物語は、愛した男性・麦との思いがけない別れから2年半後、麦とそっくりな容姿をした亮平と出会ってしまった朝子の心の移ろいを追う。29歳までを演じたが、同居生活を送る男女の仲睦まじい日常、激しい気持ちのぶつけ合いなど、自身の実体験だけでは追いつかないことも多かった。
支えてくれたのは東出昌大をはじめ、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知らの共演者。そして濱口竜介監督だった。
「初めてのヒロイン役で、こんなにセリフがあるのも初めてだったんですけど、撮影に入るまでの間に、東出さんが頻繁にみなさんをご飯に誘ってくださったり、“役柄上、タメぐちで話そう”など、関係性を作ってくれて。私も“でっくん”って呼ばせてもらいました(笑)。
濱口さんから言われたのは、“みんなに頼ればいいから”と。“何も考えないで、ただみんなを見て、見ることができない状態なら声を聞いて、みんなを頼ってください”と言われて。私はその言葉をきっかけに、こうしようとかああしようとかまったくなく、いい意味で無の状態で現場にいられて。ただみなさんのお芝居を見て、感じたものを感じたままに出せたような気がします」
ある意味挑戦だったであろう、美しくも濃厚なキスシーンも印象的だ。
「そうですね。初めてでした。しかもクランクインの日から……。緊張していないわけではなかったんですけど、撮影現場では不安が一切なくて。朝子として私もすごい好きだったので(笑)。好きという気持ちのままに臨めました」
朝子という女性は、劇中のセリフを借りれば「ふわふわしているように見えて、思い立ったら一直線」だという。それは演じる彼女の嘘のない魅力にもつながっている。自分だったら誰と一緒に、どう生きていきたいのかーー。その命題に揺れる女性の話でもあるが、いま唐田えりか自身が愛したい人は?
「異性となら、ですか? うーん、やっぱり安心感がある人がいいですね。一緒にいて頼れますし。私がけっこう話すことが好きだし、話をしてくれる人も好きなので、いつも優しい人がいいですね」