「髪が顔に触れるだけで激痛が走り、メイクをすると気絶するかと思うほどでした」
と、タレントのハイヒール・モモコさんは報道で、帯状疱疹(ほうしん)による痛みを明かした。耳の中まで発疹が広がり、'18年に発症してから、現在も“帯状疱疹後神経痛”の痛みと闘っているという。
腹痛や虫歯と間違えて手遅れになることも
「帯状疱疹は、ただ皮膚にボツボツ発疹ができるだけの病気ではありません。神経にダメージを与え、つらい後遺症や合併症を引き起こす怖い病気なのですが、近年罹患者が増加傾向にあります」
とは、帯状疱疹に詳しい、皮膚科医の松尾光馬先生。
「帯状疱疹は水ぼうそうと同じ“水痘・帯状疱疹ウイルス”が活性化して起こる病気です。
水ぼうそうにかかると、そのウイルスが神経節に潜伏しますが、疲労やストレスによる免疫力の低下などにより、それが再び暴れ出し、神経を伝わり皮膚に発疹が生じます。その時に神経に炎症が生じ、痛みも伴います」(松尾先生、以下同)
50代以上に多い病気だが、近年、20〜30代の若い世代で罹患(りかん)する人も増えている。
「これは2014年に水ぼうそうのワクチンが市区町村で行う定期接種となったことが原因と考えられます」
子どもが水ぼうそうにかかると、そのウイルスに親も触れることで免疫機能を高めることができた。しかし、予防接種で水ぼうそうにかかる子どもが減り、そのブースター効果が得られず、親世代の帯状疱疹が増えたのだ。
「さらに、コロナにかかった後、帯状疱疹になるケースが多いことがデータ上明らかになっています。詳しいメカニズムはわかっていませんが、コロナの罹患が免疫の変調を起こし、ストレスの負荷なども相まって発症の引き金となっているのでしょう」
80歳までに3人に1人はかかるといわれる帯状疱疹。女性は男性よりも、1.4倍かかりやすいという。
「痛みから始まることが多いので、腹痛、頭痛が出ると内科へ、手足、腰の痛みの場合は整形外科へ、あごの場合は歯科へかかってしまうことが少なくありません。
発疹が出るまでは、帯状疱疹の診断がつきませんので非常に判断が難しく、間違った手当てをすることもあるようです。痛みの後にボツボツが出てきたら、すぐに皮膚科を受診してください」
痛みが出てから通常は4~5日で、発疹が出てくるということを意識しておきたい。
帯状疱疹の特徴的な症状
□皮膚や、その奥にチクチク、ピリピリするような痛みがある
□腹痛、頭痛、歯痛など、顔や身体の痛みが数日続く
□痛みがある場所に、ポツポツと発疹が出る
□発疹が身体の片側だけに出る
□発疹が水ぶくれになり、ただれる
怖いのは合併症!半身まひ、意識障害も
発疹の症状には特徴があり、身体の片側だけに発疹が出る。つまり、身体の左右両方に出たら、違う病気の可能性がある。
「検査を行い、陽性の場合は、抗ウイルス剤や痛み止めを処方します。抗ウイルス剤の効果があるのは早期の場合だけなので、早めの処置が大切です」
今年初めには、タレントの益若つばささんも「激しい頭痛と目が痛いのとおでこの水ぶくれでしばらくダウン」と重度の帯状疱疹で療養していたことを公表。
《目の近くだったからちゃんと治さないと失明する可能性あるんだって。そんな怖い病気だったの!?気づいたらすぐ治さないと後遺症が酷いらしい》と、想像よりも危険な病気だと自覚したとのメッセージを投稿。
松尾先生によると、ウイルスが目まで広がると角膜炎、結膜炎、ぶどう膜炎といった病気を合併し、視力低下や失明に至ることもあるという。さらに、軽い髄膜炎を起こすこともよくあり、頭痛などの症状も。
「発症の場所によっては、本当に怖い合併症を起こす可能性があります。顔に帯状疱疹が出ると、ラムゼイ・ハント症候群という顔面神経まひ、難聴、めまい、耳鳴りといった合併症を伴うことがあります。
困ったことに、3分の1は発疹より先にまひが出ることもあり、正しい診断がつかないことで症状が長引いてしまうこともあるのです」
より怖いのは、脳にウイルスが侵入した場合。
「脳炎を発症すると、発熱、幻覚、意識障害、人格障害を起こすことも。また、脳の血管にウイルスが侵入し肉芽種ができると、脳梗塞と同じように片まひが起こることがあります」
たかが発疹、と放置しておくと、今後の人生を左右する大変なことになりかねない。
合併症のほかに、後遺症の苦痛にも悩まされる。
「帯状疱疹後神経痛(PHN)です。ハイヒール・モモコさんも現在もその症状に悩まされているそうですが、帯状疱疹後、3か月痛みが続く人が15~20%、6か月は5%、1年以上続く人が1%います。焼けつくような痛み、電気が走るような痛み、皮膚に触れると痛むといった3つの痛みが特徴です」
PHNになりやすい人は?
「発疹が重症だった人、60歳以上は発症率が高くなります」
治療法は、いわゆる消炎鎮痛薬の内服は効果がなく、抗てんかん薬、抗うつ薬といった鎮痛補助薬やオピオイドなどの内服が主体となるようだ。
「女性の場合は更年期など、他の疾病による心因性の痛みで、長引いていることも」
長いと10年以上も続く痛み。とにかく帯状疱疹にかからないことが重要だ。
60歳過ぎたら不活化ワクチンで予防
帯状疱疹を防ぐためには栄養バランスがとれた食事、適度な運動、良質な睡眠、ストレスを避けるなど、一般的に免疫力を下げない生活を送ることが重要だが、効果的な対策はワクチンだ。
「帯状疱疹には生ワクチンと不活化ワクチンの2種類があります。生ワクチンは、1回の接種で約5年持続、不活化ワクチンは2回の接種で約10年持続します。
費用は1回あたり生ワクチンが1万円程度、不活化ワクチンが2万円程度。ただし、生ワクチンは60歳以上になると予防効果が低くなるため推奨しません」
早急に予防接種を受けたほうがいいケースとは。
「家族に帯状疱疹にかかったことがある人、糖尿病、がん、膠原(こうげん)病 リウマチ、慢性呼吸器疾患、慢性腸疾患など基礎疾患がある人は、ワクチン接種をしておくことをおすすめします」
ただ、ワクチンの定期接種で水ぼうそうにかかる人が激減することにより、水ぼうそうのウイルスが原因となる帯状疱疹も、将来的には稀な病気になると専門家たちは予想している。現在においては、合併症や後遺症に苦しまないよう何よりも予防が大切だ。
帯状疱疹悪化の怖い症状
・帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹の後、痛みだけが3か月から長いと5~10年続くことも。焼けつくような痛み、電気が走るような痛み、触れるだけで痛いアロディニア痛(異痛症)が特徴。
・ラムゼイ・ハント症候群
顔面まひ、難聴、めまい、耳鳴りの症状が出る。投薬治療により回復するが、一部でまひが残ることもある。
・脳炎
脳にウイルスが侵入し、意識障害、幻覚、人格障害などを発症。脳の血管に肉芽腫。
・その他の怖い症状
視力低下、眼球運動障害、失明、膀胱直腸障害、上肢運動障害
(取材・文・イラスト/ますみかん)