り除く、抗酸化ポリフェノールが豊富なのが緑茶。「緑茶のカテキンは糖の吸収を穏やかにするので、腎臓の健康の敵、高血糖を遠ざけてくれますよ」(上月先生)。食後の飲み物にはぜひ緑茶を。
焼き梅干し
森下さんのイチオシ食材は、焼き梅干し。「梅干しは表面を焼くことでバニリンという脂肪燃焼にまつわる栄養素がアップします。ただし塩分が多いので、少量をたたいて他の食材とあえ、調味料代わりに」(森下さん)。
「蜂蜜入りの梅干しは糖質が多いので避けましょう」(上月先生)。肥満を遠ざけることも、寿命を延ばすためには重要だ。
コンビニおにぎりも要注意!老化を加速させるリン酸塩の見分け方
リンは過剰摂取した場合、カルシウムと結合すると動脈硬化を進行させる。特にハムやベーコン、ソーセージなどの加工肉、スナック菓子やインスタント食品に含まれるリン酸塩は腸から吸収されやすい“老化加速装置”。
商品の原材料名を見て、「リン〇〇」「pH調整剤」「かんすい」「結着剤」「膨張剤」とあるものはリン酸塩を含む可能性大!
コンビニのお弁当やサンドイッチに含まれる場合も。
おいしく減塩できる神食材
薬味・スパイス
ネギなど香りの強い薬味、唐辛子などのスパイスで風味づけすれば満足度UP。
お酢・レモンなど酸っぱいもの
魚やサラダなどには酸味をきかせて。酢は血糖値の上昇を緩やかにする。
だし
自家製だしをベースにすれば、減塩できてうまみアップ。ただし市販のだしのもとは塩分に注意。
教えてくれたのは……
(取材・文/仲川僚子)