なぜ「幸せそうな投稿」にイラッとしてしまうのか?

 そこには、「投影」という深層心理メカニズムが働いている。

 投影というのは、たとえば、自分が相手を妬み、自分がそういう醜い気持ちになっていることを認めたくないとき、それが相手に投影されて、相手が醜い気持ちを持っていると思い込む心理メカニズムのことである。

 こちら側にある画像をプロジェクターで向こう側のスクリーンに映し出すように、自分の中にある醜い気持ちを相手の中に映し出す。つまり、自分が相手に対して向けている妬みとか攻撃的な気持ちを、相手がこちらに向けていると思い込むのである。

 この心理メカニズムには2つのメリットがある。ひとつは、自分自身の醜い攻撃的な気持ちを認めずにすむことである。もうひとつは、相手が醜い気持ちを持っていると非難することで、一見正当な理由のもとに相手に対する攻撃衝動を発散できることである。

「いつも高級な服ばかり着てるね。自分が裕福だって、そんなに見せびらかしたいの」

 と、心にもないことを言われ、ものすごくショックを受けたという人がいる。

「どうせ私は学歴がないし、頭悪いけど、自分の頭の良さをそんなにひけらかしちゃって。人をバカにして気持ちいいの?」

 と非難されたが、ひけらかすようなことを言ったつもりはないし、バカにするようなことも言ってないし、なぜそんなことを言われるのかわからないという人もいる。

 こちらは見せびらかすつもりなどないのに「見せびらかしている」と言われる。

 こちらはけっしてバカにしていないのに「バカにしてる」と責められる。こちらは自分の嬉しい気持ちを表現しただけなのに、「見下した」といわれる。

 それは、まさに無意識のうちに働いている、投影の心理メカニズムの仕業といえる。

 自分より恵まれた相手に対する憎たらしい気持ち、つまり妬みからわいてきた攻撃的な気持ちを、そのまま認めるのは辛い。だから、相手が「見せびらかしている」「バカにしている」「見下している」と思い込むことで、自分の中にある攻撃的な気持ちを正当化するのである。

 その場合、相手の態度に問題があってイラッときたように本人は思っているが、じつは相手には何の悪意も落ち度もないのに、自分が勝手に妬んで攻撃的になっているのである。

 匂わせる側と匂わせに反応する側にはこのような心理メカニズムが働いている。自分自身がイヤな気持ちになりすぎず、さらに相手もイヤな気持ちにさせずに生きていくための参考になれば幸いだ。

(文/榎本博明)


<プロフィール>
榎本博明(えのもと・ひろあき)◎1955年東京生まれ。心理学博士。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『「上から目線」の構造』『薄っぺらいのに自信満々な人』(ともに日本経済新聞出版社)、『カイシャの3バカ』(朝日新聞出版社)などがある。