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「新型コロナウイルスやインフルエンザの感染予防、花粉症対策など、現代人はマスクをする機会が多いですが、そのせいで口呼吸になる人が増えています。呼吸は本来、鼻でしますが、マスク着用時は口呼吸になりやすく、それが習慣化してしまうんです」

舌力の衰えで老け顔&不健康に

 そう話すのは、延べ数十万人もの患者の舌を診てきた耳鼻咽喉科専門医の桂文裕先生。さらに鼻呼吸は舌と深く関わっているという。

「舌は300gほどの筋肉でできた臓器です。鼻呼吸をするとき、舌は上あごに接していますが、鼻呼吸をしていなければ下がり、『落ち舌』の状態になります」(桂先生、以下同)

 口呼吸になると、空気の通り道を確保するために舌が下がる。その結果、動きが制限されて舌の筋力「舌力(ぜつりょく)」が使われず、衰えてしまうのだ。

「おのずと滑舌も悪くなり、声がかすれたり、出にくくなることもあります。わかりやすかったのは、マスク生活が始まって顔のたるみが気になる人も増えたこと。

 口呼吸で舌骨周囲の筋肉が衰えると、ほうれい線が深くなったり、フェイスラインがぼやけ、二重あごや首のシワが目立つようになります」

 実際、8割超の女性がマスク生活で「老け顔になった」と答えた調査もある。

「サラサラの“身体に良い唾液”は舌を動かすことで分泌されるので、舌力が低下すればドライマウスになって口臭や歯周病が悪化するケースも。

 また、やわらかいものが好まれる現代の食生活の影響も大きいですね。舌は食べ物を飲み込みやすい形にして食道に送り出しますが、舌力が落ちればしっかり噛んで飲み込むための舌の機能が衰えてしまうんです」

 加えて加齢が舌力の低下に拍車をかけていく。

ロッテの2022年の調査ではマスク着用で約4割の男女(20~60代)が口呼吸になっていると答えていた ※写真はイメージです

「シニア世代では口腔機能の老化『オーラルフレイル』につながります。食べこぼしたり、わずかでもむせ返りがあったら舌力低下のサイン」

 高齢者は食べ物をうまく飲み込めなくなるため、栄養不足になり、心身の活力が下がって寝たきりになることも。

 飲み込む力が低下するので、気管に食べ物などが入って「誤嚥(ごえん)性肺炎」を引き起こすこともある。この病気は現在、日本人の死因、第6位にもなっている。

「長時間、スマートフォンやパソコンを見ているときも、舌力が弱いと重力に負けて舌が下がり、無意識のうちに『落ち舌』になりがち。日頃の姿勢やクセを正すことも大切です」

肩こりやアレルギー、不眠なども引き起こす

 舌力の低下は舌とは一見、関係なさそうな不調や病気を引き起こすこともある。

「全身の筋肉は、筋肉を包む膜『筋膜』を介して連動しています。舌まわりの筋肉はそのスタート地点にあり、全身の筋肉や骨格とも密接にリンクしています。だから舌力の衰えからゆがみが生じて、姿勢、頭痛、肩こり、腰痛の原因にもなってきます」

 さらに、口呼吸だと呼吸が浅く、体内細胞への酸素供給量が不足しがちになる。

「脳が常時酸欠状態で集中力が低下、筋肉が酸欠になると疲労や運動時の息切れなどが起こりやすくなります。その結果、免疫機能低下で感染症やアレルギーを引き起こしかねません」

 また、いびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)につながるケースも多い。悪化すると、心臓病や脳卒中のリスクをも高める症状だというから驚きだ。つまり、舌力の低下は死を招く直接的な原因にもなりかねない。

