※写真はイメージです

「リゾートバイト」とは温泉地や海水浴場、スキー場をはじめとした観光地で一定期間、住み込みで働く仕事のこと。無料で住める寮が用意されており、集中して働けるので、まとまった額を稼ぐことができる。

 また、休日にはその土地を観光したり、施設の温泉やゴルフ場を使えたりといった楽しみもある。

観光業は慢性的な人手不足、50代「主婦」は重宝される

「20代半ば~40代が働き手の6割を占めていますが、近年の特徴として50代以上がとても増えてきました。アンケートでは10人に1人は50歳以上という数字も出ています」

 そう話すのはリゾートバイト専門の人材派遣会社「ダイブ」の広報担当、原由利香さん。コロナ禍明け以降、国内の観光客はもとより、円安の影響もあって外国人観光客も増加の一途。

 観光地は大にぎわいの一方で働き手不足という問題も抱えている。それを解消する切り札が50代以上の人たちだという。

コロナ禍で働き方が多様化し、離職や転職をする人も増えてきました。それまでずっと働き通しだった50代以上の方が定年退職を待たずに早期退職して、これを機に今までやりたかったことをやってみようとリゾートバイトにチャレンジする例が目立っています。

 また、看護師や介護士など専門的な資格を持つ方が、転職と転職の間のつなぎ期間にリフレッシュを兼ねて応募されることもあります」(原さん、以下同)

 こうした意欲的な働き手は雇う側にとっても貴重だが、中でも「主婦」という経験はこの仕事で重宝されている。

「さまざまな職種がありますが、客室清掃や調理補助などは、家事のスキルがある主婦が即戦力になりやすいんです。長いこと専業主婦でいた方が、50代になってからハローワークなどで仕事を探そうと思うと、そもそも求人自体が少なく、またご本人も『ずっと働いていなかったから』と尻込みしがち。

 ですが、リゾートバイトは主婦という経験が生かせ、未経験からでも始められる職種があるのでチャレンジしやすい。働く側、雇う側双方にとってメリットが多いのです」

世代の違う人たちと出会えるのが楽しい!

 実際に働いている人の声を聞いてみた。神奈川・箱根で就業中なのが、生島浩子さん(56歳)。福岡県に自宅がある生島さんのリゾートバイト初体験は、2024年2月、沖縄県・西表(いりおもて)島のホテルで3か月間の仕事だった。

現在、神奈川県の箱根でリゾートバイトを満喫中の生島さん。原付バイクを持ち込み、時間があるときは観光を楽しんでいる

若いころに訪れた沖縄がすごくよかったので、いつか長期滞在してみたかったんです。子育てしながら長年、接客のパートをしていたのですが、『自分はこのままでいいのか』と疑問を抱いていた時期に、転職も視野に入れてリサーチしている中でリゾートバイトの派遣会社を見つけたんです。

『仕事も住む場所もある、しかもずっと憧れていた沖縄でなんて最高じゃないか!』と、うれしくなっちゃって」(生島さん、以下同)

 親の介護もなく、子どもたちもすでに独立していた。

「何か新しいことをするなら『今しかない!』と、パートを辞めて思い切って応募しました。ただ、ひとりでは不安だったので、ちょうど離職期間中だった娘を誘って一緒に沖縄に行ったんです」

 ホテルでは客室清掃と社員食堂の調理補助を担当。若い人たちと一緒に汗を流して働くのは楽しかったそう。

「ほとんどが20代で私が最年長だったのですが、若い方たちにも自分から積極的に声をかけてコミュニケーションをとるようにしました。違う世代とも交流できて、素晴らしい自然も満喫できて、すごくいい思い出になりました」

 リゾートバイトにハマり、現在は箱根の高級ホテルで調理補助の仕事をしている。

今の勤務シフトは11~14時、2時間の休憩を挟んで16~21時という感じです。シフトがある日は2食まかないがありますが、朝ごはんは自分で用意します。寮は個室で職場とも近いので通勤時間はかかりませんし、家にいるときのように家事をしなくていいので、体力的にはすごくラクなんですよ。

