がらんとしているが、以前はここが『てるみくらぶ』のオフィスだった

「とにかく生きることしか考えてなかった」

 今年3月27日、会見で涙ながらに話したのは、旅行会社『てるみくらぶ』の山田千賀子社長だ。同社は同日、東京地裁に破産申請をした。

 代理人弁護士によると負債総額は約150億円で、被害者は最大で9万人にのぼる可能性があるという。

 同社は常識外の格安ツアー販売で人気を博していたが、経営は赤字続きで3年前から粉飾決算をするデタラメぶり。

 山田社長は会見後に姿を消し、返金の見通しがつかない多数の被害者が取り残された。

「何度も利用していたから信用していたのに。裏切られた気持ちでいっぱいですよ」 

 そう怒りをあらわにするのは吉田美雪さん(39、仮名)。

 5月に両親と3人でハワイに行く予定で、現金で支払ったのは総額24万円。3泊4日で5つ星ホテルに泊まれるお値打ちプランだった。

「私は友人の結婚式に出席する予定でした。てるみがやばいという報道がされはじめて、行けなくなったらまずいなと思い、すぐに27万円の別のツアーに申し込みをしました」

 結局、二重払いで両親とハワイに渡航したが、モヤモヤした感情があったと話す。

「ハワイに着いてもなんで倍もお金払ったんだろうって気持ちが消えなくて。ホテルのランクもぐんと下がったし、プールはありましたけど、リゾートって感じは全然ない。実際泊まる予定だったホテルも見に行きました。本当だったらここに泊まるはずだったのになぁって」(吉田さん)

 5つ星ホテルで優雅にバカンスの予定も一転。悔しさばかりがこみあげてくる。

「今年の7月にはシンガポールに行ったのですが、24万円あったら、天空のプールがあるマリーナベイ・サンズに泊まれたなとか思うんですよ。旅行に行くたび毎回思うんでしょうね。これは一生消えないですよ」(吉田さん)

人間関係が壊れた

 4月には被害者の会が結成された。会員は15人。54万円の被害を受けたという発起人のひとりである男性は、

「ショックで体調を崩されたり、“お前がてるみで予約したからだ”と人間関係が壊れた人もいる」

 と話し、被害者の会の現状について説明する。

「弁護士さんにも相談しましたがお金を取り戻せるか難しい案件だと言われてしまい、今は活動ができず暗礁に乗り上げてしまっている状況です」

 楽しみにしていた旅行は台無しにされ、お金も返ってこない。やり切れない被害者たちの怒りはおさまらない。

「山田はきっと金を隠し持っているはず。申し訳ないって思うのなら私財をすべて投げうって返済にあてるべき。その後には全国の被害者に謝罪行脚しろよって思いますね。破産して金がないなら徒歩で。それが本当の誠意ってものですよ」(前出・吉田さん)

 山田社長はどう思っているのか。渋谷区にある自宅を訪ねたが、誰も出てこなかった。

 破産管財人は、「お答えすることはありません」と、とりつくしまもなかった。

 11月の債権者集会で山田社長は何を話すのだろうか。