5軒目・自殺ファミリー向けアパート
5軒目はファミリー向けのアパート物件だった。周りに住む人はみな家族で環境は良かった。
ファミリー向けのアパート物件
「僕が住むまでの数年間、誰にも貸し出さないいわゆる“開かずの間”になっていました。僕が住人の誰にも『事故物件の話をしてはいけない』というのが貸し出しの条件でした」
部屋は広めの2LDKだった。もともと7万5000円の部屋だったが、3万円に値下げをしてもらった。
前の住人は、部屋に置かれた仏壇にロープをかけて首をくくったという。
「これは僕が悪いのですが、部屋のリフォームをしなかったんです。そのため、前の住人の生活痕が強く残っています」
タバコのヤニで汚れた壁
タバコのヤニで汚れた壁、使用感が残ったバスルーム、トイレなどは利用するたびに気が滅入る。結局、物置用の小さな一部屋しか使用しなくなってしまったという。
「ただ清掃会社の人に聞いたのですが、事故物件の清掃も基本は『拭くだけ』だそうです。見た目が綺麗になっていても、完全に清潔になっているワケではないので、潔癖な人にはつらいかもしれませんね」
デメリット:事故物件であることを言ってはいけない
「死」について考えるようになった
松原タニシさんがこれまでに住んできた、5軒の物件を紹介してもらった。読者の皆さんは、事故物件に住むメリットを感じられただろうか?
松原さん自身は、事故物件に住んでみてどのような感想を持ったのだろうか?
「値段に関してはそれほど安くはならないという印象です。たとえ大幅に安くなっている物件に住んだとしても、大家さんの判断で値段を戻されてしまう場合も大いにあります。値段が上がってしまって慌てて引っ越すのは面倒ですよね。
でもデメリットも少ないです。事故物件になった要因が考えられる物件もありましたが、普通の物件でも同じようなデメリットがある物件はたくさんあると思います。治安などは、引っ越す前にちゃんと調べたほうがいいですね。
メリットかデメリットかわからないんですが、事故物件に住んでいると“死”について考えるようになりました。最近では“死”って当たり前にある、普通の出来事なんだな、と思うようになりました」
「もし事故物件に興味があるのなら一度住んでみたらいいのではないか?」と松原さんは語る。ただし、殺人があった物件の場合は「『殺人者が現在どこにいるのか?』を調べてから住むほうがいいですよ」と念を押された。
村田 らむ(むらた らむ)◎ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター 1972年生まれ。キャリアは20年超。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海などへの潜入取材を得意としている。著書に『ホームレス大博覧会』(鹿砦社)、『ホームレス大図鑑』(竹書房)など。