「参加費は2000円。2年ぶりの外出でした。そこでかけていただいた言葉が今でも忘れられないのですけれど、“ひきこもれる勇気があるんだよ”って。初めてひきこもりを肯定してもらえました」

 外に出る最初の一歩。人間関係に対する疲れや恐れを取り除くこと。そして、

「ひきこもってることを肯定していきましょう。親が“いつまでそんなことをしているんだ”と言っても、本人がいちばんよくわかっています。ひきこもり=悪ではない。

 人はある程度エネルギーがないと外に出られないので、家庭の中でまず生きるためのエネルギーを蓄えることが必要です。親は早く働いてほしいと思いがちですが、その前に生きること。働くことはゴールではないので」(前出・深谷さん)

 “ひきこもり女子会”など女性のひきこもりを支援する、一般社団法人『ひきこもりUX会議』の代表理事・林恭子さんは、

ひきこもり女性の実態調査をまとめた資料の自由記述には切実な声が
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「ひきこもり支援などができて約20年になりますが、行政や民間団体の支援はほぼ就労支援なんですね。就労を目的としてしまうと、ひきこもり問題はうまくいかない」

 ときっぱり。焦りは禁物で、

「就労支援よりもっと手前の、まずは外に出るとか、人の中で3時間いるとか、電車に乗るとか、人との会話の練習をするとか、そこからなんです」

 ここに3人の、モデル事例がある。前出・深谷さんがソーシャルワーカーを務めるKHJの調査・研究事例報告書、および愛知教育大学の川北稔准教授の調べによる実態が映し出すのは、脱ひきこもりに向けたさまざまな取り組みだ。

CASE 1/43歳・女性

 70代の父親と2人暮らしの女性(43)は、中学校の不登校がきっかけでひきこもり生活に入った。母親と兄は他界し、家事は父親の担当。食事は部屋の中でひとりで。父親とは会わない。

 月に1万円の小遣いをもらい、インターネットショッピングで買い物をする。パソコンやスマホのゲームをして過ごし、コンビニなどに外出することはある。年に1度、美容室に行く。

 父親からNPO団体に相談があり、支援がスタートした。病院の受診を相談所の支援員がすすめるが、本人は逡巡。1年間の説得の末に病院に行くと、検査結果はアスペルガー症候群。

 それでも支援を受け続けた結果、就職できる道があることに魅力を感じるようになった。父親と会話を交わし、ときどき一緒に食事をするまでに回復したという。