いざ陥ってしまったとき誰がどう対応するべき?
実際、自分の親がある日、そんな状態になってしまっていたら、動揺のあまり思わず叱責してしまうかもしれません。しかし、小川先生によれば、それは一番やってはいけない行動だそう。
「頭ごなしに非難するのは絶対にダメです。本人が自覚をしていない場合には不当な非難をされたと思いますし、多くの場合には、軽い認知症があっても、この状態があまりよくない、なんとかしたいと思っていることのほうが多い。わかっているけどやれなくなっているんです。そんな本人の葛藤を無視して一方的に非難するのは、関係を悪くするだけです。また、いくら気持ちを抑えて接することができたとしても、昔からの関係性がありますから、子どもは対応しにくいんです」
まず対応するときの基本的な姿勢として重要なのが、本人の意思や人権を尊重すること。
「例えば、周囲の人間が話をしたり支援を行う場合にも、やはりもともと関係のよくない人ではうまくいかないですよね。本人が何らかの形で尊敬している人などのほうが、話を聞き入れやすいと思います。またご本人がもと先生だとしたら、その方を慕っている生徒さんやお弟子さんなどでも心を開きやすいかもしれません。あとは、役所の方、医師、保健師さんなど関わっていただく可能性のある方はいろいろいらっしゃいますが、ご本人のなじみの関係を優先し、適切なキーパーソンを確保することが有効です」
抱え込まずにまずは相談地域包括支援センターへ
公的な相談先としてまず足を運びたいのが『地域包括支援センター』。
「孤立し拒否的な人には、京都市では、『地域あんしん支援員』という事業があり、行政処分をするだけではなく、その人の立場に立って支援する活動を行っています。ただし、どの地域でも行政が直接対応してくれるとは限らないので、まずは地域包括支援センターや福祉事務所、保健所で、どんなサポートが受けられるか相談をしてみるといいと思います」
さらに、これまでケースワーカーや地域ボランティアとして、生活後退の現場に関わってきた小川先生が、非常に頼りになる存在だと考えているのがホームヘルパー。ホームヘルパーとは、在宅の高齢者や障害者宅を訪問して、入浴、排泄、衣服の着脱や移動などの支援といった介護サービス、さらに調理、洗濯、掃除、買い物などの援助や代行といった家事援助サービスまで幅広く手がけるホームヘルプ事業の第一線で働く方々。
「ホームヘルパーさんは、家事や生活に直接関わることができ、専門的な知識も持っているので、高齢者の生活に定期的に関与してもらうことで、その後のリバウンドも防ぐことができます」
ホームヘルパーの派遣は、要支援・要介護者については介護保険制度により利用できます。まずは各市町村の窓口または地域包括支援センターで手続きをして要介護認定を受け、地域のケアマネージャーとともに立てるケアプランの中で、ヘルパー事業所との契約について相談してみて。
ベテランホームヘルパーである京都ヘルパー連絡会の櫻庭葉子さんも、その重要性をより多くの方に伝えたいそう。
「ヘルパーは、時間をかけて利用者さんとの関係性を築きひとりひとりに寄り添いながらサービスを行っています。ヘルパーが関わることで利用者さん自身も成長され、ご自身の生活を取り戻した方も多くいらっしゃいます」
現在、国はホームヘルパーによる家事支援を排除し、その仕事を家事代行業者に担わせたい方針を示しているそうですが、今後、さらに高齢化が進む日本の未来を見据えたとき、本当に求められる支援とは何か、改めて考えたいテーマです。