共感と共有が恋愛関係になることも
その後、死にたい理由を書き込む自殺掲示板に“見た目も内面も自信がない”と感じてきたことを告白するかのように綴った。
すると男性から、
《話を聞かせて》
とメールが届いた。
「実は、男性も同じ悩みを抱えていたんです。やりとりをするうちに信頼しあえるようになりました。死にたいと思わなくなったんです。自分が死んだら悲しんでくれる人がいるとわかってうれしかった」
2人は恋愛関係になった。自殺サイトなのになぜ、恋に落ちるのか。お互いが「共感」を求めていたことが大きい。共通の悩みを持っていると、共感度が高まったりする。
しかもメールやDM(ダイレクトメッセージ)、LINEでのやりとりが多ければ多いほど、時間を共有している意識は高まる。共感と共有はネット恋愛を生み出す要素だ。
座間市の事件でも、「付き合おう」などといった言葉のほかに、短時間で多くのやりとりをしていた。白石容疑者は“恋愛”のような関係に持ち込もうとしていた様子がうかがえる。
もちろん、美沙都の死にたい願望がゼロになったわけではない。この男性と出会う前は、20歳になったら死のうと思っていた。しかし、今では30歳までは生きてみようと思っている。
事件を受けツイッター社は自殺や自傷を助長したり扇動することを禁じると発表。何がリスクかは判断が難しい。単純な規制にとどまり、叫ぶ場所を失い、生きる術を見いだすきっかけを奪われるような事態は避けたい。追い込まれている人は余計に死にたくなるのではないか。
渋井哲也(しぶい・てつや)◎ジャーナリスト 1969年生まれ。新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションや学校問題、自殺などを取材。著書に『命を救えなかった』(第三書館)、『絆って言うな』(皓星社)、『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)など