テレビの視聴者やトークショーにたまたま出くわした一般客は、その多くがまず「あのSMAPの森くん」という人物像を重ねるはずだ。
そこには「レーサーとしての自分を見てほしい」と願っていた森の思いだけでなく、かつてアイドル時代の森且行が「自分はグループに必要ない」とまで思い悩んでいたコンプレックスへの想像も、おそらく一切存在しないだろう。
しかし今の森はそれもすべて承知していて、その上で、芸能人だった自分に向けられる全国の好奇心の中を、“広報大使”としてたった1人で駆け回っている。
自分が人生を賭けると決めたその場所のために、40代になったオートレーサーの森且行は本業のレースだけでなく、解消できないままに終わったかつてのコンプレックスとももう一度向き合いながら、地道で必死な戦いを、もう何年も続けているのである。
ちなみに森は2018年の今年、久しぶりにオートレース以外の外部広告にも登場した。飲料水「南アルプススパークリング」(サントリー)の特設ホームページには、オートレーサーとして22年目の春を迎えた彼の最新の言葉が掲載されている。
《でもまだまだ、これからです。迷惑を掛けた仲間たちに、「必ず日本一になる」って言って出て来たんです。仲間たちが頑張ってる姿を見ると、自分も負けられないって思うんです》
実直でアドリブはきかないけど、人一倍の努力家。そんな森がいくつになっても真摯に人生と向き合い続けていられるのは、オートレースへの変わらぬまっすぐな思い、そして、やはり青春の苦しみも喜びも共に駆け抜けた”仲間たち”の存在あってこそ、なのである。
乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。主な寄稿に『HELLO! PROJECT COMPLETE ALBUM BOOK』(CDジャーナルムック)等。その他、雑誌『CDジャーナル』『EX大衆』、ウェブメディア『マイナビニュース』『KAI-YOU』などで執筆。著書に『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)がある。Twitter/ @drifter_2181