高速バスを運行するWILLERグループは、2015年から、旧北近畿タンゴ鉄道の鉄道運行を担っている。第三セクターの北近畿タンゴ鉄道は、上下分離されて、“下”は第三セクターのままだが、“上”の鉄道運行は公募することになった。そこに異業種のWILLERグループが参入したのである。こうして、北近畿タンゴ鉄道は京都丹後鉄道に変わった。
この鉄道は地元の足であると同時に、天橋立への観光にも利用され、観光列車も運行している。
WILLERが高速バスで急成長したのは、インターネットによるマーケティングが大きい。それが、WILLERが公募で選ばれた理由の一つだったようだ。観光を担う鉄道であるが故に、マーケティングは不可欠である。
リゾートホテルもローカル鉄道を運営!?
異業種の会社が営む鉄道事業としては、紀州鉄道がある。紀州という大きな地名を背負っているが、紀州鉄道は、和歌山県御坊市を走るわずか2.7kmの私鉄だ。
紀州鉄道の沿線も散策に適していて、古い街並みが楽しめる。ただし、水間観音の周辺よりもローカルなので、利用者は非常に少ない。
そんな紀州鉄道は、会社としては御坊市のローカル企業ではなく、会員制リゾートクラブやホテル運営をしており、事業は全国に広がっている。ちなみに、軽井沢にはコテージをもっており、その名を『紀州鉄道 軽井沢ホテル 列車村コテージ』という。
地図などで『紀州鉄道 軽井沢ホテル 列車村コテージ』を見つけると、
と、誤解してしまうが、鉄道が走っているわけではない。
なぜ、会員制リゾートクラブやホテル運営をする会社が、和歌山県の小さなローカル鉄道を運営しているのか?
鉄道会社としての看板が利用客に安心感を与えているとの解釈が有力だが、その効果は疑問だ。紀州鉄道は全国的には無名の鉄道会社であり、それを有名ブランドのように使っているのが、不思議でもあり、不気味でもある。
いずれにせよ、リゾートとローカル鉄道というギャップは面白い。軽井沢のリゾートホテルを思い浮かべながら、紀州鉄道に揺られて、御坊市の古い街並みを散策すれば、あまりにも地味だが、それがまた楽しい。
文)佐藤充(さとう・みつる):大手鉄道会社の元社員。現在は、ビジネスマンとして鉄道を利用する立場である。鉄道ライターとして幅広く活動しており、著書に『鉄道業界のウラ話』『鉄道の裏面史』がある。また、自身のサイト『鉄道業界の舞台裏』も運営している。