しかし、磯田先生いわく、歴史は実用品。過去から学べば未来を明るくすることができるという。

 今起きている天災も、過去の史実から学んでいれば多くのことが避けられる。

 最先端の科学と同じくらい役に立つ実用品ということなのだ。

 だから古文書を読み解き、現場に救急車のごとく駆けつけ、回避したり、良くしたりするメッセージを伝えるのが役目だと言っている。

 未来を良くしようと歴史をひもとく、そんな観点で歴史を語る。こんな斬新で面白い話はないと思った。

 また歴史を知ろうとするパワーも凄まじい。古文書を読み漁りたくて京都の大学に入ったものの、図書館の蔵書が少なく、慶應に入り直したとか、図書館で本を読みすぎで倒れたという逸話がある。ダイソンの掃除機のごとく歴史から知識を吸収し、それを、未来を明るくするために役立てる。

 磯田先生いわく、歴史上の偉人で一番幸せそうな人は、お金や名声を集めた人ではなく、人に感謝された人だそうだ。

「私は牛のようなものだ。草を食べて乳を出す」(魯迅の言葉)

「人間はその人が得たことでその人を評価するが、本当は、人に何を与えたかで評価しなければならない」(アインシュタインの言葉)

 これらが下支えとなり、今日も古文書を読み込み、誰かの役に立とうとしている。そんな人の言葉を見逃すまい、聴き逃すまいと思ってしまう。


<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。