「成長する過程で、親から離れて精神的に自立するプロセスとして親の死を願うことはありますが、実際に手をかけることとはまったく違う」

 そう言うのは、大妻女子大学人間関係学部教授で心理学者の福島哲夫さん。程度の差こそあれ、虐待されて育った子どもは親の気持ちばかり忖度し、いい子として頑張ってしまうケースが多いそうだ。

 成長して親を憎むことがあったとしても、それをすぐ自分で否定して罪悪感に悩む。そう仕向けられ育っているのだ。

「クソ」「死ね」と日常的に言う親

「心理学に『ストックホルム症候群』というものがあります。誘拐事件や監禁事件などの被害者が犯人と長時間過ごすことで、犯人に過度の同情や好意を抱くことをいいますが、虐待された子どもも同じような心理に陥っていることが多いんです」(福島さん)

 福島さんは都内でカウンセリングルームを主宰している。母親が「子どもに問題がある」と連れてくるのだが、母親に席をはずしてもらって子どもだけに話を聞くと、ふだんから「バカ、ブス」と罵倒されているケースが多いという。

「クソ、死ね、は当たり前のように言っていますね。それが言葉の暴力だと親は思っていないようです」(福島さん)

 必然的に、子どもは世の中の大人を信頼できなくなる。カウンセリングをすると、「こんなに自分の気持ちをわかってくれる大人がいたなんて」と驚く子どもたちもいるそうだ。どんな家庭で育っているか、がよくわかる。

「子どもたちには、選択肢がないと思いつめず、どこかに自分を救ってくれるマシな大人がいるはず、と学校や近所で周りを見渡してみてほしい」(福島さん)