※写真はイメージです

 7月11日、女優で歌手の大場久美子さん(63歳)が自身のSNSで、尾てい骨上部の激痛により救急搬送されたことを報告した。

 医師の見立てによれば、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)検査などを受ける前段階ですでに「ほぼ99%椎体骨折、圧迫骨折の状態」だったという。

がんよりも怖い骨折のダメージ

 なぜ、救急搬送されるまで背骨の骨折に気づかなかったのだろうか。骨の専門医でもある光伸メディカルクリニック院長の中村光伸先生は次のように解説する。

「骨粗鬆(こつそしょう)症による骨折というのは痛みを感じにくいんです。そのため圧迫骨折を起こしても気づかない人も多く、『いつの間にか骨折』とも呼ばれています。

 圧迫骨折を放置しているうちに別の部分が次々と骨折する『ドミノ骨折』を引き起こすこともあります」

 背骨は椎骨という小さな骨が積み重なってできており、椎骨の要となるのが椎体という部分だ。

「骨粗鬆症になると、この椎体の内部がスカスカに変形してもろくなります。すると、身体の重みや、つまずく、転ぶ、くしゃみをするといった日常のささいな動作でも簡単につぶれて圧迫骨折を起こしてしまうんです」(中村先生、以下同)

 椎体圧迫骨折やドミノ骨折は治すことができるのか。

「治療は可能ですが、以前と同じ状態にまで治すことは難しいのが現実です。実は椎体圧迫骨折を起こした人は、その後、約5人に1人は5年以内に亡くなってしまうというデータがあります。

 太ももの大腿(だいたい)骨を骨折した場合はさらに低くなり、5年生存率は約50%です。これは2人に1人は5年以内に亡くなるという計算になります」

 なぜ、骨折が原因で命を落としてしまうのか。

「人間の身体は動くことで生命を維持するような仕組みになっています。健康な人でも寝たままの状態が1週間も続くと筋肉が10~15%落ち、転倒し、骨折しやすくなります。こうした悪循環に陥って寝たきりの状態になると内臓機能も筋力も低下し、死に至ってしまうと考えられます」

ひざたたきの効果
□脳が活性化!
□骨が強く!
□免疫力UP
□シワを改善
□血糖値の上昇を抑える
□脂肪を減らす

【やり方】

(1)椅子に座り、手は軽く握ってタテにする。ひざから下はできるだけ床と垂直にして、かかとと足の裏を床につける。

「ひざたたき」やり方1(イラスト/赤松かおり)

(2)右のこぶしで右ひざの上を、左のこぶしで左ひざの上を交互にトントンとたたく。左右10回ずつで1セット。1日に合計100回ずつをめざそう。

「ひざたたき」やり方2(イラスト/赤松かおり)

《ポイント》
・ひざ下の細長い形状をした大きな骨に対して、タテに刺激を与えるために太ももではなくひざの上をたたく。
・できるだけ筋肉が薄い場所をたたくほうが骨への刺激が大きくなる。

《NG》
 背中が丸まった状態では手を振り落とす距離も近くなり効果的ではない。またひざの前方、半月板付近は避けること。

「ひざたたき」NG(イラスト/赤松かおり)

ひざをたたくだけで若返りホルモンが

 中村先生は以前から、「健康の要は骨」と位置づける。実際、近年の研究によって、健康における骨の重要さが裏づけられつつある。

「私が医学部で学んでいたころは、骨に関して血液を作り出す部位であることくらいはわかっていたものの、“身体の軸”というイメージが大きかったんです。

 しかし、最近の研究によって、骨をつくるための骨芽細胞には、免疫力を高めたり、さまざまな臓器の機能をコントロールしたりする重要なホルモンを分泌する働きがあることが明らかになってきました」

 その中でも、今、注目されているのがスーパーホルモンとも呼ばれる「オステオカルシン」。

「オステオカルシンは“骨ホルモン”とも呼ばれており、血管を通って身体の隅々まで運ばれ、心臓や肝臓、腎臓、膵臓、腸など多くの臓器に働きかけます。

 その結果、全身の機能をトータル的に向上させ、肥満症や糖尿病、認知症、動脈硬化などの予防や改善など、幅広い効果が期待されています」

“ひざたたき”で若返りホルモン『オステオカルシン』の分泌が約20%もアップ!

