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「日頃から自分の便を見る習慣をつけておくことで、早めに体調の変化に気づくことができます」

 と語るのは、呉市医師会病院排便ケアチーム「POOP(プープ)」の代表で、“うんち先生”として排便の啓発活動を行っている、大腸・肛門外科医の藤森正彦先生。

ノールック流しはNG!便の変化に注目を

 近年は洋式トイレが普及した影響もあり、排便後に便を確認せず流してしまう人が多いが、便は単なる食べたもののカスではないという。

「正常な便の約80%は水分で、残り20%が、食べ物のカス、腸の壁が剥がれたもの、腸内細菌が3分の1ずつという割合になっています」(藤森先生、以下同)

 この割合を基準に、水分が少なければ便秘、多ければ下痢(げり)になる。さらに、食べ物が消化され、便となるまでの過程で体内に異常があれば、色やにおいの変化が現れる。

「例えば、加齢やストレス、生活習慣の乱れなどにより腸内環境が悪くなると、便のにおいが強くなります。また、便の色が茶色いのは胆汁によるもので、何らかの病気で胆汁が出ないと便の色は白くなります。

 さらに、がんや潰瘍などで出血があると、黒い便が出ることも。特に血液が混じる血便は危険。気づいたらすぐに消化器内科を受診しましょう」

 日常的に起こる下痢や便秘も、甘く見るのは危険。

「下痢は、食あたりなど1日から1週間でおさまる場合はさほど心配ありません。しかし、1週間以上続く場合は、重大な病気が隠れている可能性が。免疫異常により腸に炎症を起こす潰瘍性大腸炎やクローン病などが考えられます

 他にも、急に便通が悪くなった、便が細くなったなど、急な排便の変化は要注意。

「特に45歳以上で急な症状が出るのは、がんの疑いも。そもそも便秘症状があるだけでも、放置すれば寿命が短くなるというデータも出ています。まずは毎日自分の便を見る。日頃からしっかり“観便”することが大切です」

うんちの中身は、水分約80%
 残りが食べ物のカス、剥がれた腸のカス、腸内細菌が1/3ずつで構成
 水分の量が少なくなると便が硬く小さくなり、多いと軟らかく量も多くなる。健康状態や腸内環境が反映される

うんちの中身

女性は身体の構造上、便秘になりやすい

 便の変化は病気だけでなく、加齢によるものもある。

「高齢になるほど便秘の有症率は増えていきますが、統計学的にも50歳から60歳ぐらいで男女共に増えることがわかっています」

 その理由として、食事量の低下や運動不足などがあるほか、女性は身体の変化が影響することも。

「若いうちはホルモンバランスの悪化などによる便秘が多いのですが、年齢を重ねると、排出力の低下が主な原因に。特に出産を経験していると、骨盤の底部で膀胱(ぼうこう)や直腸などの臓器を支えている骨盤底筋も緩んできます。

 骨盤底筋は、排泄(はいせつ)時に締めたり緩めたりすることで排泄をコントロールしている筋肉なので、骨盤底筋が十分に機能しないと、排便に支障が出ます

 骨盤底筋を少しずつ鍛えておくことが重要。

「横になった状態での深い腹式呼吸が効果的。しっかりお腹をへこませて息を吐ききることがポイントです」

 さらに、女性の身体の構造的な原因で起こるのが、直腸瘤(りゅう)という病気。

「女性には産道があるぶん、男性よりも骨盤底に隙間があります。そのため、長年いきんで圧力をかけ続けていると、直腸と膣の間の壁が弱り、隙間に圧力が逃げることで膣側にポケットのような膨らみができます。これが直腸瘤。

 そうなると、袋の中に便がたまって便秘になったり、いきんでも袋が膨らんでしまったりして、排便しづらくなってしまうのです」

キケンな便トップ3

キケンな便トップ3

・血便
 便の表面に血がついているよりも、便の中に血が混じっているほうが危険度は高い。なかでも腹痛や便秘、貧血を伴う血便や、出血量が多い場合は特に要注意。大腸がんや大腸憩室症、潰瘍性大腸炎など、消化器疾患の可能性が高い。短期間に何度も多量に血便を認める場合は、命に関わる緊急事態の可能性も。

