たった1時間でもOK、未経験でもOK、という新たな仕事スタイル、スキマバイトが人気だ。履歴書不要・面接ナシ、最短当日応募で即日入金という便利さがウケているが「労災が出ない」「予定より給与が少ない」といったトラブルも。人材不足の今、メルカリも参入し、業界は拡大の一途。楽しく、正しく利用するために知っておきたいこととは?
自分のことは自分で守るという意識は必要
スマホなどのアプリを利用して働きたいときだけ働ける柔軟な働き方が注目を浴び、利用者が増加しているスキマバイト。大手仲介業者4社に登録している会員数は2000万人を超えており、学生やフリーランサーだけでなく主婦やシニア層にまで働き手は広がっている。
新型コロナ禍が下火になるとともに、特にホテルや飲食業などで深刻な人材不足が続くなか、企業にとってもメリットは多い。
しかし、ある調査によると利用者の半数が勤務先でトラブルに遭っているという。その多くが仕事内容が事前に聞いていたものと違った、労働条件が異なっていたという点。
「3時間の予定だった仕事が早く終わり、その分の給料しかもらえなかった」(58歳・主婦)
「キッチンのホールの募集に応募したが、実際に行ってみたら掃除も込みの内容」(68歳・主婦)
そのほか仕事の教育や指示が不十分だったり、パワハラやモラハラに遭遇したりといった事例もあるという。
「パートや派遣と違って、1回ごとの契約だという手軽さは大きい。もしも現場で合わない人がいたら、二度と行かなければいいので気がラク。さまざまな職種の仕事を経験できる楽しさもあります」
そう話すのは、神戸大学大学院で歴史の研究をしつつ、生活費の補てん目的でスキマバイトを多数、経験してきた黒川伊織さん。昨年、「社会運動史研究者がスポットワークをやってみて」という記事を専門誌に寄稿。自身の体験を通じて、新しい働き方を実況、考察した。
「物価も上がっているし収入を増やしたいと思っているときに、飲食店の店長をやっている息子からすすめられたのがきっかけ。スマホで簡単に探せて便利だよ、と」(黒川さん、以下同)
カフェやホテルの宴会場、飲食店の皿洗い、タワーマンションへの配達、アパレル店員といったあらゆる業種にチャレンジした。
「面接がない分、どんな現場なのかは行ってみないとわからない。労災が下りないから気をつけてと言われても、正直ヒヤヒヤしたことも」
例えば食肉加工場は「あまりに寒くて感覚を失うほど」。
10分おきにお湯に手をつけてしのいだ。また、某牛丼チェーンの洗い場はとても滑りやすく「事前にコックシューズという専用の靴を購入していかなければ……転倒していたかも」と言う。寿司店の調理場では「いきなり分厚い冷凍うなぎを渡され、串に刺すよう指示されましたが、危険この上なかった」と振り返る。
「事前に採用先のクチコミ情報を確認し、自分のことは自分で守るという意識は必要。多少のリスクはあっても即金で都合よく働けるのは魅力です。私のように仕事や介護でわずかな時間しか捻出できず、しかも『夜勤、激しい肉体労働NG』という条件をつけても、すんなり仕事は見つかりましたし、年齢や性別に関係なく採用され、職種によっては家事の経験も生かすことができるので、すぐに仕事を見つけたい主婦の方には特におすすめです」