「自分の舌力をチェックしたいなら、まずは舌先がどこにあるか、意識してみて。舌先が歯の裏に当たっていたら確実に『落ち舌』ですね」

 ほかにも「音鳴らし」で、舌の動きを確認してみよう。

舌レッチで健康な毎日を

 桂先生は、舌は筋肉でできているため、鍛えれば元に戻るはずだと考え、患者に病気予防のための『舌活』を推奨している。

舌力が低下すると……

現在の食生活を伺い、やわらかいものをよく食べる方には、少しかたい根菜類などをよく噛んで食べるようにアドバイスします。

 また、話すことも舌力を維持するためには大切。ひとり暮らしの方や高齢者はできるだけ人と交流し、話す機会をつくってほしいですね」

 さらに、ある歯科医の指導法をヒントに、舌を鍛える簡単なストレッチを考案した。

「その先生は患者さんの姿勢やクセを修正しながら舌を鍛え、舌の位置や噛み合わせを改善させていたんです。私が誰でもできるようにアレンジして患者さんに実践してもらったところ、多くの方のアレルギーやいびきなどが改善しました」

 今回はその一部をご紹介。この「舌(した)レッチ」の目的は、「落ち舌」を正常な位置に戻して口呼吸を防ぎ、舌のこりをほぐし、可動域を広げて舌力を上げることだ。

「舌を伸ばしたり、回すと表情筋や咀嚼(そしゃく)筋といった顔まわりの筋肉も連動するので、たるんだフェイスラインや気になる二重あごもスッキリするはずです。血液やリンパの流れも良くなるので、むくみや乾燥肌、シワ、クマなどの改善も期待できます」

 舌は血流が多く、新陳代謝のスピードも速いため、早くて7日間、遅くとも1か月間、毎日実践すれば、効果は確実に表れると語る。

習慣化するためには、ブラッシングの刺激で舌や口まわりの血流が活発になった歯磨き後にやるのがおすすめです。まずは朝晩、1日2回の習慣にしてみてください」

 続けていると、舌の動きが良くなるのが実感できる。

「舌の血色が良くなったら、舌レッチが効いてきた証拠。なかには、舌についていた歯型が消えたり、腫れぼったかった舌がシャープな形になったりする人もいます。

『舌活』を続ければ、健やかな日々のベースとなる呼吸が楽になり、睡眠の質が向上。脳も活性化し、姿勢や身体のバランスも整いますよ」

落ち舌になっていたら要注意!
 舌の筋力が弱く、正しい位置よりも下がった状態のこと。舌先が歯の裏や宙ぶらりんの人は落ち舌の可能性大。

音鳴らしで舌の動きをチェック!
 舌全体を上あごに吸いつけ、口を大きく開けて舌を上あごから離したときに「ポン」という音を鳴らせるかやってみよう。音が鳴れば舌の筋力が十分にあり、鼻呼吸ができている可能性が高い。

舌力向上で若返る! 1日5分「舌レッチ」

 舌を長く伸ばして回すと、舌の可動域が広がり、周辺の筋肉も鍛えられる。さらに、首まわりの血流も良くなるため、若返り効果もアリ!

 腕を身体の後ろで組んで下に引っ張り、胸を張った姿勢で行って。

1:舌伸ばし

 舌先を鼻の頭とあご先につけるイメージで30秒、上下にゆっくり動かす。次に舌をできるだけ速く上下に動かす。30秒間で30往復以上が目標。

2:舌回し

 口を閉じたまま舌先を歯と歯ぐきの間に入れ、境目を押すように舌を伸ばしながら回していく。時計回りに素早く10周、反時計回りに素早く10周回す。それぞれ3セットずつ行う。

1日5分「舌レッチ」 イラスト/アサミナオ
桂文裕先生●ましきクリニック院長。医学博士・日本耳鼻咽喉科学会専門医。「舌博士」としてメディアにも多数出演。著書に『舌こそ最強の臓器』(かんき出版)。

教えてくれたのは……桂 文裕先生●ましきクリニック院長。医学博士・日本耳鼻咽喉科学会専門医。「舌博士」としてメディアにも多数出演。著書に『舌こそ最強の臓器』(かんき出版)。

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取材・文/オフィス三銃士