ヨーロッパの女優のすごいところは年を重ねることで、ますます存在感が増していくこと。今やフランスを代表する演技派のイザベル・ユペールもそんな女優のひとりで、この最新作の彼女の迫力には思わず息をのむ。フランス人でありながら、アメリカのアカデミー主演女優賞の候補となったが、それも納得の強烈な演技を見せてくれる。
物語の設定にも驚かされる。ヒロインはゲーム会社の社長のミシェルで、離婚後は豪華な屋敷で、ひとり暮らしを楽しんでいる。ところが、ある日、覆面の男が屋敷に侵入し、彼女を襲う。彼女は警察に通報せず、ひとりでレイプ犯を探そうと考える。売れない作家の元夫、彼女のワンマン社長ぶりを快く思わない部下たち、彼女に思わせぶりな視線を送る隣人。なんだか周囲の男たちがみんな怪しく思える。大人の知恵を持つ彼女は容疑者たちを追いつめていくが、そうすることで、彼女の女としての本性も明かされていく……。
ただの犯人探しの映画ではなく、ミシェルの家族たちのエピソードも入っている。恋人に子どもができたので、あわてて定職につくプータローだったミシェルの息子。財産狙いの若い恋人との結婚を決意するイロボケな母親。そんな“ワケあり”の家族たちとの葛藤も抱えながら、周囲の男たちと向き合っていくミシェルが頼もしくもカッコいい。
監督は1990年代にシャロン・ストーン主演の衝撃スリラー、『氷の微笑』で大きな話題をふりまいたポール・ヴァーホーヴェン。いつも女優を魅力的に撮るが、今回はシックなファッションに身を包んだユペールからパワフルな演技を引き出している。原作はかつてミニシアターの人気作だった『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』のフィリップ・ディジャン。人生の表も裏も知り尽くした大人の女の覚悟と魅力が輝くアッパレなヒロイン映画の登場となっている。
文/大森さわこ