 月10日間の休暇があって、手取りは月20万円前後。寮は光熱費も含めて無料なので、お金があまりかからないのも、助かります」

 近郊から働きに来ている人は休日に帰省しているそうだが、生島さん自身は自宅が遠方のため、ほぼ帰っていないという。休日は原付バイクで周辺の観光を楽しんでいる。

「お正月の箱根駅伝を間近で応援する楽しみもあります。家には夫がいますが、自分のことは自分でできるので、私がいなくても生活は問題なく回っているようです。次は北へ行こうか、南へ行こうか……考えるだけでもワクワク。

 私はもともと旅行が好きなので、忙しかった子育て中にはできなかったことを今、叶えているという感じです」

リゾートバイトに強い派遣会社を選ぶ

 ここ最近、リゾートバイトという働き方に人気が出ている背景には、生島さんが登録する「ダイブ」のように日本全国、南から北までの求人情報を豊富に持った派遣会社ができた影響も大きいという。

「以前は特定のエリアの求人に強い派遣会社しかありませんでした。働きつついろいろなところを旅したいなら、登録する会社選びも大切です」と、前出の原さん。

 もし、宿泊施設と直接の雇用契約を結んだ場合、例えば仕事内容が事前に聞いていたのと違うなら、自分で交渉していかなければならない。

西表島ではホテルの社員食堂で主に働いていた生島さん。海辺に面していた職場だったので海水浴なども楽しんだ

実際の仕事や待遇が異なる、人間関係でもめた、といったトラブルが発生した場合も、営業担当が間に入って雇用側と話をしますので、直接やり合わなくてよいという安心も。派遣で働くということは派遣先の宿泊施設や観光施設ではなく、派遣会社に雇用されることになります。

 そのため、その派遣会社が社会保険完備かどうかをチェックする必要も。ちなみにうちは完備なので、加入条件を満たせば、リゾートバイトでも社会保険の加入が可能です」(原さん、以下同)

 厚生年金にも加入できるので、老後の年金を上積みしたい人にもぴったりだ。また、「思っていたのと違う」というミスマッチを防ぐには求人情報をしっかり見て、具体的にそこでの生活をイメージすることも大切。

観光業は特に『中抜け』という、日中に2時間程度の休憩があるシフトが多いのですが、時間内に終わらなかったり、意外にゆっくり休憩がとれないのがキツイという方も。ある程度、体力はあったほうが安心ですね。

 また、実際に行ってみると車がないと移動ができないという場合もあるので、事前に交通手段や周辺環境を調べておきましょう。部屋にキッチンが付いている寮と共同の寮、中には相部屋の場合もあるようなので、生活環境についてもチェックが必要です」

先輩風を吹かさず謙虚&フレンドリーに

 リゾートバイトが向いている、楽しんでできる人というのはどんなタイプかを原さんに教えてもらった。

50代が増えてきているとはいっても、まだまだ若い人のほうが多いのが現状で、支配人が自分より若いなんてよくあることです。自分より若い人に指導されることも抵抗なく受け入れられる素直さ、謙虚さがあると、スムーズに働けるようです

 調理や清掃の仕方も施設ごとに違ったマニュアルがあるので合わせなくてはいけない。

「自分ならこうする、といった手順へのこだわりが強すぎると現場にフィットしない場合もあるので、そのあたりを調整できる柔軟さは必要でしょう。あとは自分から積極的にコミュニケーションをとれる人は、どこのリゾートバイトに行ってもうまくやっていけます」

 ゴルフに詳しければゴルフ場、スキーが得意で資格があるならインストラクター、英語が話せると海外からの観光客対応で重宝されたり、50代やシニア世代でも特技があるとさらに活躍の場が広がる。

 夫婦でリゾートバイトで働いていたり、ペット連れOKの寮を用意している施設もある、令和時代のリゾートバイト。人生後半の稼ぎ方のひとつとして、検討するのもアリかも!

娘さんと一緒に、西表島でリゾートバイトデビュー。「バイト仲間からは『ママ』と呼ばれていました」(生島さん)

取材・文/遊佐信子 写真/本人提供