老眼や近視は、一度なってしまったらもう改善しないものだと諦めてしまっていないだろうか。実は、老眼や近視の見えづらさはトレーニングで改善できるのだ。
老眼には逆らえないなんてウソ!
「誰でも持っている1000円札を使って簡単にできるトレーニングがおすすめです」と教えてくれたのは、二本松眼科病院副院長の平松類先生だ。1000円札の“透かし”の部分を見続けることで、老眼や近視でも見えやすくなるという。
なぜそんな簡単な方法で、見えづらさが改善するのか。
「実は『ガボールパッチ』という世界で唯一科学的に証明された視力回復法を簡単に行えるようにしたのが1000円札トレーニングです。
『ガボールパッチ』で使われるのはぼやけたしま模様の図。これを毎日見続けることで、脳の視覚野が刺激されて視力が改善すると証明されているのです」(平松先生、以下同)
平松先生は、約4年前にガボールパッチを初めて日本に伝えた人物。
「1000円札の透かし部分もガボールパッチと同様に輪郭がぼやけているため、これを見続けることで、脳が持つぼやけた画像を鮮明に補正する機能が高まるのです」
ではなぜ、脳の機能を向上させると視力が改善されるのか。
「『物を見る』というのは目だけを使っているのではなく、目と脳の連携によるものです。まず、目で物の情報を拾いますが、その際はまだぼんやりとした状態。
次に情報を伝えられた脳がいわば“手ぶれ補正”のような処理をします。その処理が正常に行われて初めて『見える』となるのです。ですから、その処理能力を上げれば見えやすくなります」
つまり、1000円札トレーニングは、目の性能自体を向上させるのではなく、脳の処理機能をアップさせるというわけ。
老眼で目を細めて見ようとすることも「できるだけ鮮明に見よう」としている行為ではあるが、無理やり目のピントを合わせているだけで脳は使っていないため、まったく別の行為となる。
「目ではなく、脳の処理機能を高めるため、老眼・近視の両方に効果があるのです」
1000円札トレーニングは、早ければ1週間程度で改善効果を実感できるという。
「疲れが出やすい就寝前にトレーニングをするのがおすすめです。やればやるだけ効果が期待できるので、早く視力をアップさせたい人は1日に何度かやるのがいいでしょう。
ですが、毎日やることが大事なので、無理のない範囲で続けてください。年齢を問わず、約7割の人で見えづらさの改善が期待できますよ」
「見えづらい」には認知症リスクも
「近視は眼鏡をかけることが多いですが、老眼は仕方がないと放置しがちです。しかし、老眼を放っておくと眼精疲労を引き起こし、肩こりやイライラなどの体調不良につながってしまいます」
物が見えづらいだけでなく、身体にも影響を及ぼすのだ。
「ですが、その不調は更年期障害など、ほかの原因によるものだと思い込む人が多いんです」
さらに、物が見えづらいと認知症にもなりやすい。
「人はものごとを判断する際、約8割の情報を視覚から得ています。そのため、見えづらくなることで、脳に送られる情報が大幅に減り、認知機能が低下するため、認知症のリスクが高まるのです」
たかが老眼とあなどっていると失うものは大きいのだ。
「老眼の進行をいかに遅らせるかで人生の質は大きく変わります。今、老眼に悩まされている人はもちろん、まだ老眼の症状を感じていない人も、今すぐ1000円札トレーニングを実践してみてください」
◆平松先生の患者さんの例◆
60歳女性、老眼鏡が不要に!
読書が趣味の60歳の女性が平松先生のもとを訪れたとき、老眼鏡を使ってようやく本が読める状態だった。
そこで、1000円札トレーニングを2週間ほど続けたところ、老眼鏡を使わなくても本が読めるようになり、ストレスなく趣味を楽しめるようになった。
7割が改善!1000円札トレーニング
【用意するもの】
1000円札1枚(※5000円札、10000円札でも可)
1.透かしを見つめる
明るい場所で目から20~30cm離れるよう、1000円札を両手に持つ。目の高さにかざし、中央にある透かしを見つめる
2.見えるギリギリのところでキープ
目線を保ったまま、両手を少しずつ下げていく。腕が水平よりもやや下にきたあたりで「透かしが見えるかどうか」ギリギリの状態になるので、それをキープ
3.透かしを確認
透かしを10秒間見つめる。その後、両手をゆっくり上げて元の位置に戻し、透かしの正しい形を確認する。これを10回繰り返す
専門医が警鐘 “老眼の危ない誤解”
1.老眼は放っておいてもいい
「老眼を放置しておくと、頭痛・肩こりなど体調不良の原因となることがあります。適切な老眼鏡をつくって対応しましょう」
2.老眼の原因は加齢だけ
「老眼の原因は、加齢以外に食事や生活スタイルが関連します。焦げた食品や油もの、ジャンクフードは避けたほうがいいでしょう。魚の脂はOKです。紫外線が強いと老眼は進行しやすいので、予防するようにしましょう」
3.老眼鏡はどれも同じ
「自分が見たいのはどの距離なのかによって、使うべき老眼鏡は異なります。裁縫などのごく至近距離を見るために使うのか、デッサンなど遠くと近くを交互に見るのかなど用途によって使い分けましょう」
(取材・文/江頭紀子 イラスト/伊藤和人)