綾瀬が過ごしてきた「女工作員としての過酷な半生」を考えれば、幸せの基準が「愛する人と平穏に暮らす」ことにあるのは充分理解できる。でも、工作員だったからこそ、自分が主語の人生を取り戻してほしいのに、夫に遠慮して生きている感が歯がゆい。
日本ではこういう女がウケるよね、男にも女にも。卑劣な男にレイプされた女性が責められてバッシングされる国だもんなぁ、世も末。
余談だが、同じ女工作員モノなら、映画『アトミック・ブロンド』を勧めたい。シャーリーズ・セロンが男に媚びて生きていないお手本を完璧に演じているから。このドラマと比べると、女の主体性と人権の在りようがこんなにも違うのかと愕然とするよ。
敵はご近所ではなく家庭内にいる
さて、もうちょっとご近所のほうに目を向けよう。綾瀬の友人は、広末涼子と本田翼。ふたりとも自分の家庭の問題をほとんど話さない。話さないが、じわじわとにじみ出ていく構造になっている。そこはこのドラマの見どころでもある。
広末涼子は、ひとり子どもがいる。そろそろ手が離れる年齢になったので、夫の石黒賢に「仕事に復帰したい」と相談する。ところが石黒は「もう一人、子どもを作ろうか」と言う。日本語通じないのかなと思ったわ。この夫婦間の感覚の差、わかるだろうか? 妻は働きたいのに、夫は妻を専業主婦のままで家に閉じ込めておきたいわけだよ。
一方、本田翼は姑(銀粉蝶)の過干渉に悩んでいる。しかも、夫の中尾明慶は本田の肩をもつどころか、聞く耳すら持たない状態。これ、家庭内孤立だよ? 本田の脳天からもSOS出てるよ!
綾瀬はご近所のママ友を救っている場合ではない。仲良しの広末と本田が抱えている問題こそ、本当の敵である。町内ではなく、家庭内に倒すべき敵がいるのだ。いや、まあ、別に倒さなくてもいいけど、妥協や諦めではない方向への話し合いは必要だと思うな。
このドラマ、アクションヒロインが痛快無比! と手放しに褒めることはできない。ただ、中盤から終盤に、女にとって何らかのカタルシスを得られるような仕掛けがあるに違いない。
「女は腕っぷし強くても、料理して着物着て、セックスは俺がしたいときだけ応じて、男に尽くしてね♪」みたいな押し付けが爽快に払拭されるといいんだけどな。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/