鹿が庭を訪れるような森の中の一軒家でひとりで暮らす69歳の女性がいる。「ウリウリばあちゃん」はお金をかけずに楽しく生活する姿を配信する“ユーチュー婆(ばあ)”だ。
マイペースで楽しむ森の中のひとり暮らし
最初に田舎に移り住んだのは27歳のとき。瀬戸内出身のウリウリ(ばあちゃん)さんは当時、東京で映画の衣装の仕事をしていた。
「着物が好きで始めた仕事だったのでやりがいはあったけれど、ジェットコースターみたいな毎日だったし、私は人に合わせたりするのが苦手だったんですよ。
できれば、ひとりでできるような仕事がしたいと考え、まず絣(かすり)を染めた糸で織る技術を身につけてから、憧れだった田舎暮らしを始めたんです」
山梨県の大月で、囲炉裏(いろり)や五右衛門風呂がある古い大きな家で暮らし始めた。
「集落の中にある家だったから、ご近所さんが普通に庭を通ったり、留守にしてると大家さんが家に上がっていたり、カルチャーショックも多かったわね(笑)。機織り以外に草木染めもするようになり、生活に使うものをだんだん手作りするようになりました」
その後、映画の助監督をしていた夫と結婚。33歳のときに子どもが生まれ、「自然豊かで人の少ない場所へ」と八ヶ岳近くに移住した。
大きな転機となったのは、5年前、iPhoneを手に入れたことだ。
「せっかくだから動画の撮影や編集もしてみようと思ったんです。深く考えず、YouTubeもやってみようと」
機織りや染め物、梅干し作りなど、自身の得意分野を撮影して発信していると徐々にチャンネル登録者数が増え、女優の水原希子さんがメディアで紹介したことで一気に有名に。現在の登録者数は3万人超だ。
「YouTubeは趣味ですが、仕事にもなって驚いています。好きなことでお金が稼げるなんて、夢があるよね」
作品を販売するクラフト市に出店すれば、ブースには「動画を見ています」と会いに来てくれる人も多い。
「声をかけてもらえるのはうれしいですね。70歳に向けて自分探しをしているうち、自分の特性をちゃんと知りたくて、病院で診断を受けたらADHD(※)だとわかったんです。前から『そうかも』とは思っていたけど……。※注意欠如・多動症
マイペースにできる田舎暮らしや今の仕事を選んだのは、自分に合っていたんだな、と納得しました。私の場合、人とは適度な距離感が欲しいので、インターネットを通じて関わりを持つのは性に合っているのかなと思っています」
家計簿はつけない!肌感覚で家計管理
「若いころは生活が苦しく、年金の積立金が払えなくて。息子には迷惑をかけたくないから、自分で稼いで生活するつもりだったので、年金を毎月3万円もらえるのは本当にありがたいです」
収入はほかにYouTubeのギャラが月2万円弱、クラフト作品販売などの雑収入が年間30万円程度ある。
「息子が毎月3万円仕送りをしてくれますが、いつか返そうとその分は貯金しています」
収入は決して十分な額とはいえないが、無駄を極力減らし、お金をかけず手間をかけることでやりくりする。家計簿はつけていないが、肌感覚で収入より少なめに使う“節約グセ”が身についている。
「今はネットスーパーで必要なものだけを買うように。野菜はもらうことが多いですね」
東京に住む夫とは、家計も住まいもすべて別だ。
「結婚してからこれまで一緒に暮らそうと思ったことはないんです。お互いにそのほうが気楽で。夫に何かあれば助けるけれど、今後もこのスタイルを貫くつもりです」
また、人付き合いにはお金をかけないのがモットー。
「親しくても毎回家に上がってお茶を飲まないようにしていますし、ご近所とも冠婚葬祭のやりとりはしない。トラブルも防げるし、気も使わなくてすむし……。価値観は人それぞれだと思いますが、私にはこれがベストです」
年齢にとらわれず、やりたいときに即挑戦
自らを「好奇心の塊みたいな性格」と話すウリウリばあちゃん。興味が湧いたものは、すぐ実行がモットー。
「何か新しいことを始めたいなら、あれこれ考えずにチャレンジすればいいと思うんです。年齢は一切関係ありません。やりたいときが『いちばんやるべき頃合い』なんです」
これからやってみたいことが、まだまだ山積みだ。
「ずっと欲しかった一眼レフが手に入りそうなんです。そうしたら『おしゃれな動画ができるかな……』なんて欲も出てきています」
YouTubeに出せば視聴者が応援し、共感してくれることも糧になっている。しかし、この先の未来に、自分がこの世からいなくなる日のことが頭をよぎることも。
「心づもりはしつつ、そのときに備えて今を楽しもうと思っています。毎日楽しいことや、やりたいと思っていることをやって、全力で日々を過ごす。そんな悔いのない人生を送れたら幸せですよね」
不足を楽しむ暮らし術「工夫をすれば毎日が豊かに」
お金を使わず、不足や不便を工夫で乗り切るのがウリウリばあちゃん流。毎日をハッピーに暮らすワザを教えてもらった。
服は安く買って自由にリメイク
服はできるだけ安く買ってきてリメイクするか、手作りが基本。「サイズが大きいものは、切ったりギャザーを寄せたりして、小さい服は足し布で調整します」
色も得意の染色で、玉ねぎの皮や青菜、お茶ガラを利用したり、ススキやヨモギなど身近な植物を使ったりして好みの色に染め直せば、オリジナルの1着のできあがり!
