東日本大震災を機に“持ちすぎない暮らし”に舵を切ったと話すのは、都内の一軒家で夫と息子の3人で暮らす66歳のpocohaha(ポコハハ)さん。
“安全に暮らす”がシンプルライフの出発点
「地震直後に家に帰ってみると、食器棚や本棚の中身が散乱していて、大型の家具の見直しをしないと危ないなと思ったのが始まりでした」
最初に取りかかったのは、キッチンに置いていた背の高い食器棚。できるだけゴミにせず、今持っているものを大事に使いたかったので背の低いものに買い替えるのではなく、上下2つに分けて使うことにした。
「転倒の危険性があるので2つに分けたのですが、その分のスペースを確保するために、もともとあったストッカーを処分するのが大変でした。ストッカーの中に収納していたものの一時置き場が必要となって、他の部屋の片づけも同時進行しなければならなかったからです」(pocohahaさん、以下同)
途中で挫折しそうになりながらも、やり出したら止まらない性分で、さらに本棚、衣装ダンスと大型家具の処分を進めた。大量に収納されていたものの片づけを通して、モノが少ないほうが管理の手間も減り家事が圧倒的にラクだと気づく。
以来、不要なものを潔く減らしていき、持ちすぎないシンプルな暮らしを実現。彼女がやめたことのひとつに「カーテン」がある。
「分厚くて重いので洗濯が大変で、背が低い私には取り外すのも取り付けるのも毎回ひと苦労。思い切って目隠し用のガラスフィルムに替えてみたら、これが大正解!
つらい作業から解放されて、その分時間も生まれたんです。寒冷地の方にはおすすめできませんが、冬は雨戸もありますし、透け感が心配な人はまずレースのカーテンと併用してみてもいいと思います」
ほかにも、マットやカーペット、お風呂の重いフタなどもやめたことで、掃除やメンテナンスの手間が減り、家事が時短になってストレスも減った。
今の自分に必要か、定期的に問いかける
「“あって当たり前”という考えをやめて、生活する中で今の自分にとって本当に必要か定期的に持ち物を見直しています。自分も日々、変わっていきますし、50代と60代とでは必要なものも変わってくるんです」
値段や思い出に執着して、着ないのにとっておいた洋服類も潔く処分。
「デザインが気に入っていても、重かったり肩がこったりして着心地の悪いものは手放しました。洗濯機でガンガン洗えることも大事なので、クリーニングや手洗いが必要なものはそもそも選ばなくなりました。着ないのにとっておくことは、スペースの無駄にもなります」
“服を1年間買わないチャレンジ”をしたことも。
「それが、なにも困らなかったんです(笑)。むしろ、よく着る服と着ない服とが明確になって、着ない服を処分するきっかけになりました」
とはいえ、ミニマリストを目指しているわけではないので“最小限”にこだわらず、自分にとって心地いいおしゃれを楽しみたいと語る。
自宅の整理を進めるかたわら、今は介護施設に入居する父親の家も片づけた。
「まず、モノの多さに驚きました。ただ、親世代はモノを捨てることに抵抗があるでしょうし、モノが多いのは仕方ないので、無理に減らす必要はないと思っています。だから消費期限の切れた食品や薬、欠けた茶碗や用途の同じ鍋など、とっておくと危ないものや明らかに使わないものは処分しました」
いちばん大変だったのは、着道楽な父が集めた大量の洋服。本人に聞きながら好きな服だけ数十点残したところ、着たい服がすぐに見つかり、コーディネートがしやすくなったと喜んでいる。
実家の片づけで、「子どもたちになるべく負担をかけないように、体力のあるうちに片づける」という老前整理の重要性を改めて意識したという。
家事に時間を奪われず、身軽に心豊かに
現在は自身の老前整理も9割がた完了。けれども、「なんでも減らせばいいわけではない」、と語る。
「最近は地震も多いので、防災備蓄など必要なものはしっかり備えています。非常食は食品ロスを防ぐために、食べなれた食品をローリングストックして使い切っています」
また、夫や子どもの領域には干渉せず、手をつけるのは共用スペースに限定している。
シンプルライフを続けて10余年、家事の手間が以前より減っただけでなく、推し活や趣味の読書など、好きなことに多くの時間やお金を費やすことができるようになったという。
「60代になってからは投資も開始。毎朝、YouTubeの投資のチャンネルで勉強をするのも日課です」
仕事もまだ続けており、毎月、手取り額の約20%を貯蓄として投資に回している。さらに、無料の音声配信サービス「Voicy」を使っての英会話の勉強も、日課のひとつ。
「子どものころから船で世界一周旅行をするのが夢で。そのときに備えています」
その夢の実現は2年後を目指して計画中だ。
「楽しみがあるから、家事もがんばれます。私は旅行や、家族との外食など“体験”にはお金を惜しまないタイプですが、被服費にはかけなくて平気。
また、細かな節約は性格的に苦手なので、携帯電話やガス、電気代などを見直して固定費を節約しています。自分にとって価値あることにお金をかけたいから、お金の使い方にはメリハリをつけています」
60歳を過ぎてからは、人生の残りの時間を意識するようになった。
「夢は人生の原動力になります。何かに夢中になっているときがいちばん楽しい。だから、やりたいことに出合えたら、頭で考える前にまず、手足を動かしてみるようにしています。私の人生にとって、『自分の心が動く体験』は、とても大事なんです。
そのためにも健康で、できるだけ暮らしを身軽にして、人生を愉(たの)しみたいと思っています」
pocohahaさんがやめたこと
・開けにくい扉
「廊下の突き当たりにある押し入れの扉のかわりにレースのカーテンをかけたら、風通しが良くなり、中のモノも取り出しやすくなりました。普段は開けっ放しで風を通し、来客時はサッと閉めて目隠ししています」
・カーテン
一部の窓に目隠し用のガラスフィルムを張った。カーテンのお手入れが不要になり、ストレスが激減したそう。
「簡単に張れて剥がせるので賃貸でもOK。窓1枚分から試してみるのがいいです。外からもどう見えるか一度、チェックしてみて」
・風呂のフタ
重くて掃除も大変だったので、こたつの下に敷く厚さ1.5cmのアルミの保温シートで代用。
「軽いのでラクに干せますし、カビが生えたら周囲を切って使えるので便利ですよ」
pocohahaさんが減らしたモノ
・本
以前、ガラス扉の本棚に並べていた本は、防災の観点から厳選し、スツールにもなる収納ボックスに移動。
「上にクッションを置いてソファ的に使い、孫が遊ぶ場所になっています」
・カトラリー類
たくさん持っていたカトラリーやキッチンツールはシステムキッチンの引き出しに必要な分だけ。
「下には滑り止めシートを敷いてズレを防止」
教えてくれたのは……pocohahaさん●シンプル暮らしの達人で、ミニマリストの人気ブロガーponpocoさんの母。pocohahaさんのシンプルなシニアライフを1冊にまとめた『66歳、まずやってみる。人生を愉しむシンプル暮らし』(ponpoco著/扶桑社)が発売中。
取材・文/荒木睦美