YouTubeチャンネル『もののはずみ』@mono-no-hazumi

「高齢の親の介護が大変……」、「高齢者だけの暮らしで先行きが不安……」。

 そんな悩みを抱えていたとしても、71歳にしてシニアユーチューバー、もののはずみさんの暮らしぶりを見れば気持ちが明るく和やかになるはず。

大人だけの暮らしでも日々の変化を楽しむ

「長年、夫と3人の子どもと義父母の7人暮らしでしたが、義父が他界し、娘2人が結婚して家を出て、8年前からは、現在97歳の義母と74歳の夫、40代の息子と71歳の私の、大の大人ばかりの4人暮らしになりました」

 YouTubeチャンネル『もののはずみ』では、料理や季節ごとの模様替え、室内の整理整頓の仕方、キッチングッズの紹介など、日々の暮らしを発信し、多くの人たちから支持を得ている。

「私は幼いころから、“結婚したら楽しく明るい家庭を築きたいな”という夢がありました。だから、子どもたちが小さい時から四季折々の行事のたびに部屋に簡単な飾りつけをしたり、料理を工夫したりしていました」

 大人だけの4人暮らしになっても、“楽しく明るい家庭”は健在だ。

「大人だけの暮らしは変化が少ない分、イベントごとは今でも大事にしています。何もイベントがない日でも食事にほんの少しでも変化をつけて“ハレの日の食卓”を演出。マンネリ化を防ぎます。

 コロナ禍のころ、あまり外に出歩けず外食が恋しくなって考えついたのが“おうち居酒屋”。夫とふたりでDIYで箱型のカウンターを作ってテーブルの上にのせ、お酒や徳利などを飾って居酒屋のような空間を演出しました。

 雰囲気を少し変えるだけでも、いつものおかずでも楽しくおいしく食べられますよね」

 とはいえ、大人4人、3食分の献立も料理の用意も面倒と思うことは?

「料理は好きなのですが献立は別。どうしてもアイデアが浮かばなかったときは“親子丼”“煮込みうどん”“惣菜弁当”と決めて無理はしません。栄養バランスを常に考えるのも大変なので、野菜を半調理したものを冷蔵庫に常にストックしておきます」

足腰が弱って外出しにくくなった義母も交えて、おうち居酒屋を開催、非日常を楽しむことも 撮影/吉村規子

97歳の義母の姿に未来の自分を重ねて

 もののはずみさんは29歳で義母と同居を始め、今年で42年。97歳の義母とはどのような関係なのだろうか。

「義母は足腰が多少、弱くなってからも、手すりや壁につかまって家の中を自力で移動しています。私がしていることは、食事の用意と通院や往診の付き添いくらい。『介護、大変ですね』、『介護を頑張っていて偉いですね』とお言葉をかけてもらうたびに気恥ずかしさを感じています」

 とはいえ、暮らしを明るく、軽やかに繰り回すもののはずみさんとの生活は、義母の心の支えになっているに違いない。

調理台はこまめにリセットして料理がご機嫌に楽しく作れるように 撮影/吉村規子

「毎朝、夫と義母は『おはよう、生きてる~?』、『生きてるでぇ』と挨拶のやりとりをしています(笑)。私と時々、ケンカをすることもありますが、心の中で『おばあちゃん、ごめん』とつぶやくと、翌朝、義母が『昨日は言いすぎたわ~』と謝ってくれたりするんです。

 でも、私は照れがあるので『なんのこと~?』ととぼけて返してしまうんですよね。毎日のみんなのやりとりの中で、クスッとできる瞬間があれば、心がすれ違うことなく過ごせると思っています」

 さらに、時には人手を借りることも円滑なコミュニケーションに大切と考えている。

「以前からデイサービスを利用していましたが、今年に入ってからは週に2回、入浴補助のサービスを利用しています。入浴補助をしていただくと私たち夫婦も楽ですし、義母も看護師さんといろいろとおしゃべりをするのを楽しみにしているようです」

