フランス映画というと饒舌というイメージがあるけれど、言葉に依存しない、不思議な面白さを持つフランス映画がやってきた。監督・主演のドミニク・アベル&フィオナ・ゴードンは道化師出身のカップル。ということで、チャップリンや『ぼくの伯父さん』『プレイタイム』のジャック・タチを思わせる、パントマイムっぽいユーモアが楽しめるコメディだ。
カナダの雪深い村で図書館司書をしているフィオナは、パリに移住したおばさんのマーサから「老人ホームに入れられちゃいそう。助けて」という手紙を受け取り、パリへと旅立つ。そこで災難に遭いながら、ホームレスのドムと不思議な縁でつながって……?
まぁ、ストーリーは重要じゃない。冒頭の図書館のシーンから、ポップな色彩感覚と踊るような画面に心がウキウキ。まるで『ポパイ』のオリーブ・オイルみたいにやせっぽちで若くもないヒロインはおしゃれとは言えないキャラながら、画面の構成がものすごくおしゃれなのだ。
ベタなドジを踏みまくるフィオナも謎の行動をとるドムも、スラップスティックな演技はさすが。フィジカルな動きとギャグを繰り出すヘンなテンポが、クセになりそうな味わい。『ラストタンゴ・イン・パリ』を持ってくる音楽のセンスも唸りたくなる。
そしてダンスシーンの中でもとくに印象深いのが、マーサ役のエマニュエル・リヴァ(なんとも魅力的、残念ながらこれが遺作)とピエール・リシャールが見せる「ベンチに座ったままタップ」。これぞミュージカル!
不器用で心さびしい2人がパリで迷子になりながら、何かを見つける。このクラシカルでシュール、ファンタジックな冒険が、ほんわかした気分を運んでくれるはず。
文/若林ゆり