せっかくの便利な仕事スタイル、どのようにしたらリスクを回避できるのか。スポットワーク協会の後藤一重さんによると、曖昧だった仕事の定義も原因のひとつという。
「スキマバイトには、雇用契約を結ぶ『単発バイト』と、個人事業主として仕事を委託される『ギグワーク』、その2つの働き方が混在してきました。それぞれ良さがあるのですが『ギグワーク』には労働者を守る法律が適用されませんから、この両者が混在することでこんなはずじゃなかったというトラブルになることも。そこで私たちの協会では、『単発バイト』を対象にして適切な環境を整えるべく活動を行っているのです」(後藤さん、以下同)
双方の知識不足によって、トラブルが起こってしまっている
ギグワークは例えば、ウーバーイーツのように短時間・単発の仕事を依頼されるもの。従業員ではないので労災加入は必要ない。一方で、単発バイトは労働基準法で守られていて、採用後には「労働条件通知書」で「仕事内容、時給」などの条件を取り交わすはず。
「しかし、この条件を確認しない応募者が多いのもトラブル発生の原因なのです。そもそも労働条件通知書が届かなかったら、雇用ではなくギグワークかも……と疑う必要がある。そういった最低限の知識は持っておいたほうがいい」
「労災が出ない」「予定の給与が出なかった」といった事態に遭遇しないためにも、応募する際の確認が肝心だ。
「雇用者側に、あまり知識がなく、保険や時給と勤務時間など労働条件が曖昧なまま悪気もなくギグワークとして募集してしまっているケースもあります」
気づかず法律違反を犯している事例として、「給与を手渡しする」という職場は要注意。雇用会社側の脱税に関与してしまっているかもしれないのだ。
「働いてほしい人と働きたい人、双方の知識不足によって、トラブルが起こってしまっているのが現状。スキマバイトの情報を提供する業界内では、この事態を重く見て対策を進めてきました。2022年に採用情報を提供する事業者側が協働し、スポットワーク協会が設立されると、情報提供する仲介アプリ各社が続々と加盟。問題のある募集はすぐ削除するなど、トラブルにつながる情報が最初から載らないよう努力をしています」
さらに協会がリードして、業界内でのガイドラインを作成、関係省庁とも連携し、「優良事業者」の規格化を推進している。「コールセンター」も協会で用意し、トラブル事例を事業者に共有して再発防止に努めているが、利用者急増ゆえに、さらに万全なトラブル対策が求められているという。
【後藤さんコメント】「スポットワーク協会の協会会員であれば『単発バイト』募集、という判断基準になります。聞いたことのない職種名や仕事内容はしっかりクチコミを確認してから応募するようにしてください」
取材・文/オフィス三銃士
神戸大学大学院国際文化学研究科協力研究員 黒川伊織さん 博士号取得後、会社員として働きながら、休日は神戸大学の協力研究員として研究を継続。物価上昇に苦しんだコロナ禍には新たにスキマバイトにも挑戦し、その経験を雑誌『POSSE』にて「社会運動史研究者がスポットワークをやってみて」(2023年)として寄稿した。
一般社団法人スポットワーク協会 事務局長 後藤一重さん 大手人材会社に就職してから現在に至るまで、非正規雇用者の業務実態調査や立場改善に30年以上従事。現在は日本における新しい人手不足解消策を探る「スポットワーク」と「外国人雇用」の両公益法人事務局長として、社会課題解決に取り組んでいる。