加齢によって起こるひざの痛み。痛みに悩まされず、どこに行くにも自分の足でさくさく歩きたいと思っている人も多い。
現在、40歳以上でひざの痛みを抱えている人は、日本国内で推定800万人もいるとされ、その多くは変形性ひざ関節症という病気だが、実はこの病気、驚きの事実が──。
病院で教えているセルフケアで改善
長年、ひざの研究を行う、新潟医療福祉大学教授の大森豪先生は「年をとるにつれてひざの軟骨がすり減るのは、残念ながら避けられません」と言う。
「変形性ひざ関節症は、骨の変形が進んだ重度の状態であっても、痛みを感じない場合があります。
ひざの動きには、ひざの関節を包む袋状の『関節包』とそのまわりの組織が大きくかかわっているのですが、例えば、農作業など、日頃からひざの曲げ伸ばしをしていて、関節の柔軟性を高く保てている人は痛みが出ないと考えられています」(大森先生、以下同)
痛みがないゆえ放置してしまい、気づいたときには日常生活に支障をきたすほど症状が進行していたなんてことも。そこで大切なのが、大森先生が作成した、ひざの老化のサインを見つけるためのチェックリストだ。
「いま痛みがなくても、当てはまる数が多い人は要注意。日頃の運動不足、太ももの筋力低下、ひざの曲げ伸ばしのしにくさなどが、変形性ひざ関節症のリスク要因になります」
すでにひざに痛みがあると、痛みを避けるためにひざを曲げたまま歩くようになったり、出歩く機会が減ったりしてしまう。これも関節の柔軟性を失う要因であり、ひざまわりの筋力低下にもつながるという、負の連鎖を引き起こす。
「そういった状態を改善するためにおすすめなのが『ひざ伸ばし』です。整形外科やリハビリ施設でも積極的に行われている筋トレの一種。筋肉と関節包に同時に刺激を与え、筋力はもちろん、柔軟性も取り戻すことができ、痛みを軽減できるのです」
ひざの老化度をチェック!
□かかとがお尻につかない
□ひざをまっすぐに伸ばせない
□曲げ伸ばしのとき、「パキパキ」などと音がすることがある
□O脚が目立つようになった
□ひざに痛みや違和感が出ることがある
ひざ伸ばし【実践の目安 左右各10回×3セット】
太ももの筋肉と関節を刺激してひざ痛を改善
【やり方】
1.太ももに力を入れる
片方の足の太もも前側にギュッと力を入れる。そのまま5〜10秒間キープする。
2.太ももの力をゆるめる
脱力するように、太もも前側の力をゆるめる。(1)と(2)を10回繰り返す。反対の足も同様に行う。
力が入りにくい人は……巻いたタオルをひざの下に置くとやりやすくなる。タオルを上から押しつぶすように力を入れるのがポイント。
「曲げ伸ばし運動がひざの健康のカギです」
食べても血糖値が上がりにくい身体に
糖尿病の人には、血糖値を下げるために運動が推奨されているが、近年、特に「ピンク筋」を増やす運動で、血糖値を効果的に下げられることがわかってきたという。
国立病院機構京都医療センターの坂根直樹先生は
「ピンク筋は正式名称ではなく、正式には『2a』や『FTa』と呼ばれます。人の筋肉には持久力を担う赤筋と瞬発力に優れた白筋の2種類があります。今回紹介する運動法を継続すると、白筋内にミトコンドリアが増えてピンク色に変化するのですが、これが通称『ピンク筋』です」と話す。
ではなぜ、ピンク筋を増やすと血糖値が下がるのか?
「白筋が持つ糖を消化する力に、ミトコンドリアが持つ脂肪を燃焼する力が加わり、血糖値を下げるダブルの効果が期待できるのです」(坂根先生、以下同)
教えてくれた運動法は、筋肉量の多い下半身に負荷をかけることで効率的にピンク筋を増やすことができる。
「回数を多くするのではなく、ゆっくりと丁寧に行うのがポイントです。最近、7秒スクワットという言葉も使われています」
ピンク筋スクワット【実践の目安 10回×3セット】
下半身に負荷をかけて高血糖を解消!
【やり方】
1.スタートの姿勢をとる
肩幅より広めに足を開き、腕を肩の高さまで上げる。
2.ゆっくりと腰を下ろし、姿勢をキープする
「1、2……」と声を出して数えながら、5秒かけてゆっくりと腰を下ろす。そのままの姿勢で2秒間キープする。
3.スタートの姿勢に戻る
ゆっくりとスタートの姿勢に戻る。10回続けたら、1〜2分の休憩をはさみ、3セット行う。
「週2回でいいので続けてみてください」
足を上げるだけでトイレの回数が減!