 骨芽細胞によって骨をつくり、オステオカルシンの働きを享受するためには、骨に刺激を与えることが大切。

「骨を丈夫にするためにはいくつかの指令が必要で、そのひとつが骨への刺激です。骨は刺激を受けると丈夫になろうとして新陳代謝が活発になるんです」

 そのための方法として中村先生が提唱しているのが「ひざたたき」だ。

「ひざをトントンと軽くたたき、骨に震動を与える程度の刺激だけで骨芽細胞が活性化してオステオカルシンをはじめとする“若返りホルモン”が増えます。一番大切なのは、繰り返し、毎日続けるということです」

 ひざをたたくことは、ひざ下の大きな骨に効率的に刺激を与えられること、さらにいつでも気軽にできることが大きなメリットとしてあげられると中村先生。

 ある調査によると、OECD参加20か国のうち、1日に座っている時間は日本人が一番長いことが判明。

「座っている間は下半身の大きな筋肉をほとんど使わないため、血流や代謝が低下し、肥満や生活習慣病、心疾患や脳梗塞のリスクが高まるといわれています。

 将来の健康のためにも、座っている時間のうち1分でも2分でもいいので、ひざたたきの時間に置き換えられるといいですね」

日本人は1日に平均7時間も座っている!

秋の“蓄え”が冬の健康を支える

 骨粗鬆症を予防・改善して丈夫な骨をつくるためには、その材料も大切。

「骨をつくるためにはさまざまな栄養素が必要ですが、これまで多くの患者さんを診てきた経験からいえるのは、骨が弱っている人の9割以上はタンパク質の摂取量が足りないということ。タンパク質の量が足りないと骨の土台をつくることができません。

 自分ではとっているつもりでも足りていないケースが多いので、朝・昼・夜と毎食、意識的に摂取することが大切です」

 秋が深まるこれからの季節、骨の健康面では何をするのがいいのだろうか。

「寒い時期になると出歩く時間が減り、骨も筋力も低下しがちです。秋は冬に備えて“蓄える”時期です。秋の間にタンパク質をしっかりとって、運動や、日光浴、睡眠量も十分に。骨や筋力を“蓄える”ようにしましょう。

 また、自分の状態を知るためにも、定期的に骨に関する検診を受けていただきたいです」

若返りホルモンを増やす「食生活のコツ」

 身体に必要な栄養素の中でも、ビタミンKはオステオカルシンの生成に不可欠な成分。欠乏するとオステオカルシンの低下を招くことがわかってきた。

 また、最近の研究では、ビタミンKは骨折の予防や骨を強くする治療にもその効果が認められている。

 ビタミンKは、モロヘイヤやシソ、小松菜、ほうれん草などの野菜類をはじめ、肉、卵、乳製品、海藻類、果物、お茶などに多く含まれる。特に中村先生が注目しているのが納豆。

「ビタミンKのほか、タンパク質も豊富に含まれている発酵食品ですから。私の知る中では、最高で最強の健康食材です」(中村先生)

中村先生が注目する若返りホルモンを増やす食材「納豆」(イラスト/赤松かおり)
中村光伸先生●光伸メディカルクリニック院長。医学博士。整形外科医の知見から骨の仕組み、身体の動かし方を活かした骨のトレーニングを提唱する骨の専門医。骨の強化と全身の機能回復を両立する「骨たたき」を考案。著書に『ひざたたき 世界一かんたんな健康法』(アスコム)。
教えてくれたのは……中村光伸先生●光伸メディカルクリニック院長。医学博士。整形外科医の知見から骨の仕組み、身体の動かし方を活かした骨のトレーニングを提唱する骨の専門医。骨の強化と全身の機能回復を両立する「骨たたき」を考案。著書にひざたたき 世界一かんたんな健康法(アスコム)。

(取材・文/熊谷あづさ)

 

“ひざたたき”で若返りホルモン『オステオカルシン』の分泌が約20%もアップ!

 

日本人は1日に平均7時間も座っている!

 

「ひざたたき」やり方1(イラスト/赤松かおり)

 

「ひざたたき」やり方2(イラスト/赤松かおり)

 

「ひざたたき」NG(イラスト/赤松かおり)

 

中村先生が注目する若返りホルモンを増やす食材「納豆」(イラスト/赤松かおり)