車の運転で認知症のリスクが半減

「地方ではが必需品」「がないと外出ができなくなる。奪わないで」そんな切実な声を後押しする研究も進められている。

『国立長寿医療研究センター』予防老年学研究部の堀田亮氏はこう指摘する。

の運転をやめると、運転をする人に比べて要介護を発症するリスクが約8倍高くなることが報告されています。また、運転を続けていると認知症の発症リスクが半減する可能性も指摘されています。運転は、認知、判断、操作の3つの繰り返しで脳の活性にもつながる。認知症予防の観点から“いかに安全に運転を続けてもらうか”を考えることはひとつの方法ではないでしょうか」

 高齢でも、現役でドライバーを続けられる境界線をどう判断すればいいのか。

「基本的に医師の判断で“認知症”と診断されたら運転すべきでないと思います。ですが、軽度認知障害といって、日常生活に何ら問題はないけれど同年代と比較したときに少し認知機能の低下がみられる方がいる。そういう方も含めて一概に運転をやめることが正解かというと、もう少し検討すべきです」(堀田氏)

 同センターは「高齢者でもトレーニングで運転技能が向上する」という仮説を実証すべく、自動メーカーなどと共同で、独自の『教習プログラム』を開発。軽度認知障害と診断された高齢者を対象に安全運転を学ぶ実教習を計10回、動体視力トレーニングと、シミュレーターを用いた危険予測トレーニングを計10回行ったところ、トレーニングの前後で仮免許時に行う技能試験の点数に明らかな差が見られたという。

 堀田氏はこう分析する。

「運転技能が上がったという以上に、安全運転への意識が高まったことが重要です。いずれにしても、現状の認知機能検査だけでは運転が危ないかどうか判断がつきません。実による検査や教習プログラムを受けられる“再教育の場”が必要だと思います」

 高齢になったら自動教習所で「免許取得時」と同等の講習をもう1度、受け直す──そんな再教育のカタチが今、模索されている。

「運転したい」をどこまで尊重するか

 では、親が「運転を続けたい」と主張する場合、どこまで尊重すべきなのか。

 高齢者の運転で、危険性を疑うための基準は2つ。

「まず交差点で左折をするとき、巻き込みをしないように左に寄せて曲がっていた人が大回りをするようになっていないか。もうひとつは一時停止しているか。止まったつもりでも完全に停止していない、ブレーキ操作が遅れて停止線を過ぎる、そもそも停止線が見えていないなど理由はさまざまですが、この2点に注目してください」(堀田氏)

 また、運転を続けるうえでは“視覚機能”が重要な役割を占める。

「視力の低下を感じたら医師の診察を受け、運転継続の可否を相談してください」

 と堀田氏。スマホのゲームアプリを活用して、動体視力の衰えを予防するのも、家でできる対策のひとつだ。

「ちなみに同センターでは、9分割したマスに現れる絵をタッチする、画面上を動く円の色が変わったらタッチするなどの訓練で鍛えました」(堀田氏)