新鋭たちが挑んだ3横綱の戦い
注目が集まったといえば、3人の横綱vs新鋭たちの取組だろう。
まず一人目、昨年の名古屋場所(7月)以来の白星を、北勝富士からあげた鶴竜はいつも通りのポーカーフェイスで落ち着いていた。いろいろ言われながら、しかも今場所は殴打事件の責任をとって無給となった場所なのに、昨日もここで相撲を取ってました、というような雰囲気だ。
可愛いルックスで「わんわん」というニックネームでスー女たちから呼ばれるこの横綱の存在感に、この人はまだまだ私たちが知りえない潜在能力というか、とんでもないものを持っているんじゃないか? と思った。今場所、何かやってくれそうだ。
そして場内の声援が一層高まった稀勢の里。貴乃花部屋の新小結で注目の新鋭、貴景勝(たかけいしょう)との一番は土俵際で両者の勝敗が微妙な落ち方となり、最初、行司は稀勢の里に軍配を上げたものの、物言いがついて結局は貴景勝の勝ち。
普段ならここは行司の横綱と呼べる立行司(たてぎょうじ)の式守伊之助がさばくところ、セクハラ騒動で出場停止中。1ランク下の三役行司の式守勘太夫が仕切って、差し違えとなってしまい、さぞや緊張されたことだろう。
稀勢の里の負けに、みんなため息をつきながらも、勘太夫さん、大変だねぇと同情する声があちこちから聞こえた。
メンタルに弱さがあると言われる稀勢の里、先場所は思い切り不安の表情を土俵上で見せてそのまま休場してしまったが、どうか気持ちを切り替えて、もうなるようになるさと土俵に上がってほしいと願う。大丈夫、稽古の積み重ねがあるんだから! と遠くからエールを送りたい。
そして横審から、張り手やかち上げといった取り口が「横綱らしくない」と物言いをつけられていた白鵬と、新世代力士の中でも一番勝ち気な阿武咲(おうのしょう)の取組。
果たして白鵬は立ち合いで張り手やかち上げを封印するのか? しないのか? そこに注目が集まっていたが、結果、白鵬はどちらも使わなかった。そして、ほとんど自分の力を使わず、合気道をやっていた私から見ると、「わっ! これはまるで合気道だ!」と思うような、相手の力を利用したふわりとした投げを見せて勝った。
もしや、これは白鵬が目指している昭和初期の名横綱・双葉山の相撲にとても近いものじゃないか? 双葉山の相撲も、相手の力をうまく使ったふわりとした相撲を見せていたと聞く。
それにしても正直、私は白鵬のかち上げや張り手に特に何も感じない。が、相撲ファンたちがそれはしないでほしいと願い、それに応えるのもまた横綱の務めと白鵬自身が感じて挑戦するのなら、それはそれでまた素晴らしいと賞賛する。
そしてそれを初日から実践し、勝ち、理想とする型も見せた。この人はやはりすごい人だな、と感服した。今場所また新しい“白鵬像”を見せてくれそうだ。私は心からこの横綱を応援する。
これから28日まで初場所は続く。寒さが厳しい日も暖かい日もありながら季節は間違いなく春に向かっていく。どうか厳しい批判の言葉も溶けていき、大相撲に向けられる目も穏やかなものになっていきますように、と一相撲ファンとして願うばかりだ。
和田靜香(わだ・しずか)◎音楽/スー女コラムニスト。作詞家の湯川れい子のアシスタントを経てフリーの音楽ライターに。趣味の大相撲観戦やアルバイト迷走人生などに関するエッセイも多い。主な著書に『ワガママな病人vsつかえない医者』(文春文庫)、『おでんの汁にウツを沈めて〜44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』(幻冬舎文庫)、『東京ロック・バー物語』『スー女のみかた』(シンコーミュージック・エンタテインメント)がある。ちなみに四股名は「和田翔龍(わだしょうりゅう)」。尊敬する“相撲の親方”である、元関脇・若翔洋さんから一文字もらった。