CASE 2/50歳・男性
母親(83)と2人暮らしの男性(50)は、大学卒業時の就職活動に失敗した25年前から、ひきこもりに。生活費は母親の年金と、病死した父親、事故死した兄の保険金の取り崩し。年金の半分を母親から渡され、外出も多く、携帯電話も2台所有していた。
40歳を過ぎたころ、「便利だから」と言って母親を説得し、クレジットカードのキャッシングで80万円ほど使い込んだが、結局、母親が返済した。
日常的に暴力をふるうようになったため、母親は介護付きの住宅に引っ越し。母親の仕送り12万円で生活していたため生活に困窮し、NPO団体に相談。
プライドもあり生活保護の受給を拒否していたが、暮らし向きはいよいよ困窮し、家賃も支払えず、スーパーで食品を万引きする始末。現在は生活保護の就労支援員と一緒に就職活動を行っている。
CASE3 54歳/男性
29歳のとき、仕事のトラブルが原因でひきこもりになった男性(54)は、1000万円ほどあった両親の遺産が生活の支えだ。46歳のときに父親、50歳のときに母親が亡くなり、葬儀では長男として喪主を務めた。
月に1度、弟が訪ねると玄関はゴミの山。将来のことを意見すると、
「親の遺産がなくなったら死ぬ」
と投げやりな態度をとったという。自殺をほのめかしたり、弟に金の無心を断られると落ち込んだりすることもあった。
「何か仕事がないか」
そう弟に連絡してきたことをきっかけに、弟がNPO団体へ行くことをすすめ、生活を立て直すことに着手した。現在、本人は、毎日家を出て就労準備に励んでいるという。遺産はまだ100万円ほど残っているため、なくなるまでに就職を目指している。
「1回ドロップアウトしたら戻れない社会になっている」
と、寛容さの足りない日本を憂える前出・林さんは、
「今の社会は、ひきこもりの人が出ていきたい場所とは思えない。ちょっとでも失敗すると、ものすごく責められる。ひきこもりがいる場所は野戦病院で、傷ついた兵士を治療しているようなもの。治療して、社会という戦場に送り出したら今度は死んでしまうかもしれないという視点も大切だと思います」
就労を急かすことなく寄り添い、息の長い見守りを続ける支援がひきこもり解決の第一歩となるはずだ。