過労死ラインもOKの規制で長時間労働は正せるのか?

 電通事件をきっかけに長時間労働の規制を求める声が高まっている。世論の要請に加えて、長時間労働の是正は「働き方改革」いちばんの目玉。安倍政権の真剣さが問われるところだ。

 前述したとおり、会社が労働者を働かせていい時間として定められているのは法律上、1日8時間、週40時間まで。ところが、労働組合と雇い主が協定を結べば、1か月45時間、1年360時間の残業が可能に。

「これを『36協定』といいますが、さらに特別条項を設けていて、年6回、この上限を突破できる。忙しいときには45時間では終わらないだろうから、例外中の例外として認めますよという決まりです」

 と佐々木弁護士。ただ問題は、何時間までという上限がいっさいないこと。

「月160時間とか、180時間を働いていいとしている企業もある。例外として認めた場合の上限が、今はないわけです。それを作ろうというのが今回の法案です」(佐々木弁護士)

 法案のポイントについて竹信さんはこう話す。

「これまで法律で決められていなかった残業の上限が原則、月45時間、年360時間という縛りが罰則つきで定められ、法律に明記されることになりました。一応、法的な縛りができましたよ、ということ。でも、“きわめて忙しい時期”は1か月に限り100時間未満まで、2~6か月で平均80時間までの残業も認めてしまった。これって、過労死すれすれの時間なんですよ。1か月で100時間程度、2~6か月で平均80時間程度、残業して亡くなったら、過労死と認定されて労働災害になりますから。過労死寸前まで働かせていいと言っているのと、同じ意味になってしまう」

 また年間でも特例として、年720時間までの残業が認められた。しかも、これには「抜け穴」がある。休日出勤した場合の労働時間は含まれていないのだ。記事冒頭の図のように、年720時間に、規制の範囲内で、休日労働した時間を加えたら……、理論上、最大で年960時間は残業ができることになってしまう。

「こんな法案で規制できると思うなんておかしい。長時間労働の是正につながるわけがありません」(竹信さん)

 罰金30万円以下、懲役6か月以下の罰則を設けてはいるが、効果は未知数。そもそもなぜ、過労死リスクを伴うような規制を認めたのか? 佐々木弁護士は、安倍首相の発言による影響が大きいと言う。

働き方改革の会議へ出席した際、安倍首相は、残業の上限時間について労使のトップで話し合い合意できなければ、法律を作らないと言ったのです。何の成果もなく帰るわけにはいかないと連合は妥協案をのんだ。首相がイニシアチブをとって指導すればよかったのに、そうしませんでした。例えば、目標を段階的に設定して、今は80時間だけど2年後には60時間に引き下げるとか、そういうマシなやり方もあったのに」

 かえってサービス残業が増え、「残業隠し」や「持ち帰り残業」が、さらに発生するかもしれない。

 さらに、女性にとって厄介なのは、家庭との両立が難しくなるという点だ。竹信さんが言う。