「その呼ばれ方は恥ずかしいだけなんですが、どんなきっかけであれ、将棋を知ってもらえるなら、なんでもうれしいです」
そう言って、“西のイケメン王子”こと斎藤慎太郎七段は、はにかむ。昨年は初のタイトル戦(棋聖戦)に駒を進め、羽生二冠に挑んだ。若き才能は、指し手も顔立ちも美しい。
将棋との出会いは6歳。まだ保育園児だった。
「通っていた学習塾『公文』の授業で、読書をすることになって。本棚に200冊くらいあった中で、たまたま“引いた”本が、羽生善治先生の『将棋入門書』という漫画だったんです」
偶然は必然。父親と指し始めるようになったが、物足りない。自宅から最も近い将棋教室は、関西将棋会館だった。
「小学1年生から通い始め、2年生でアマチュア初段になりました」
プロへの決意は小学4年生のとき。ドラム、ゴルフ、水泳、受験のための学習塾にも通っていたが、自らの意思できっぱりやめたという。
「親心としては複雑だったと思います」
パートナーが欲しい
斎藤七段はひとりっ子。父親は関西でカレーチェーン店を経営している。
「御曹司? 全然そんなことないです(笑)。ただ、継がせたい気持ちはあったと思いますが、やりたいことをやらせてくれた。本当にありがたいです」
自ら畠山鎮七段に手紙を送って、弟子入り。小学5年生で奨励会に入り、研鑽の日々が続いた。
「高校卒業までにプロ棋士になるという目標は、果たすことができました」
今後の目標は、遅くとも2〜3年でA級棋士。もちろん、初タイトルも視野に入れている。
「やはり、遅くとも2〜3年で大きな結果を出したいです。昨年のタイトル戦では不安がどうしてもあって。結果はしかたなかったですね。でも、1度経験したので、自分もタイトルにそれほど遠い位置ではないと思っています」
現在はひとり暮らし。料理が好きで、最近は常備菜をたくさん作っていると笑う。サポートしてくれるパートナーが欲しいと思うこともあるそうだ。
「どちらかというと、心のほうのサポートですね。勝負ごとをやっている人は、時に孤独を感じるので。それをいちばん理解しているのは同じ競技者ですが、ライバルでもあるので話せない。そんな心の内などを話せる方が欲しいなと思いますね」
相手は、将棋のことがわかっていないとダメ?
「ルールまで知らなくていいんです。ふんわりと将棋に興味を持ってくれていたら、僕はうれしいです。逆に、あまりに精通していて“あれは悪手でしたね”なんて言われたら、怖いかもしれません(笑)」
好きな女性のタイプは?
「気配りのできる方はいいなぁと思います。(負けた)対局後の声のかけ方などは、難しいと思うので。そんなときの棋士は怖いですからね(笑)」
棋士は、冷徹で残酷なまでの勝負師でもある。こんなに穏やかな斎藤七段であっても、だ。
「負けた後は、家で物に当たらないとも言い切れないほど気持ちが落ちているので。僕は心が落ち着くまでは、遠回りして歩いて帰ります。僕が言うのもアレですけど、正直、棋士のお相手になる方は大変だと思いますね」
藤井六段をどう見てる?
プロ棋士になった後、短期間で棋力が飛躍的に上がることはないので強くなっている実感を得るのは難しいんです。でも、藤井くんは指すたびに力を上げているように見える。将棋に真摯だからこそ、あんなに“きれいな手”が続いているんだと思います。
僕はどこか勝敗以上にそこにこだわり、追求しているんですが、藤井くんの場合は意識せずとも“よい方向に”と思って指した手が美しい。今のところ底知れないので、早めに対戦したいですね。今の藤井くんを知りたいし、もっと強くなったときにも対戦したい。ただ、今の藤井くんと大一番で勝負するのは怖いと思う棋士は多いと思います。脅威の存在ですね。
斎藤慎太郎七段◎棋士番号286。'93年4月21日生まれ。奈良県出身。180cm、A型。順位戦B級1組。'04年9月奨励会入り、'12年4月に四段。'15年度、'16年度勝率一位賞