高齢の親が住む実家がゴミ屋敷化している。あるいは、親がゴミを溜め込んだまま亡くなってしまった。高齢化が進む現代で、こうしたケースは枚挙にいとまがない。昨年、今年と立て続けに両親を見送った一人娘のM子さん(56歳)は、後者に当てはまる。
両親の実家がゴミ屋敷に
「父が亡くなって以降、“部屋が散らかってきたな”という印象は持っていたものの、まさか一人暮らしの母が6LDK中の4部屋とLDKすべてを、足の踏み場もないほどにしてしまうとは。元から母は片づけが苦手でしたし、年を取ってからは体力的な弱まりが拍車をかけて整理整頓が余計にできなくなったようです」
生前、SNS記事を参考に、母親へ片づけを提案しても徒労に終わったという。
「高齢者はたとえ血がつながっている娘からでも『高齢者』と言われることに反感を覚えるだろうと予想し、『お母さん』を枕詞にしました。“お母さん、転倒は自宅内で起きるケースが多いんだって。心配だから片づけをしない? 私が指示通りに動くから”とか。『心配』を、“転倒後、骨折して寝たきりになったらお母さんが大変だよ”と言い換えたときもありました。
母は肺気腫を患っていたので、“お母さんは肺が悪いんだから、ホコリで肺の病気が悪化してほしくないんだよ”と伝えても効果ゼロ。暖簾に腕押しどころか、喧嘩腰でしか言い返してくれませんでした。“余計なことをしないでちょうだい!”、“全部いるものなの!”、“いつか使うかもしれないでしょう!”と」
そして実家は、ゴミ屋敷と化して遺された。
「晩年は何でもビニール袋や紙袋に入れることにハマっていたようです。荷物量の多さに最初は辟易しましたが、片づけ始めたものもあります。開栓済みのめんつゆやマヨネーズ、チューブタイプのわさびやにんにく……数え上げたらきりがありません。要冷蔵なのにテーブルや床に直置きしてあり、放置すると虫がわきかねないので。冷蔵庫の中を片づける前段階で、45リットルのごみ袋30袋以上あったと思います。
めんつゆは未開封のストックが10本以上あり、のけぞるほど驚きました。もう伝える相手はいませんが、“一人暮らしでこんなに使わないでしょう?”と、ツッコミを入れたいほどです」
冷蔵庫も、食品でぎっしりと埋められていた。
「冷蔵室の生ゴミはゴミ捨てで帰省する際、飲み物を冷やすために使うので処分しました。ですが、野菜室はいまだに食品がギッチギチに詰まっています。入っているのは野菜や火を通さなければ食べられない魚やきのこ類、豆腐まで。家庭用の大型冷蔵庫で身長が低い母は、冷蔵室の一番上に手が届かないため、とりあえず何でも放り込んでいたのかもしれません。
料理好きだけれど、最後は自炊もしんどかったのでしょう。材料は買ってくるけど、作る気力と体力がない。冷蔵庫内を見て、そんなイメージを持ちました。行動から察して、“鮭が食べたいなら今、鮭フレークっていう便利な瓶詰めが売ってるよ”と言っても、“そういう偽物はイヤなの!”と拒否されていましたし」
金銭的負担や負債は残された子どもたちへ
月に2、3回ゴミを捨てるためだけに帰省していると語るが、時間的猶予はない。維持する金銭負担がM子さんに重くのしかかるからだ。
「もともとは一区画だった土地を二区画にわけて販売したそうですが、隣家が引っ越したのを機に、父が隣も購入してしまったのです。隣にも家が建っているので、火災保険が2軒で月およそ1万2,000円。年間14万円以上の支出です。家の前に広がる庭地もうちが所有しています。母が亡くなるまで畑仕事に使っていて、現在は荒れ放題。
母が生きていた頃、伐採を業者に依頼したら、一度で19万円近く支払った記憶があります。近々業者に頼まないとお隣さんの庭に草木がはみ出てご迷惑をおかけしてしまうので仕方ないですが、痛い出費が続きます。
遺品整理と同時に食器棚などの大物家具も回収してくれる業者をネットで検索したのですが、2トントラック1台で8万円ぐらい。10台あっても足りない。両親ともに節約家で、掛け軸や宝石やブランド物がないことがわかっているのが、救いです。寄付は送料がかかるので、夫と2人で根気強く早めに片づけて、一刻も早く実家終いをするつもりです」
実家に移住する選択肢は「ないです」と断言する。
「最寄り駅まで徒歩15分をゆうに超える上に、駅までの道のりは日陰が皆無。高齢者が歩けば熱中症になりかねない。母に、真夏の日中は外出しないでと伝えていたほど暑いのです。加えて電車は各駅停車しか止まりません。仕事上、都内に住みたい私にとって、都心へのアクセスが1時間半を超える実家は不便です。私は自営業なので、打ち合わせのみでは交通費が支給されないという、経済的な難点が発生する可能性もコロナ禍より増えてきました。
実家近辺の、粘着質なおつき合いにも巻き込まれたくない。父が亡くなったときも母のときも、実家のドアを閉めて即、近所の人から電話が来たのです。『どこかから覗き見していた』と想像できたのが、気持ち悪くて」
実家に住めない理由は人それぞれ。だが、「終活は気力と体力があるうちに。自分のためではなく、家族のために」という現実を直視した気がした。
<取材・撮影・文/内埜さくら>