 もののはずみさんにとって、義母の姿は“未来の自分”なのだという。

「71歳の今は元気に動けていますが、年を重ねると義母のようになっていくのだろうなぁと思います。自分がいつかは通る道だと考えれば、その背中を見せてもらっているようで、ストレスもさほどたまらないんですよね」

 それでも心がモヤモヤした時には独自の方法でリフレッシュを図る。

「30分くらい自転車をこいで、電車で2駅くらい離れた町に行って、食品や生活用品などちょっとした買い物をするんです。

 無心で自転車をこいでいると、けっこうスッキリするんですよ(笑)。“できることをできる範囲で”をこの年代になってから意識しています」

ちょっと気分のいい朝に作る具だくさんの定番サンドイッチ 撮影/吉村規子

YouTubeで家族の一体感が高まった

 68歳から始めたYouTubeも、気分転換にひと役買っている。

「私はデジタル音痴で、デジカメで写真すらまともに撮れなかったんです。でも、新しもの好きなところがあるものですから、孫が動画配信しているのをきっかけにYouTubeに興味を持ち、『えいやっ!』と勢いで始めました。撮影に使っているのは10年ほど前に買ったデジカメです」

 YouTubeを始めたことで家族にいい変化が生じたという。

「撮影をする際に家族がすすんで協力してくれるなど、より一体感が高まったような気がしています。初めのころ、義母は私が何をしているのかよくわかっていなかったよう。

 でも今は、一緒に何かをするたびに『これは撮らなくていいの?』と声をかけてくれたりしますし、いざ撮影となるとまるで女優のように表情が変わります(笑)」

97歳になる義母と。義母の部屋はキッチンの隣にあり、すぐに駆けつけられる 撮影/吉村規子

 義母にとっても、予想外のいい影響がもたらされたのだ。

「義母は、今年の2月にかなり体力が弱ってしまって。そのことをYouTubeで発信したところ、たくさんの方から応援のコメントをいただきました。ひとつひとつを伝えたところ、『私もまだまだ頑張らなあかんなぁ』と言って食事も少し進むようになり、元気になったんです!

 大人だけだと内にこもりがちで単調に過ぎていくだけですが毎日に楽しみが増えて、活気と張りが出て……YouTubeを始めて本当によかったと思っています」

 もののはずみさんは自身の暮らしを“平凡な生活”だと語る。

「わが家は古くて狭いですし、料理の食材もインテリアも収納用品もどこでも手に入る普通のもの。100円ショップの新しいキッチングッズを試したり、あるものでDIYを楽しんでいます。

 そうした私の暮らしぶりを見て、『自分も何かやってみようかな』と思っていただけたら、とてもうれしいです」

もののはずみさん【かろやかな日常のコツ】
□出来栄えや完璧は求めない。ささやかでも“やりたいことをしてみる”
□先の不安を考えすぎない。年寄りばかりしんみり暮らすより“今を楽しく生きる”
□モノを減らして、食後5分の小掃除。毎日続けて“そこそこきれい”を目指す
□何もなくても食事を“ハレの日”に。食卓や日常に変化をもたらす
□あらかじめ切っておくなど野菜の半調理ストックで栄養面の心配を手放す

最初は撮影中カメラを倒してしまうなど不慣れなことも。試行錯誤しながら、今では世界各国7万人もの人が動画を視聴してくれるようになった(YouTubeチャンネル『もののはずみ』@mono-no-hazumi)
教えてくれたのは……もののはずみさん●3年前に孫のYouTubeを見て「おもしろそう!」ともののはずみを開設。愛情のこもった料理と暮らしを楽しむ姿が共感を呼んでいる。著書に71歳、74歳夫と97歳義母と大人だけで楽しく暮らす(ワニブックス)

(取材・文/熊谷あづさ)