健康不安や減る年金など、長生きしてこそ直面する厳しい現実もあり、「寿命が長い=幸せ」とは断言しにくい時代になった。
幸せに死ねる県ランキング
ストレスなく幸せに人生を全うするにはどうすればいいのか。それには、どこに住んで、どういう暮らしをするのかが大きく関わってくる。
では、いったいどこならそんな暮らしができるのか、さまざまな都道府県別ランキングから探るべく、徳島文理大学教授の八幡和郎さんに分析の協力を仰いだ。
「やはり、各都道府県の県民性がよく表れていて興味深いですね。これをひもといていけば、幸せ度が見えてくると思いますよ」(八幡さん、以下同)
食生活とアルコールは寿命を左右する
まず、平均寿命だけを見ると男性では滋賀県、女性では岡山県がトップ。男女共に西南地域が上位で、温暖な地域が有利なようだ。だが、そのなかに堂々と食い込んでいるのが長野県(女性は京都に次いで4位)。
「これは、県を挙げて食生活改善に取り組んだ成果です。以前は寒い地域の特徴として塩分の高い食事が一般的で、長野県は長寿県ではなかった。そこで、医療と行政、教育が三位一体となって減塩運動を展開したのです」
それを機に、長野県ではさまざまな健康づくりの取り組みが根づき、今も長寿をキープしている。他の寒冷な県が下位に沈んでいることから、食生活の改善がいかに大事かがよくわかる。
食事時間ランキングでも、長野県は全国1位の長さで、よく噛んで食べていることがうかがえる。これは食べすぎを予防するだけでなく、肥満防止や糖尿病予防にも役立つ。
男性で全国1位、女性で2位の滋賀県も、長野県と同様、減塩運動に取り組んで長寿ランキングを駆け上がってきた県だ。
一方、かつては長寿を誇った沖縄県が男女とも上位にいないのは……。
「アルコールの問題かもしれません。私も沖縄に住んでいたことがありますが、特に沖縄の男性はお酒をよく飲む。長時間飲む傾向がありますね。飲みすぎが長生きに逆効果なのは明らかです」
たしかに、多量飲酒する人が多い県は総じて平均寿命も低い。お酒といったらタバコも気になるが、やはり平均寿命が低い青森県や福島県など北に多く、相関関係は否めない。タバコは周囲への副流煙の問題もあるので、お酒より深刻かもしれない。
「これらの地域は嗜好性が健康志向を上回っている文化圏と言えるでしょう」
楽しさをどこに求めるか、考えさせられる結果だ。
安心に暮らすには仕事あり、地震なし県
人生100年時代となった今、できれば適度に仕事を続けて収入を得られれば御の字。そこで失業率の低さを見ると、福井県が1位となっている。女性の就業率も7割超えと高く、こちらも堂々の1位。
「福井県はもともと繊維業が盛んで、担い手の多くが女性だったという歴史が影響していると思います」
これらのことを考えると、女性にとっては家族や世間の理解や協力が得やすく、自分らしい人生を送りやすいといえそうだ。
また、幸せに暮らすためには地理的な要因も見逃せないと八幡さんは指摘する。
「例えば地震。南海トラフ地震が想定されていますが、被災が予想される地域にすすんで住みたい人はいないでしょう。高齢になったら、なおさら。地震が少ないというのは安心して暮らせる大きな条件になると思います」
五感をフル活用して趣味を楽しむ幸せも
このほか、興味深いランキングに「音楽好き」「サイクリング好き」があるが、自分の身体をフルに使って感じ、楽しむことができるプリミティブな趣味を持つことは、幸せで元気な長寿を支えてくれる。
これらのランキングの下位を見ると、どちらにも青森が入っているのが平均寿命との関係を考えるうえで興味深い。
さまざまなランキングを総合し、八幡さんと編集部が幸せに長生きできる県として選出したベスト3は、「福井県」「滋賀県」「長野県」という結果に。
「福井県は平均寿命が男性7位、女性19位と比較的長く、豊かな自然もあり、地震も全国4番目の少なさ。前述のとおり、女性の生きやすさでは全国トップクラスだと思います。
滋賀県、長野県は食生活や運動習慣があって健康に長生きしている高齢者が多く、社会参加も盛んです」
これらの県は音楽やサイクリングといった趣味のランキングでも比較的上位にランクイン。まさに、健康で生き生きした暮らしが実践できるというわけだ。
「青森県や秋田県あたりはアルコール摂取量、喫煙率が高く、他県と比べると寿命も短いのがやはり気になります。北国は自然条件も厳しく、あまり楽天的な気質が育たない傾向があるのかもしれません。
音楽好きなど、文化的なテーマで上位にランクインしていないのもそのあたりに要因があるのかも」
なお、青森県は短命県を返上すべく、現在、県を挙げて健康啓発活動を実施している。
幸せに人生を終えるには、健康寿命と生きがいがあってこそ。たとえ、今の土地に住み続けるにしてもこれは肝に銘じたい。いや、もしかしたら、思い切って人生の後半を別の土地で生きてみるのもいいのかもしれない……。
週刊女性編集部&八幡氏が勝手にランキング
幸せに死ねる県はココだ!
