児童福祉法の改正で示された「新ビジョン」
2016年に児童福祉法が改正され、子どもは権利の主体になった。子どもの最善の利益が優先して考慮されるよう努めることが示された。子どもの育ちが家庭内で守られない時、社会の支援が求められる。
この改正を基に翌年’17年8月には、社会的養育ビジョン(以下、新ビジョン)が発表された。新ビジョンでは、社会的養護を必要とする子どもたちの里親委託率を、5年以内に75%まで増やすという数値目標で話題になった。現在、親元で育つことができない子どもたちは、施設入所が中心で里親委託は2割未満である。
その上で、新ビジョンの最も重要な柱は、在宅支援に、お金と人材を投入することが示されたことだ。
現在、児童相談所への児童虐待通告は2016年度で12万2578件。しかし、そのうちの95%の子どもたちが自宅に戻り、「見守り」になる。その子どもに措置費が投入されるのは、状態が悪化して、親子が分離されてからだ。虐待の通告だけでは、子どもの最善の利益は保証されない。新ビジョンはそんな家族に、措置費をつけて、ケアを入れていくという仕組みだ。
地域の里親に委託されれば、同じ学校に通い続け、友達と遊ぶこともできる。週に一度は、実親と過ごすことできる場合もあるかもしれない。
3つの虐待事件は、どのケースも、少なくとも一度は公的機関につながっていた。しかし、社会的なケアには結びつかなかった。私たちの社会は今後、力の弱い親たちを支え、子どもたちの見守りを続けることができるのか。これからどのように新ビジョンが育っていくか、注目していきたい。
【文/杉山春(ルポライター)】
<プロフィール>
杉山春(すぎやま・はる)◎1958年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌記者を経てフリーのルポライター。『ネグレクト 育児放棄―真奈ちゃんはなぜ死んだか』(小学館文庫)で第11回小学館ノンフィクション大賞受賞。著書は他に『ルポ 虐待 大阪二児置き去り死事件』『家族幻想 「ひきこもり」から問う』(以上、ちくま新書)、『満州女塾』(新潮社)、『自死は、向き合える』(岩波ブックレット)など。