骨の強度が落ちることで引き起こされる骨粗しょう症。
「男性より女性のほうがなりやすい病気。原因となる骨密度の急激な低下は、閉経後に多く見られます」
女性ホルモンと骨、実は密接な関係が!
そう語るのは、骨粗しょう症と更年期障害を専門とする寺内公一先生。骨と女性ホルモンの間には、切っても切れない関係があるという。具体的にはどういうことなのか。
「骨の中には、骨を壊す破骨(はこつ)細胞と、骨をつくる骨芽(こつが)細胞があり、若いころはこれら2つの細胞がバランスよく働くことで、骨の代謝を安定させます。
ところが、女性の場合は閉経後にエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが大幅に低下。これにより、細胞のバランスが崩れ、破骨細胞の働きが骨芽細胞の働きを上回り、骨密度が下がります。その結果、骨粗しょう症を招くのです」(寺内先生、以下同)
そもそも破骨細胞で骨を壊すサイクルより、骨芽細胞で新しい骨をつくるサイクルのほうが何倍も時間がかかるという。その上、閉経後にエストロゲンが低下すれば破骨細胞が盛んになり、骨はあっという間にスカスカになってしまう。
なぜ、こんな仕組みが女性の身体に備わっているのだろうか。
「女性は、出産すると授乳して赤ん坊を育てる必要があるため、すぐにまた妊娠をしないように、女性ホルモンが急激に低下します。同時に、女性ホルモンの低下により、自分の骨をどんどん壊し、カルシウムを赤ん坊に供給するようになっています。
閉経後の女性は、いわば出産後と同じような状況。閉経による女性ホルモンの低下によって、骨を壊す働きが高まり、骨がスカスカになるというのが、骨粗しょう症の増加の背景です」
骨粗しょう症になったとしても、当の本人に自覚はない。気づけば骨がもろくなり、ある日突然ポキッと折れるというパターンがほとんどだそう。
代表的な例は、背骨と股関節の骨折。背骨の圧迫骨折は連鎖しやすく、背骨が変形する“亀背(きはい)”を招く傾向がある。
また、股関節の骨が折れると、治るまでに時間と労力がかかり、寝たきりになる可能性が高まる。
骨の健康度をいますぐチェック!
「私の骨、大丈夫?」と心配になった人は、セルフチェックをしてみよう。骨密度は、その人自身の生活習慣によって大きく左右される。自分が抱えるリスクや現在の状況を知ることは、骨粗しょう症予防の第一歩だ。
「リストのチェック事項以外で注意すべき人は、若いころにダイエットをした人。実は、若いころに体重が軽かった人よりも重かった人のほうが、骨への負荷が重くなり、骨がより丈夫になることがわかっています」
骨量は、成長とともに増加し、20代ごろに最大値に。その後、ほぼ横ばいで推移したのち、閉経が行われる平均的な年齢の50歳ぐらいから、急激に低下していく。いわば、閉経前の10~20代は、骨量を蓄積できる生涯で唯一のタイミングなのだ。
「最大骨量を得られる10~20代に過激なダイエットをした上、生理不順や偏食、運動不足などで十分な骨量を“貯金”できなかった人は、閉経後、早い段階で骨粗しょう症になる傾向があります。
10~20代の娘さんをお持ちの方は、ご自身はもちろんのこと、娘さんたちの生活習慣にも気を配ってあげてほしいですね」
“かかと落とし”が骨密度を高める!
閉経後に急激に低下する骨密度は、年齢を重ねるごとにどんどん減っていくのだが、実は“牛乳やヨーグルトでカルシウムを積極的にとる”だけでは、骨粗しょう症予防は不十分だという。
そこでおすすめなのが、“かかと落とし”。つま先立ちになって上げたかかとをストンと落とすだけ、と簡単な運動の上、いつでもどこでも行えることから注目をされている。この単純な動作が、なぜ骨にいいの?
「実は骨には、何かしらの刺激を察知すると、骨を丈夫にするシステムが備わっています。“かかと落とし”によって得られるかかとへの衝撃が、骨をつくる骨芽細胞を活性化させることで、全身の骨密度をアップすることにつながるのです」
宇宙飛行士の骨にまつわる話は有名だ。
長時間無重力状態に身を置く彼らは、骨に負荷がかからないため、急激に骨密度が低下する。骨は怠けてどんどんもろくなってしまうので、帰還した直後は自分の体重を支え切れず、立つこともままならないという。
ただ、なりふり構わず刺激するのは逆効果だそう。
「“かかと落とし”の注意点は、無理をしないこと。健康のために運動したのに、無理をしたせいで転倒して骨折したということになれば、元も子もありませんから。また“かかと落とし”だけで骨粗しょう症を防ぐことは当然、難しい。
カルシウム、ビタミンD、ビタミンKを意識したバランスの良い食事や、1日30分程度の日光浴など、骨の強化につながる生活を意識することが大切です」
“かかと落とし”は、20回1セットを1日に1~3セット程度行えばOK。家事の合間や、朝起きた際の日常生活に、かかとの上げ下げを習慣化すれば、骨粗しょう症への進行を遅らせることができる。
「“かかと落とし”に限らず、あらゆる運動は、骨だけではなく、心臓や肺などの機能向上や認知症予防にも効果的です」
もう一つ、骨粗しょう症対策として寺内先生が強くすすめるのが、“骨の検診”だ。
「薬物療法も充実し始め、今や骨粗しょう症は治せる病気です。ただ、そのために大切なのが早期発見。今は、40歳以上の女性を対象に骨密度検診を実施している自治体も多いので、ぜひホームページなどをチェックして足を運んでみてください」
10年後も20年後も丈夫な骨で過ごすため、複数の対策を組み合わせた合わせワザで骨粗しょう症対策を始めよう。
教えてくれた人……寺内公一先生●東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・茨城県地域産婦人科学講座にて教授を務める。専門は、更年期障害や骨粗しょう症。
取材・文/後藤友美(ファイバーネット)