〈1位〉福井
〈2位〉滋賀
〈3位〉長野
項目別幸せに死ねる県ランキング
寿命が長い県(男性)
〈1位〉滋賀 82.73歳
〈2位〉長野 82.68歳
〈3位〉奈良 82.40歳
1位、2位の滋賀県と長野県は県を挙げての減塩運動が功を奏した結果。寒冷な地域が下位なのは塩分の高い食生活の影響か。下位3県とも酒どころなのも関係がありそう。
出典:厚生労働省「都道府県別生命表」(2020年)
寿命が長い県(女性)
〈1位〉岡山 88.29歳
〈2位〉滋賀 88.26歳
〈3位〉京都 88.25歳
女性では前回2位の岡山が、同1位だった長野を追い抜いた。岡山がトップになったのは1970年以来。医療体制の充実が関係していると同県は分析している。
出典:厚生労働省「都道府県別生命表」(2020年)
多量飲酒する人が少ない県
〈1位〉岐阜 10.5%
〈2位〉滋賀 10.8%
〈3位〉静岡 10.9%
東北の秋田、青森に加えて、四国の高知県がワースト3にランクイン。なお、このデータは20~69歳の男性で、日本酒換算で1日に平均2合以上飲む人の割合を示している。
出典:国民生活基礎調査(2016年)
タバコを吸う人が少ない県
〈1位〉奈良 15.3%
〈2位〉兵庫 15.7%
〈3位〉京都 15.8%
北海道、東北地方が喫煙率が高く、近畿、中部、中国地方が総じて低い。喫煙者は非喫煙者よりも3.5年平均余命が短いというデータがある。
出典:国民健康・栄養調査(令和元年)
失業率が低い県
〈1位〉福井 1.4%
〈2位〉佐賀 1.5%
〈3位〉島根 1.7%
1位の福井は古くから繊維産業が盛んなほか、鯖江市を中心に日本の眼鏡枠の生産量の90%を製造し、機械産業も盛ん。基盤産業が多く、雇用機会に恵まれている。
出典:総務省「労働力調査」2021年
女性の就業率が高い県
〈1位〉福井 71.3%
〈2位〉石川 70.3%
〈3位〉山形 70.2%
中部圏の福井県、石川県が7割を超える就業率で共働きが多く、女性が仕事をする人生が実現しやすい。一方、最下位グループは近畿の3県。
出典:「男女共同参画白書」令和4年版
地震が少ない県
〈1位〉富山 163回
〈2位〉香川 169回
〈3位〉三重 173回
東日本大震災の影響で、東北の回数が多い。また、これまでに震度5弱以上の地震がないのは、福井、岐阜、愛知、滋賀、京都、鳥取、島根、山口、高知、宮崎の10県。
出典:気象庁震度データベース(2011年〜2020年)
食事時間が長い県
〈1位〉長野 1.45時間
〈2位〉山梨 1.45時間
〈3位〉秋田 1.44時間
10歳以上の1日当たりの食事時間の平均をランキングしたもの。ゆっくり食事することは血糖値の急激な上昇を抑えて健康長寿につながる。
出典:総務省「令和3年社会生活基本調査」
音楽好きな人が多い県
〈1位〉東京 64.4%
〈2位〉神奈川 59.5%
〈3位〉愛知 57.1%
過去1年間に、CDやスマートフォンなどで音楽鑑賞をした人の割合。上位は首都圏のほか、大阪や名古屋など大都市がある府県が多いのは、若年層の住民の人数との相関関係か。
出典:総務省「令和3年社会生活基本調査」
サイクリング好きな人が多い県
〈1位〉東京 14.4%
〈2位〉神奈川 9.8%
〈3位〉京都 9.7%
過去1年間にサイクリングをした人の割合。首都圏とは違い、自然が豊かな地域は自転車を利用することは多くても、スポーツとしてサイクリングをすることは少ないのかも。
出典:総務省「令和3年社会生活基本調査」
(取材・文/野沢恭恵)