コツコツDIYで家を自分好みに
壁の塗り替えから、浴室の床のセメント塗りまで、手間と時間をかけて自分好みに作り上げれば喜びもひとしお。今はローンの支払いが終わり、住居費は0円。修繕をしつつ暮らしている。
「どんなことでもやればできるもの。あれこれ工夫するのも楽しいんです」
年金が少ないなら自分の力で稼ぐ
若いころから年金はわずかしかもらえないことに気づいていたため、最初からあてにせず、ひとりでできる仕事をして生きていこうと考えていたそう。節約だけでなく、稼ぐことにも積極的に取り組んでいる。
「働くことが大好きなので、バリバリ頑張っていますよ!」
ネットショップで作ったものを販売
YouTubeのほか、ネットショップで天然素材の染め物で作ったバッグや洋服を販売したり、クラフト市に出店したりと、現在の収入を得る手段はすべて自分の「好きなこと」。
「どれも簡単に稼げるわけではありませんが、諦めずコツコツ頑張れば、きっと何とかなると思っています」
買い物は最低限に!米、麦、豆を上手に活用
食材は、生協のネットシステムで必要なものだけ購入。米、麦、豆は欠かさず購入して、米は麹にしてみそづくりに、麦は粉にしてパンにする。豆は納豆や豆乳にし、ヨーグルトやマヨネーズに転用。
マヨネーズと酒粕を混ぜれば、チーズ代わりにピザのトッピングとしても使え、身体にもお財布にもやさしい。
絶品!手作り甘酒
暑い夏を乗り切るオリジナル発酵食
材料は、米麹200gと60度のお湯500ml。よく洗った保温ポット(魔法瓶)に材料を入れて、6時間置くと完成。
自作の発酵しょうが(しょうがを皮ごとすって冷蔵庫に入れ、毎日混ぜたもの)を少し加えるとアクセントに。
身体が喜ぶ食事とこまめな運動で医療費削減
もともとはジャンクフードが大好きで、お酒も飲んでいたが、田舎暮らしを始めてからは、具だくさんのみそ汁や手作りの発酵食品を積極的にとるようになった。さらに、スクワットや腕立て伏せなどのこまめな運動も欠かさない。
「おかげで身体の調子がすごくいいの。前はお酒代がすごくかかっていたけど、今はお酒代も病院代もなくなって一石二鳥!」
無駄を減らして好きなことにお金を使う
買い物は必要最低限、光熱費は倹約し、出かけるときにもコーヒーとお弁当を持参。その一方で、好きなものには予算を決めてお金をかける。出費にメリハリをつけることも節約を楽しむ秘訣だ。
「あまり物欲はないけれど、新しいPCやカメラは欲しい。上手にやりくりします」
人付き合いはお金の代わりに物々交換
お金がなくても感謝の気持ちは表せるもの。誰かに助けてもらったり、何かしてもらったら手作りのパンを渡すようにしている。人付き合いは、お互いさまの気持ちで無理なくやりとりができたほうが長続きする。
「何かしてあげることで返すこともありますが、ここではパンが結構、喜ばれるんですよ。都会と違って田舎は物々交換のしがいがあります」
(取材・文/後藤るつ子)