もしものときに備えて加入するがん保険。がんを患っても、保障があれば心強いもの。しかし、いざその場面で肝心の保険金が下りなかったとしたら──。
がん保険の見直しを忘れずに
病気による身体的負担に加え、治療費の負担が直接家計に重くのしかかり、長年支払ってきた保険料もムダになってしまう。
「がん保険の保険金未払いや治療費が十分賄えなかったなどの事態はありうること。私のお客様からよく相談を受けるので、決してレアケースではないですよ」
こう語るのはファイナンシャルプランナーの竹下さくらさん。健康面のリスクが高まる50代を迎え、そのような“使えないがん保険”に加入していたら、安心とはかけ離れ逆に損するばかりだ。
「60代になると保険料は一気に上がるため、がん保険の見直しも現役時代に行うことをおすすめします。特に女性は更年期などで体調を崩しやすくなるので、思い立ったときに検討したほうがいいかもしれません」(竹下さん、以下同)
自身のがん保険が使えるか否かをどのようにして見分ければいいのか。見直しの判断材料になるそのポイントを見ていこう。
ひと昔前の保険では保障されない“がん”も
「一番のポイントは加入時期。ひと昔前に契約したものなら要注意です」
保険商品は所定の要件を満たさない限り保険金が支払われない仕組みになっている。
そのカギを握る保障内容は消費者のニーズに応じて時代とともに手厚くなっているため、古いがん保険ほど使えないことが多いという。
「例えば、上皮内がんといって上皮内にとどまっているものがあります。これは基本的には転移や再発がないため、ひと昔前のがん保険だとこの上皮内がんは保障対象外。つまり保険に入っていても、保険金は支払われません。
また、がんと診断されたときの診断一時金が1回に限られて再発時には支給されない、入院したときの入院給付金が65歳以降半減するなど、手薄な保障内容が落とし穴になっているんです」
加えて、がん治療のトレンドも変化している。医療技術の進歩により通院治療が主流となったり、健康保険外の自由診療が増えたりし、対応するがん保険も登場。
「ひと昔前のがん保険は通院治療や自由診療までカバーしていません。治療のトレンドとのミスマッチを招くことも問題です」
保障内容が細分化し保険料が高くなりがち
では、ひと昔前とはいつごろを指すのだろうか?
「2000年ごろが目安になります。それ以前に契約したがん保険は見直し必須です。これには1996年に始まった保険の自由化が関係します。護送船団法式により守られてきた保険業界に外資などが参入し、多様な保険商品の誕生をもたらしたんです。
2000年というのは各種の新商品が出そろったころで、以降進化しつつ保障内容の充実が図られていきました」
となるとひと昔前のがん保険は新しいものに切り換えたほうが良さそうだが、そのときに注意すべき点がある、と竹下さんは話す。
「幅広いバリエーションの保障内容をそろえるのが近年のがん保険の特徴です。あれもこれも必要と考えて保障を充実させると、保険料は当然高くなります。ですから月の保険料予算を決め、その範囲内で必要な保障を吟味して絞り込むのがいいでしょう。
また、保険金が支払われる細かな要件のチェックも欠かせません。例えば、先の診断一時金が複数回支払われるタイプは、商品によって2年経過後または1年経過後の条件がつきます。2年経過後のものを選び1年で再発したら診断一時金の請求は不可です。
通院給付金でいえば20日以上入院した後の通院を条件とする商品もあり、所定の日数に届かない短期入院の場合は通院給付金をもらえないわけです」
「使えないがん保険」必要なときに下りなかった!
「上皮内がんで入院・手術したが、保障対象外だった」「再発時に診断給付金を受け取れなかった」
→ひと昔前の保険だった
「再発でも診断給付金を受け取れるプランに契約していたが、要件を満たしていなかったために受け取れなかった」
→前回から2年経過後の再発という条件だった
「入院して退院し、通院治療となったが、通院給付金が受け取れなかった」
→20日以上入院後の通院という条件があった
「自由診療を受けたら、想定していた治療給付金が受け取れなかった」
→3大治療(手術・放射線治療・抗がん剤治療)以外は対象外だった
がん保険とがん特約、使い分けのポイントは
ここからはがん保険に関する疑問をひもときながら、見直しのヒントを探っていく。
がんの保障は医療保険にがん特約をつける形でもカバーできる。がん保険とがん特約、どう使い分ければいい?
「手厚い保障を望むならがん保険、そこまで望まないならがん特約と捉えがちですが、その認識が正しいのは数年前までのこと。近年では医療保険に付加する各種のがん特約でも、がん保険の保障と遜色ないものが登場しています。
したがって、医療保険+がん特約の1本で備えるのも選択肢のひとつです。がん特約では得られないがん保険の魅力には付帯サービスがあります。
セカンドオピニオンサービスや心のケアを行う健康相談サービスなどがそう。こういった付帯サービスを求める場合は、がん保険を軸にすればいいでしょう」
がん保険見直しのポイント5
□上皮内がんの保障はあるか
□診断一時金は複数回受け取れるか
□健康保険適用外の治療もカバーできるか
□入院保障より通院保障・収入ダウンに配慮しているか
□セカンドオピニオンサービスや健康相談はあるか
使い勝手のいいがん保険は上記を含む幅広い保障を選べる。月の保険料予算を決め、その範囲内で必要保障をセレクトしよう。
がん団信に加入すればがん保険は不要?
銀行などで住宅ローンを組む際、ほとんどの人は団体信用生命保険(以下、団信)に加入する。団信は契約者が亡くなったときに住宅ローンの残債を死亡保険金で完済できるものだ。
契約者の死亡時のほか、がんなど大病の罹患時に同様にローン残債をゼロにできる“がん団信”もある。がん団信に入っていたら、保障内容がダブるがん保険は不要なのでは?
「がん保険の診断一時金の多くは上限300万円なのに対し、がん団信の保険金は数千万円規模と大きいこともあり、不要と考えるのは一面では正解です。
ただし住宅ローンを組む場合、大抵の人は退職(60歳または65歳)までに完済を目指すということを見落とさないで。がん団信で守られるのはローン返済中で、完済したら保障は終わる。
一方でがんのリスクは60歳以降高まっていくからです。セカンドライフにおいてがんの保障を望むのであれば、加入するがん保険を継続するかローン完済前に見直しを行うべきですね」
そもそもがん保険は必要なのか? 健康保険などでカバーできないのか?
「貯蓄にゆとりがあるのなら、がん保険は必ずしも必要ないでしょう。がんの治療の大部分は健康保険の3割負担や高額療養費制度を利用できるため、貯蓄で賄うのが基本です。とはいえ、手術後のリハビリや投薬などが長期にわたると、そうはいきません。
仕事に影響を及ぼし、収入減のリスクも伴うのです。がん罹患後も長く生きる人が増えているいま、治療の長期化に保険で備える必要性は高まっていると思います」
(取材・文/百瀬康司)