世界も認める聖地・築地の真価
「なんといっても築地のよさは、今も500人以上いる仲卸の目利きです。築地でセリ落とされた値段が全国の値段の標準価格となって、消費者に届けられるとともに、漁師や生産者の生活を守ってきたのです」
と前出・鈴木さん。築地が世界の市場のなかでも注目されるゆえんだ。
築地では、卸売りから仲卸にセリ売りされたら、すぐさまターレ(手押し車)で運ばれ、解体・小分けされ、仲卸の店舗に並べられる。それを小売店や料理屋、スーパーが購入、“やっちゃば”(青果市場)も隣接し、卸売りから数時間のうちに必要に応じて消費者に届けられる。仲卸の頭脳・目利きとそれを生かす有機的な市場システム。スーパーコンピューターでも決してできない仕組みである。
公正な値付けが築地で行われるがために、巨額資本を持つ販売業者でも独占することができず、鮮魚や青果物の値段が保障され、全国の漁師や生産者たちが安心して仕事を続けられる。こうして世界最大の卸売市場が営まれている。
2年前、ユネスコの世界文化遺産に日本の「和食」が登録された。築地はある意味で、和食の聖地ともいえる。外国人観光客も多く、日本文化を伝える重要スポットにもなっている。
「知の巨人」と呼ばれるフランスの人類学者レヴィ=ストロースは『市場について』と題したインタビュー記事(『現代思想』2017年臨時増刊号「総特集=築地市場」に掲載)で次のような賛辞を贈っている。
《築地は本当に素晴らしいところです。私は忘れられない。まったく夢のような日本の思い出です。物の豊富さといい、その多様性といい、並べ方の美しさといい…私にとっては世界の博物館すべてに匹敵します》
鈴木さんは言う。
「豊洲に移転されれば、築 地市場が終わってしまいます。土壌や地下水汚染で、世界から注目されている日本の食文化を支えてきた築地のイメージが壊れてしまいます」
この心配を払拭(ふっしょく)し、はたして真の意味で「築地ブランド」を守ることができるのか─。今後の動きを注視したい。
取材・文/青木泰…環境ジャーナリスト。民間の技術研究所を経て現職。市民活動の現場から被ばく問題について情報発信を行う。近著に『引き裂かれた「絆」―がれきトリック、環境省との攻防1000日』(鹿砦社)