条件2「イケメン稼業」ではないこと

 もう1つの理由に、お笑い芸人は「美的労働」をする職業ではないことがあります。「美的労働」という用語は、「外見の美しさ」「感じのよさ」をウリにする仕事を意味します。

 たとえば、アイドルやモデルなどの仕事があてはまり、こういった職業は女性ファンの人気を当てにしています。

 スーパーアイドル・木村拓哉さんの妻である工藤静香さんは、Instagramに手料理写真をアップして炎上しました。夫がアイドルである場合、嫉妬の対象となるため、ママタレ活動が成り立たないのでしょう。

 一般的に、女性は、結婚相手の条件として「外見」よりも「収入」を重視します。でもそれは、女性の収入が低い状況に置かれているからです。

 一方、多くの女性がアイドルやイケメン俳優に憧れます。つまり女性も、生活がかかっている結婚と関係のない恋愛であれば、相手の外見を重視する傾向が見られるのです。富も名声も手にしたマドンナやジェニファー・ロペスは離婚した後、稼ぎはなくとも若く美しい男性たちを恋人にしています。

「好きなママタレント」ランキングの常連タレントの夫はたいてい、アイドルのような「美的労働」、つまり「イケメン稼業」をしていません。

 もちろん、人気ママタレントの夫であるお笑い芸人やプロ野球選手には、実際には「外見のよさ」を兼ね備えている人もいるでしょう。しかし、彼らはお笑いや野球の実力で商売をしているのであって、女性ファン向けに「美的労働」をしているのではないのです。

 ママタレントは、アイドルの夫がいるよりも、むしろシンママとして頑張っている姿のほうが共感を呼ぶのかもしれません。

ママタレもつらいよ、ワンオペ育児

 さらに、夫のいる子持ち女性にとって、夫が育児をするかどうかは大きな問題です。「夫の家事育児の参加度が多い夫婦のほうが結婚の満足度が高い」「夫の家事育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が高い」という調査結果があります。

 お笑い芸人は人を笑わせることが得意なコミュニケーションの達人なので、子どもの相手も上手そうなイメージがあります。夫がお笑い芸人の家族像というのは、女性の共感を呼びやすいのでしょう。

 しかし、イクメンで知られる中田敦彦さんの妻・福田萌さんは次のように語っていたといいます。

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《「なんで私ばっかり…」という言葉が浮かんできたことは正直に言うと、一度や二度ではありません。最近話題のワンオペ育児という言葉にもつながることかもしれません》

 現実にはいろいろな苦労があるのでしょう。

 人気ママタレントとしてやっていくのは簡単ではありません。女性たちの願望と欲望が複雑に絡み合って、好感度に影響する大変な仕事なのですから。

 著書『ワンオペ育児 わかってほしい休めない日常』(毎日新聞出版)は、こういった夫婦や子育ての現状を取材し、ドラマや芸能人の話題に触れながら、わかりやすく解説しています。

 ▽ドラマ「逃げ恥」と愛情の搾取▽非正規で働くシングルマザーの現実▽高収入男子結婚したい症候群のなぜ▽父親たちは育児を「しない」のか「できない」のか▽ワンオペ育児を乗り切る方法――など。ぜひ手にとって読んでいただきたい一冊です。


藤田結子(ふじた・ゆいこ)◎明治大学商学部教授 東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒、米国コロンビア大学大学院で修士号を取得後、英国ロンドン大学大学院で博士号を取得。2016年から現職。主な著書に『文化移民ーー越境する日本の若者とメディア』(単著、新曜社、2008)、『現代エスノグラフィー』(共編著、新曜社、2013)、『ファッションで社会学する』(共編著、有斐閣、2017)。専門は社会学。調査現場に長期間、参加して観察やインタビューを行う研究法を用いる。日本や海外の文化、メディア、若者、ジェンダーなどについてフィールド調査をしている。