翌日、ふたりが暮らすマンションを訪ねた。ベランダの洗濯物はすでに取り込まれているようだ。
自転車置き場には、ふたりが共用しているらしい電動自転車が置いてあった。クリスマスは終わったが、玄関ドアにはリースが飾られたまま。インターホンを鳴らすと、部屋の奥から犬の鳴き声が聞こえた。
「(驚いた様子で)はい?」
この日はコウ氏がすでに稽古に出かけていて、上原がひとりで部屋にいたようだ。
ーーコウさんとの同棲は順調ですか?
ストレートに質問すると、一瞬の間の後に小さな声が返ってきた。
「……すいません、あのー、私からお話しすることはできないので……」
おそるおそる言葉を探しているような口調だ。幸福な生活を送っていても、それをそのまま口にすることははばかられるのかもしれない。
─コウさんにもお話を伺ったのですが……。
「すいません。私、今もうお仕事をしていないので、そちらのほうは発言を控えさせていただきます。ごめんなさい、失礼します」
どちらからも、まっすぐにハッピーな心を伝える言葉は聞けなかった。
過去の“過ち”が、今もふたりの重い足かせとなっているのだろうか……。