・黒色便
 便秘などで水分が少ない時の濃い茶色ではなく、かさぶたのように血が固まった黒さの便は注意が必要。これは食道や胃、十二指腸から出血しているサイン。胃潰瘍や胃がんから出血していると、血液中の鉄が酸化して黒い便となる。

・白色便
 バリウム検査の後に白い便が出ることがあるが、検査後でない場合は内臓の不調が疑われる。ロタウイルスに代表される感染性腸炎の一部で白い便が出ることがあるほか、白~レモン色の場合には肝臓と胆管の異常が考えられる。

便秘の放置は危険!命に関わるリスクも

 では便秘は身体にどんな悪影響があるのか。

「便通が悪いと悪玉菌が増えて腸内環境が悪くなるので、がんや他の病気にも罹りやすくなります。心臓や脳、腎臓の病気、大腸がんのリスクも上がるので要注意です」

 たとえ大きな病気を発症しなくても、便秘放置の行く末には負の連鎖が待ち構える。

「QOL(生活の質)の低下です。膨満感や腹痛などの不快な症状があれば生活の質が落ちますし、やがて家から出なくなり、うつ症状にもなりかねません。

 50代以降、さらに年を重ねていったときに排便をコントロールできていないと、あらゆるリスクが高まります。たかが便秘とはいえないのです」

 正しい排便のための第一歩として、藤森先生がおすすめするのは、排便日誌。

「便形状チェックを参考に、形、色、量を見て毎日記入します。食事や水分、下剤使用も記入するといいでしょう。

 記録して自分の排便状態を把握することで、自分に適した食べ物や、正しい排便ペースもわかってきます。ネットなどでダウンロードできますので、ぜひ始めてほしいですね」

便形状チェック「3〜5の状態をキープすべし」

 定期的な検診も必須だ。

「症状がないから大丈夫、ではなく、症状がない段階で、目に見えない変化を発見できるからこそ意味があるんです。定期的に検診を受けていれば、大腸がんに命を奪われることはまずありません。特に50歳以降の方は、必ず検診を受けましょう」

知っておきたいうんちの『3のルール』

 実はそれ、便秘じゃないかも!?

1)排便は1日3回から1週間に3回
2)1回の排便は3分以内
3)いきむのは3秒以内(うんちを出すのは12秒で)
4)温水洗浄便座は3秒程度まで(弱く)

 便秘は良くないということは理解できたものの、「そもそも正しい排便を理解できていない人も非常に多い」と藤森先生。

「まず便の中身はほとんどが水分ですから、正しい状態を保つには水分をしっかりとることが非常に大事です。夏場はみなさん意識して水分をとっていると思いますが、急に寒くなったりすると、水分摂取量が減るため、便秘の患者さんが増えるんです。

 また、高齢の方は喉の渇きを自覚しづらくなるため、水分をあまりとらないことで便秘になりやすいといえます

 さらに、自分は便秘だと自覚している人も、その判断基準について一度見直したほうがよさそうだ。

「メディアなどの影響で、毎日排便がないと便秘だと思っている方が多いですが、決してそうではありません。

 結果的に毎日便が出るような生活習慣や食事をすることが大事なのであって、刺激の強い薬を飲んだりして無理に毎日出すことが健康的な排便ではないんです

 では、どんな状態が正しい排便なのか。

「気持ちよくスッキリ出せれば1週間に3回でもいいんです。逆に、毎日出ていても、気持ちよく出せなかったらいい状態とはいえません。排便の頻度やかける時間など、“3のルール”としてまとめたので、ぜひ参考にしてください」

藤森正彦先生●呉市医師会病院排便ケアチームPOOP代表。大腸・肛門外科医。2018年より他職種で「POOP」を立ち上げ、地域で排便についての啓発を行っている。著書に『腸、いい感じ』(南々社)がある。

教えてくれたのは……藤森正彦先生●呉市医師会病院 排便ケアチームPOOP代表。大腸・肛門外科医。2018年より他職種で「POOP」を立ち上げ、地域で排便についての啓発を行っている。著書に『腸、いい感じ』(南々社)がある。

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取材・文/當間優子