寝る前に行ったのに、夜中に何度もトイレに起きてしまう。そんな夜間頻尿のお悩みについて、宮津武田病院院長の曽根淳史先生は「夜間頻尿は膀胱(ぼうこう)を空にしてから寝ても起こります」と話す。
ではその尿はどこからきたのか?
「答えはふくらはぎです。血液は、心臓やふくらはぎの筋肉などがポンプの役割をして循環させています。水を飲むと、胃や腸で吸収された水分はいったん血管の中へ。その後、身体は全身の水分量を一定に保とうとして、増えた水分を尿に変えます」(曽根先生、以下同)
ところが、加齢などによって心臓やふくらはぎの筋肉が衰え、ポンプ機能が弱まっていると──。
「血液を押し上げる力が足りないため、水分が循環できず、血管中にたまった水分が漏れ出して、むくみとしてふくらはぎにたまってしまいます。
このとき、いったんは血液中の水分量が減るため、尿はつくられないのですが、就寝時、重力の影響を受けなくなった水分は再び血管へ。その増えた水分を減らそうとして尿がつくられてしまうのです」
筋力低下からくる夜間頻尿の場合、朝と比べて寝る前にふくらはぎがむくみ、太くなっているのが特徴の1つ。対策としておすすめなのは夕方に30分間、足を上げることだという。
「足上げをすることで、ふくらはぎにたまった水分を血管に戻して、排泄(はいせつ)するよう促します」
横になって足を上げるだけなら簡単だ。夜のトイレで困っているならぜひ試したい。
夕方の足上げ【実践の目安 夕方に30分】
薬を使わずにトイレに起きる回数を減らす!※1か月続けて効果が感じられない場合は、専門医にご相談を。
【やり方】
1.あおむけになり足を上げる
足の下にクッションなどのやわらかいものを敷き、あおむけになる。
2.30分間、足を上げた状態にする
(1)の姿勢を30分間キープする。負担を感じないくらいの無理のない範囲で行う。
実践者の声:端河 潔さん(81歳)※取材当時
“足上げ”のおかげで夜、トイレに起きる回数が減りました!(取材当時)
数年前から夜間頻尿に悩んでいたという端河さん。「年齢のせいか……」とあきらめていたそう。
そんなとき、テレビ番組で紹介されていた「足上げ」を実践してみたところ、なんと、その日のうちに効果を実感。夜中、トイレに行く回数が1〜2回程度に減ったと話す。
自然の音を利用して耳鳴りの苦痛を改善
周囲に音がないのに、キーン、ジーンといった音が聞こえる耳鳴り。日本でおよそ300万人が悩んでいるとされ、原因はさまざまだが、症状が悪化すれば日常生活に支障をきたすこともある。
日赤名古屋第一病院の柘植勇人先生によると、「耳鳴りの悪化には人間に備わっている“注意力”が関係しています」とのこと。耳鳴りと注意力の関係とは、いったいどういったものなのか。
「耳鳴りに悩む人は、加齢などで聴力が落ちたことで、注意力が過剰に耳鳴りへ向いています。そのため、耳鳴りを気にしないようにしても、ついつい注意が向いてしまい、より耳鳴りを大きく感じてしまうという悪循環に陥ってしまうのです」(柘植先生、以下同)
耳鳴りに悩む人がつらいのは、寝るときが多い。周囲が静かなせいで、耳鳴りに余計に注意が向きがちだからだ。
「耳鳴りの治療の柱は音響療法で、就寝時に滝や小川のせせらぎ、雨などの自然環境音を流します。目をつむったときに音源がどこにあるかわからないようにします。音に包まれることで、耳鳴りに注意が向きにくくなり、苦痛を軽くする治療法です」
夜間の苦痛が解決しても、昼間も耳鳴りが気になる場合は補聴器を使うという。補聴器を適切に調整すれば、耳鳴りに注意が向きにくくなる。
「ただし、補聴器は専門的で繊細な調整が必要ですから、希望する人は耳鳴りの診療を専門とする耳鼻咽喉科医に相談してください」
寝るとき音響療法
就寝時に耳鳴りから注意をはずす!
【やり方】
1.自然の環境音を準備する
小川のせせらぎ、滝、雨の音など、意識に残りにくい音がおすすめ。波の音のように音量が変化するものは適さない。
2.音に包まれる環境をつくる
用意した音は、耳から遠い頭の上や足元に置く。スピーカーを壁側に向け、「音に包まれる」空間をつくることがポイント。
「耳鳴りを苦痛と思わないようにするための方法です」